☆ X'mas お遊び企画 ☆
〜 とある副長のクリスマス 〜
「……なんでえ、これは」
枝からぶら下がった"それ"をつまんで、ファレスはじろじろガンくれた。
にい、と笑った手の平サイズのトナカイだ。
金にかがやくまん丸い玉が、ピカピカ目の前で光っていた。綿やら鈴やらリボンやら、枝にてんこ盛りでぶら下がっている。
「なんの真似だ。たく」
なぜか巨大なもみの木に、ごってり飾りつけがしてあった。赤のリボン。緑のリボン。金銀モールが枝に渡され、ずっしり重そうなてっぺんには、これまたピカピカの星飾り。おまけに枝は、黒い紐でぐるぐる巻き。
「あ? なんでえ、この紐は」
なんの気なしに、電飾コードを、ぐい、と引っ張る。
ギギ──と不穏な音がした。
あァ? とファレスはガンくれて、あたふたその場を飛びすさる。
「──な、なんでえ、あれは」
ずずぅん、と倒壊した木はそのままに、そそくさ犯行現場を後にする。
どきどき飛び跳ねる胸を押さえて、いぶかしげに見まわした。
「たく。どこなんだ、ここは」
見たこともない町並みだ。
どこかで見たような気もするが、よく見りゃ細部がことごとく違う。石畳もないのに地面はのっぺり、まんべんなく均されているし、建造物につきものの煉瓦の壁も見当たらない。なにか、いやにつるっとした壁だ。
通行人も妙な服で歩いているし、そもそも、街全体が異様に明るい──ふと足を止め、塀の向こうを振り向いた。
六、七人もいるだろうか、左手にある人けない空き地で、チンピラ風情の男たちが、塀に向かってたむろしている。
その背の向こうに、赤い色彩が垣間見えた。誰かを囲んでいるらしい。赤ってことは、相手は女か。
「おう。てめえら。何してんだ」
片隅を取り囲んだチンピラが、ああん? と一斉に振り向いた。
「……あ? なんだァ? あの女男は」
「なんだ、てめえは。邪魔する気かよ」
「放してやれって言ってんだよ」
人壁の向こうを顎でさし、ファレスはぶらぶら空き地に踏みこむ。
チャッと一人が鋭利なナイフを振り出した。
目をすがめて顎をしゃくる。「やんのか、コラア!」
「おう、上等だ」
にいっと笑って、ファレスはバキバキ指を鳴らす。
「相手をしてやる。かかってこいや!」
うずうずしていた副長ファレス、腕まくりで、ほいほい参戦。
超得意分野である。
そうして、かれこれ三分後。
「たく。つまんねえな」
ちっとファレスは舌打ちした。
「よくも吹っかけたな、あんなんで。あれじゃ、うちの下っ端の方が、まだマシじゃねえかよ」
諸手をあげて逃げ去るその背を、手持ち無沙汰な顔で見送る。不完全燃焼なんである。
これじゃ体あっためる間もねえじゃねえかよ……と行き場のない手をニギニギし、塀の隅でうずくまる赤い服に振りかえる。
腕に手をかけ、引っぱりあげた。
「おう、じいさん。大丈夫かよ」
胸の下まで覆い隠す、ふっくら見事な白ひげだ。
カツアゲされていたじいさんが、痛てて、と苦笑いで起きあがった。
「あのな? じーさん。他人の好みをとやかく言いたかねえけどよ。ジジイのくせしてそんな派手な成りで外に出るから、あーゆー質の悪りぃのに目ぇつけられんだぞ?」
黒いブーツに、白の毛皮に縁取られた赤い服。ちなみに、先っぽに白いポンポンのついた赤い揃いのナイトキャップつき。
赤の上下に見事な白ひげ、ピカピカほっぺのじいさんは、困った笑いで白ひげをなでた。「そうは言われてもクリスマスじゃし、わしはサンタクロースじゃからのう」
「あ?」
さんたくろーす?
