【 thanks-SS.09-091213 】 『ディール急襲』第U部 第3章8話「虜囚」1 終了時
 
 

朝の食卓・顛末記

 例によって例の如くに食事に飽きたエレーンは、口に銜えたフォークの柄をぷらぷら上下に動かしながら、ほけっとそれを眺めていた。
「それどけてー」
 既に元の位置から移動しつつある"それ"を、ファレスのフォークが、はっし、と押さえた。素早く乗り出した野良猫が、顔を上げ様、巻き舌で凄む。「ざけんなクソガキ。こっちは俺の陣地だろ」
 取り押さえたフォークの先で、ぐい、と手前に引き寄せる。だが、ウォードも、ぐい、とすかさず引き戻す。若干不服気にのんびりと言った。「さっき、ファレスも、こっちのトマトとってたろー」
 皿の上には一つ残った肉団子、そして突き立つ二本のフォーク。ファレスがギロリと目を向けた。
「いいか、クソガキ。世の中ってのはなあ、早いもん勝ちにできてんだよ」
「なら、今のはオレの勝ちってことじゃん」
 野良猫は、うんにゃ、と首を振る。「いいか、クソガキ。世の中は弱肉強食っつってな、昔からそう相場が決まってんだ」
「なんか、さっきと言うこと違うしー」
 外では、チチチ……と小鳥が爽やかに鳴いている。朝の食卓を囲っているんである。面子が一人増えた円陣は、暴飲暴食を推奨する野良猫の小言を除くのならば、ごくごく穏やかな食事風景だった。確かにさっきまでは。
 ところが、飛び交う罵倒もなんのその一人黙々と食していたケネルが、食べ終えた食器を取り纏め、そそくさゲルから出て行った途端、突如、仁義なき戦いが勃発したんである。
 問題の肉団子は二本のフォークで押さえつけられ、ピタリと中間で停止したまま、全くピクリとも動かない。ブツを差し押さえた野良猫の必死こいた難癖せっとくとウォードのもっとも至極な応酬は、その上で淡々と繰り広げられている。ブツ自体は、ぴた──と停止したままであるが、それぞれの得物には結構な力がこもっている模様。
 エレーンは、はあ、と脱力しつつも、両者の顔をやれやれと見た。
「んもう。喧嘩しないで半分こにすればいいでしょー」
 元凶を取り上げようと、皿に手を出す。だが、途端に左右から「引っ込んでろ」と言わんばかりのブーイング。そういう決着のつけ方は、どうやら邪道であるらしい。
 おのおのフォークを突き立てて、二人は硬直したまま、ぐぬぬ……と睨み合っている。これでは、いつまでたっても埒があかない。ふーむ、とエレーンは対峙する左右の顔を見る。むんず、とそれを摘み上げ、ぽい、と口に放り込んだ。
「「 ──あっ!? 」」 
 これにて本件、一件落着。めでたしめでたし。
 
 
 
 
 
 

 お粗末さまでございました。  (*^o^*)


( INDEX / ディール急襲TOP / Side Story TOP )


オリジナル小説サイト 《 極楽鳥の夢 》