【 thanks-SS.03-080303 】 『ディール急襲』第U部 第3章1話「心の在りか-06」終了時
〜 愛 読 書 〜
ゲルの片隅に、見るからに使い込まれたズダ袋が無造作に放り出してあった。
ケネルのザックである。開けっぴろげの上縁から、何かの端っこらしきものがはみ出ている。見れば、表紙の掛かった本のようだ。目敏く見咎め、エレーンは、ふと足を止め、しばらく、じぃっ、と見ていたが、
「……なんだー、又、あのつまんない本(ヤツ)か」
ちぇっ、とつまんなそうに舌打ちし、やれやれと首を振って歩き出した。
「面白いヤツなら、借りられるのにな」
ぶつぶつゴチてるその顔は、すっかり興味を失くした様子。すたすたゲルを横切って、出入口へと向かっている。
それを追う密かな視線が片隅にあった。荷物の持ち主、ケネルである。 ケネルはしばし、無関心な顔を装いつつも、彼女の言動をそわそわ窺っていたのだが、荷物から十分に離れたのを見計らい、そそ……っ、と陣地を立ち上がった。彼女の背中を警戒する不自由なカニ横歩き歩行で、自分の荷物にさりげなく近付き、素早く前にしゃがみ込む。そして、
「……ふっ。危なかった」
額を拭って安堵の溜息。
エレーンは日差し差し込む靴脱ぎ場で、膝を抱えてしゃがみ込み、「 ごはんよー 」 となどとのたまいながら、小鳥にパン屑撒いている。ボチボチやってる丸まった背中を薄暗いゲルから確認すると、辛くも荷物を死守したケネルは、問題の
" ブツ " をザックの奥の、奥の奥の奥底へとグイグイ力技で押し込んだのだった。
そう、" 表紙と中身の違う本 "を。
お粗末さまでございました。 (*^o^*)
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