☆ ばとんSS 120927☆
〜 エレーン争奪杯! よた者戦記 〜
このページは、お遊びです (^0^;
む? とケネルは振りむいた。
お日さまぽかぽかの草原を、お手々つないで歩いていくエレーンとウォードの姿を見つけたのだ。
(ちっ。あの野郎。抜け駆けしやがって。あんな涼しい顔をして油断も隙もあったもんじゃないな。大体あいつは、いつも横からいいとこどりを──)
「なんか言ったか? ケネル」
隣を大あくびで歩いていたファレスが、「あ?」とケネルを振りむいた。
「……いや、なんでもない」
ケネル隊長、咳払い。
んんん? とファレスが振り向いた。
「ちっ。あの野郎!」
拳を握り、ギリギリ睨む。件の二人を見つけたようだ。
「ウォードは危険だ。排除しよう」
もっともらしく提案するケネル。
「たりめーだ! あんな猛獣、野放しにできるか」
うむ、とケネルはうなずいて、おもむろにウォードに指をさす。「やれ」
「おう」
ファレスは地面に片膝をつき、すちゃ、とそれを肩に構えた。
どこから出したか、ギラリと光るロケットランチャー。そして
ちゅどーん!
もうもうと辺りに立ちこめる白煙。
「──やったか!」
ぱらぱらぱら……と舞い散った土が振りそそぐ中、硝煙の先に目を凝らす二人。
目標地点で、パカリ、と馬が脇にどいた。
ウォードの宝物・愛馬のホーリーだ。その馬体の後ろから、のっそり現れた一つの人影。
「ありがとー。ホーリー」
ウォードが馬の頭をなでている。
「……む。外したか」
舌打ちで、密かに指を鳴らすケネル。
焼け焦げた草むらから、むくり、と何かが起きあがった。
真っ黒になった顔をあげ、エレーンは、ぎろり、と二人を睨む。
「なあにすんのよっ! あんたたちぃっ!」
「む。まずい。バレた。撤退するぞ」
「──お、おう!」
そそくさ逃げ出すケネルとファレス。
「待ちなさあ〜い!」
拳をふりあげ、ぷりぷり二人を追いかけるエレーン。
「……いきなり総攻撃は、やはり、よくない。被害が甚大だ」
引っかかれた腕の傷を、ケネルはふーふー吹きなだめる。
「初心に戻って、もっと原始的な方法でいこう」
同じくエレーンに引っかかれて傷だらけのファレスは、顔をしかめて一瞥した。「もっと原始的な方法って、具体的にはどうすんだよ」
「猛獣を捕獲するなら、落とし穴だろ」
うむ、とうなずきあい、せっせと草原に穴を掘る二人。
「深く掘れよ、ファレス。簡単に脱出されたら、足止めにならないからな」
なにせ、ウォードは背が高い。
そして、色々ほとばしる情熱のままにシャベルでせっせと土を掻き出し、十分が過ぎ、二十分が過ぎ、三十分が過ぎ去った。
「ど、どーだ! これで出てこられねえだろっ!」
ずさっ、とシャベルを地面に突き立て、ファレスはぜえぜえ額をぬぐう。
穴の縁から頭を突っこみ、ほー、と首尾を検めるケネル。
「……上出来だ」
象が三頭ほど、すっぽり入る深さである。
そして、エレーンとウォードが、にこにこ、こちらにやって来た。
相変わらずの仲良しこよしだ。
ほふく前進で草むらに伏せたケネルとファレスは、手に汗握って首尾を見守る。
やがて、無造作に歩くウォードの足が、件の落とし穴にさしかかり──ふと、ウォードが足を止めた。
「あっちから行こー」
あらぬ方向を指さして、隣のエレーンを振りかえる
「そお? 別にいいけど」
すたすた、コースを変える二人。
不吉なものを感じたらしい。
「落とし穴は駄目だ。ウォードは勘が鋭い」
残念無念のしかめっ面で、ケネルは腕組みで首を振る。
「なら、どうする」
散々穴を掘らされて、へとへとになりつつ苛立つファレス。
「こうなったら、最後の手段だ」
きりり、とケネルは振り向いた。
「標的を奪還する」
「おう!」
ばっ、と地図を振りひろげ、額を寄せあい、地理関係を確認する二人。
「ファレス。ウォードの目を引きつけろ。そして、可能な限り引きまわせ。その隙に、俺があんぽんた──標的を速やかに奪還する」
「ウォードの相手はてめえがしろよ!」
「隊長命令だ」
「きたねえぞケネル!」
互いに役割を押し付け合い、散々もめた二十分後、ファレスは、ちっと舌打ちしつつも、すたすた、そちらに近づいた。
足を向けたその先には、平和に草を食むホーリーが。
日ざしに輝く茶色の馬体を、ファレスはさりげなく、ぽんぽん叩いた。
「いつ見ても、うまそうな馬だ」
ぎょ、と長い首を振りあげて、ホーリーが首を振って後ずさる。
助けを求めるいななきを聞きつけ、ウォードが怪訝そうに振りむいた。
「エレーン。ちょっと待っててくれるー?」
「いーけど?」
エレーンはこっくり、後ろ手でうなずく。
そうして待つこと十秒後、
「もらった!」
ひょい、と後ろから、エレーンを引っかかえる人影が。
そのまま森の彼方へ駆け去っていく。
ケネル隊長、奪還成功。
だが、ホーリーを取り戻してウォードが戻れば、エレーンの消失に即刻気づくこと請け合いだ。ゆえに、ウォードを完全に振り切るには、追跡をまいて目をくらます必要がある。
