そこは、平和な国でした。
緑の大地は美しく、町には笑いがみちあふれ、人々はたいそう幸せでした。
ところが、ある日、まっ黒な雲が現れて、空を覆ってしまいました。
作物はとれなくなり、倉庫に蓄えた食料も、みるみる内に減っていきます。
王様は、お触れを出しました。
「下々の食料をとりあげよ」
貧しい暮らしの人々が、飢えて死んでいきました。
宮殿内の食料は、すぐに、なくなってしまいました。
王様は、お触れを出しました。
「下々の食料をとりあげよ」
普通の暮らしの人々が、飢えて死んでいきました。
宮殿内の食料は、すぐに、なくなってしまいました。
王様は、お触れを出しました。
「貴族の食料をとりあげよ」
宮殿内の食料は、少しだけ長もちしました。
貴族たちは大きな倉庫を持っていたからです。
けれど、宮殿内の食料は、やがて、なくなっていきました。
王様は、お触れを出しました。
「貴族の食料を没収せよ」
倉庫の食料を出し渋っていた貴族たちが、飢えて死んでいきました。
宮殿内の食料は、少しだけ長もちしました。
貴族たちの食料庫は、とてもとても大きかったからです。
けれど、宮殿内の食料は、やがて、なくなっていきました。
町に、人はいなくなり、貴族もみんな、いなくなり、国の中で人がいるのは、宮殿の中だけになりました。
けれど、大勢で食べるものだから、宮殿内の食料は、だんだん少なくなっていきます。
王様は、お触れを出しました。
「宮殿内の食べものを、全部ここへ持ってこい」
最後の食料をさしだして、王に仕える召使いも、バタバタ死んでいきました。
王様の妻と子も、次々死んでいきました。
風邪をひいても、診てくれるお医者さんがいなかったのです。
がらんと広い宮殿には、王様の他には、だあれもいない。
食べるものはどっさりあるのに、くる日もくる日も一人ぼっち。
「どうしてだろうな」
山と積まれた食事を前に、王様は首をひねります。もう、心配なんか、しなくていいのに、
「なんだか、ちっとも、おいしくないんだ」
〜 しあわせのありか 〜
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