【 thanks-SS.08-091022 】 『ディール急襲』第U部 第3章6話 「 恋敵02-10 」 終了時
 
 

愛 読 書 02

  
 早朝の冷気に吹かれて日課の見回りをつつがなく済ませ、朝食の用意を頼みに座長のゲルに足を向ける。その他の用事を一通り済ませて、ケネルはゲルに戻ってきた。
 見回りの道すがら、ツラツラ考えていたのだが、やはり、さっぱり記憶にない。つい今しがたまで 「 この子のお父さんはいませんかー? 」 と宿敵・海ボウズ星人の迷子の親を探し歩いていたケネルは、地球の平和をつつがなく守って今日もスッキリせいせいのお目覚めである。
 何の気なしにフェルトを払うと、件のゲストが、びくり、と飛び上がって振り向いた。「お、お帰りなさ〜い」と引きつった笑み、チラチラこちらを盗み見ている。不審に思い見ていると、そわそわしながら目を逸らしたりするので、「どうかしたのか」と声をかけた。すると、「──か、顔洗ってくるねっ!」と靴脱ぎ場の脇を通り抜け、そそくさ外に出て行くではないか。
「あ?──おい」
 はい、どいてどいて! と強引に脇に押し退けられて、ケネルは唖然と立ち尽くした。潰れたサンダルぱたぱた鳴らして脱兎の如く逃げ去る背。
「……アレの考えることはよく分からん」
 普段ならば、嫌だと言っても寄ってくるのに。
 ケネルは緩々首を振る。釈然としないながらも、とりあえずは靴を脱ぎ、寝床を畳んでしまおうと自分の陣地に歩き出す。寝床の横で背を向けて何かコソコソしていたようだが──。
「──あ! まさか!」
 嫌な予感に苛まれ、とっさに戸口を振り返る。また何か仕出かしたのか、あの女!
 今度は何だ、と焦って室内を見回すと、壁際に置いたザックの様子が案の定おかしい。慌てて駆け寄り引ったくる。
 ……異様に軽い? 
 取り上げた跡をふと見れば、壁にゴチャっと何かが一緒くたに積まれている。よくよく見れば、見覚えのある品々だ。
「漁ったのか!?」
 愕然とケネルは絶句した。荷物がケチョンケチョンに荒らされている。例の物まで交じっている。グシャグシャに丸めて無残に放置。調子に乗って引っ張り出してはみたものの畳むのが面倒になったのか? それにしても、彼女が何故、荷物などに興味を示すのか分からない。よく見れば、西の壁には雑誌がひしゃげて落ちており、床に散乱した諸々は、歯ブラシ、石鹸、タオルに靴下、パンツまである。
「……何がしたいのか、さっぱり分からん」
 肩を落として、ケネルはげんなり首を振る。溜息と共にザックの前にしゃがみ込んだ。仕方がないので散乱した荷物を詰め直す。タオルに靴下、一昨日洗濯し損ねたパンツ──。ふと手を止め、くんくん匂いを嗅いでみる。ふむ、と頷き中に入れた。壁から専門誌を取り上げて、バレたと思しき手軽な娯楽本もついでに回収、はっ、と荷造りの手を止めた。
 詰めたばかりの諸々を、一転ぽいぽい外に掻き出す。大至急ザックの底を覗き込んだ。片手を突っ込み、底のチャックを、チー……と開け、蓋状になった底を上げる。上げ底の下に隠しておいたブツの存命を確認し、額の汗をホッと拭った。それを元の場所に安置して、チー……とチャックを元通りに閉めた。
 ケネルは再び隠蔽したのだった。表紙と中身の違う本を。
 
 
 
 
 
 

 お粗末さまでございました。  (*^o^*)


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