具体的には、とあるポイントで、標的をファレスに受け渡す。これには、ファレスがごねて最後まで納得しなかったという経緯が無きにしも非ずだが、ケネル→ファレス→ケネル──とラグビーボールのごとくにパスし合い、最終的には煙にまこうとの魂胆である。
だが、ケネルには(タヌキなだけに)腹案があった。
このままこっそり道をはずれ、姿をくらましてしまうのだ。そうして、ポイントで待機するファレスは、まんまとそのまま置いてけぼりに──
「ちょっと!? なにやってんの!? ケネル!?」
顔を引きつらせるエレーンを脇に引っかかえ、ケネルは風の如くに疾走した。木の根を蹴りつけ、ツタを使ってターザンの如くに宙を飛び、泥を蹴散らし、水たまりを軽々飛び越える。さあ、ここで、あの大木を左に曲がれば──
背後に、気配が現れた。
がさがさ、木立が打ち鳴っている
「──ウォードか!」
肩越しに追手を振りむき、ちっとケネルは舌打ちした。もう、追いついたらしい。
こうなっては致し方ない。待機しているファレスに予定通りに受け渡し、次の受け渡しポイントで、再びこれを受け取ってから、改めて道をそれればいい。
瞬時に軌道修正する間にも、前方の木立の陰から、すっと人影が現れた。
全力疾走を続けつつ、ケネルは顔を振りあげる。
「ファレス! ぱすっ!」
ケネル隊長、両手をつき伸ばして渾身のパス。
顔を引きつらせたエレーンが、ひょ〜い、とラグビーボールの如くに宙を飛び、向かいの懐にすっぽり収まる。
それを両手で受けとって、ウォードがにっこり笑いかけた。
「ありがとー、ケネル」
え……? と振り向いたケネルの背後に、茶色い馬体のホーリーが、にっか、と笑って現れた。
ケネルはぶちぶちごちつつ探していた。むろん、相棒のファレスを、だ。
あの交代ポイントで奴がちゃんと待機してたら、オウンゴールをやらかすなどという痛恨のミスは犯さずに済んだのだ。まったく、あの野良猫は、どこで油を売っている──。
そうして見つけた。相棒を。
「ファレス。そこで何をしている」
腕を組み、なにやってんのよ、と見下ろすケネル。
「──うるせえっ!」
どこに引っかかったかファレスはあお向きにひっくり返り、深い穴の底で、じたばた毒づく。
「ウォードを引きまわせっつったのは、てめえだろっ!」
そうしてウォードを引きまわしに引きまわした挙句、己が落ちたものらしい。
自分で掘った落とし穴に。
そう、ファレスは急には止まれない。
お日様ぽかぽか草の上、二人はぶっすり不機嫌を決め込みながら、あぐらで、ぷかぷか喫煙していた。
ちっ、とファレスが舌打ちする。
「よりにもよって、なんでウォードに渡しやがる!」
「お前がポイントにいなかったからだ」
むしろ、なんで穴に落ちるんだか知りたいものだ、と横目でケネル。
「ちっ! あの馬、急に人の前を横切りやがってよ」
前方不注意で落っこちたファレスは、苦々しげに顔をしかめる。
うむ、とケネルもうなずいて同意。「なんか、何気に運がいいんだよな、あいつ」
何を隠そうあの馬には、ケネルも騙し打ちを食らったんである。
ぶつぶつ紫煙を吐きながら、ファレスは苦々しげに顔をしかめる。
「にしても、ポイントでお前が引き渡していればよォ。そうしたら俺は左に曲がって──」
「おい。なんか言ったかこら」
む? とケネルは振りかえる。何気に同じことを考えていた模様……。
不意に、背後に影がさした。
「もー。あんたたちはぁ!」
見れば、両手を腰に、エレーンが仁王立ちで立っている。
「なんで、ノッポ君にいじわるすんのよ!」
「──なんでって、おめえ」
ファレスは苦虫噛みつぶし、そっぽを向いて、やさぐれる。
ぷい、とケネルもそっぽを向いた。「……別に」
「はい」
憮然と目を反らした敗者二人の肩先から、すっ、と何かがさし出された。
見れば、緑色した葉っぱの束。
疲労困憊で大儀そうに見あげた二人を、エレーンはやれやれと見おろした。
「しょーがないわねー。あんたたちにもあげるわよ」
「……おう」と一応受けとって、胡散くさげに眺めるファレス。白つめ草の葉、クローパーだ。
ケネルがいぶかしげに振り仰いだ。
「──なんだ、これは」
「知らないの? 四つ葉のクローバーよ。見つけると幸せになれるんだって。ノッポ君が見たいって言うから、一緒に探してあげてたの」
ファレスは顔を近づけて、くんくん匂いを嗅いでいる。
その横で、あん、と大口を開けるケネル。
エレーンはあわてて、二人の手から引ったくった。
「なんでも食べようとするんじゃありませんんっ!」
ともあれ、
緑の草原はお日様ぽかぽか、今日も何気に平和なのであった。
おしまい。
お粗末さまでございました。 (*^o^*)
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