なんでえ、それは、とファレスはジロジロじいさんを見やる。「ま、いっか。──ああ、あれもあんたのか、ズタ袋」
ぷっくりふくらんだ白い袋が、塀の隅っこに落ちている。
片手で拾って渡してやると、じいさんは顔をほころばせた。「おお、すまんの」
「つか、その腹どーにかした方がいいぞ? ぷよっぷよのぽよんぽよんじゃねえかよ。そんなぷよんぷよんのデブっちょじゃ、夜襲かまされても逃げらんねえぞ?」
ファレスはとくと言って聞かせる。
「ほっほっほっ。そーかね、そーかね」
赤いズボンをぽんぽんはたいて、じいさんが、よっこいしょ、と立ちあがった。「さて。お前さんの望みはなんじゃな?」
「──ああ、いいって。礼なんかよ」
「願いごとを一つ、叶えてあげよう」
「……あ? じいさん、さっきから何言ってんだ。今ので頭打ったのか?」
「いや、そうではなくてクリスマスじゃからの」
「その "くりすます" ってのは、なんなんだよ」
じいさんは思案顔で、そうじゃな、と白ひげをなでる。「クリスマスというのはな、キリストの──」
「きりすとってのは?」
「あー。その昔、ベツレヘムで降誕したユダヤの救世──」
「ゆだやってのは、なんなんだ?」
「……。とある地名じゃ。それで、そこに東方の三博士が現れて」
「とーほーのさんはかせ?」
「……」
「……」
ちんぷんかんぷんのファレスを前に、じいさんはぜえぜえ絶句する。
「ま、まあ、お前さんは "ケーキを食べて、欲しいものがもらえる日" とでも思っておけば良いと思うぞ? 現にお前さんがここにいるのも、とある乙女の願いごとで──」
「んだと?」
ぎろり、とファレスが聞き咎めた。
「なら、こんな妙ちきりんな所に俺がいるのは、どっかのアマのせいだってことかよ。たく。余計な真似しやがって! 昼メシ食おうと思ってたのによ」
「あっ、いや、その……」
額の汗を拭きながら、じいさんはそそくさ目をそらす。「……あー……うー……本人は、もう忘れとるんじゃないかと思うぞ? そ、そんなことより」
ぎこちない笑みで振り向いた。
「お前さんは何がいいんじゃな? ゲームかな? スマホかな?」
じっとりファレスは藪にらみ。「だからなんでえ。そのすまほってのはよ。わかんねえことばっか言いやがって」
「ま、まあ、好きなものを言えばよい。ほれ。なんなりと」
うさんくせージジイだな、とファレスはじいさんをすがめ見た。
ふと何かを思いついた顔で、左上空をながめやる。ちらっと、じいさんを一瞥した。
「……なんでも、いいのかよ」
じいさんは微笑んで両手を広げた。
「おお、もちろんだとも。なんでも思い浮かべてごらん、お前さんの欲しいものを」
「そうだな。それじゃあ──」
ぼわん、と白い煙が発生した。
ぅおっ、とファレスは肩を引く。
晴れゆくモヤに目を凝らし、あんぐり口をあけて突っ立った。
「……なんで、お前がここにいんだよ」
ファレスは呆然と指をさす。
「じゃあ、お前が、俺の──」
欲しいもの?
ケネルがぱちくり瞬いて、きょろきょろ辺りを見まわしていた。なぜ、ここにいるのかわからない、という顔で。
衝撃の事実に打ちのめされて、ファレスは愕然とその場に突っ立つ。知らなかった。今日の今日まで、自分でも全然知らなかった。ならば、コレが
──欲しいものだということか!?
突如見知らぬ場所に出てしまい、ケネルは戸惑った顔で見まわしている。
「あっ、ファレス」
突っ立ったケネルの肩横に、ひょっこり、あの顔が突き出した。
「うっわ──やだなに寒っむぅい! なにここはーっ!?」
半袖の腕をがたがた抱いて、きょろきょろ辺りを見まわしている。エレーンの片手は毎度のごとくケネルの尻尾──もといシャツの裾を握っている。どうやら、くっ付いてきたらしい。
ケネルが。
三人そろって気づいてみれば、赤服のじいさんが消えていた。
ともあれ、三人横並びで、見知らぬ街をてくてく歩く。
ぶえっくしょい、と盛大なくしゃみで、ファレスがランニングの腕をさすった。
「ここの奴らは変わってんな。ずっと思ってたんだがよ。なんで、みんなして板っぺら見ながら歩いてんだ?」
板をつついている奴もいるし、あろうことか話しかけている奴までいる。
ファレスがあたふた押っ着せた革ジャンにすっぽり埋もれつつ、エレーンもてくてく真ん中を歩く。
「ほんとよねー。てか、なんで、あのおっきい板で、女の人が動いてるわけ?」
指さした先には、家電量販店の大型テレビ。
「馬も御者もいないのに、なぜ、客車が動いているんだ?」
どーなってるんだ、と隊長ケネルもしきりに首をかしげている。クリスマスイブの街中は、既に混雑、大渋滞。
「そんなことよりさー」
エレーンがくるりと振り向いた。
「ねえ。あたし、おなかすいたっ。どっかでなんか、あったかいもん食べたいっ」
「……てめえ。なんで、すかさず俺の方を向きやがる」
ファレスは口を尖らせる。開口一番、まずは飯の催促である。己が置かれた不可解な状況など、ものともせずに。
「あそこに飲食店がある」
目ざとく見つける隊長ケネル。
「おう! 行こうぜ!」
ずびっとファレスも鼻水をすすり、ガチガチ凍えて即座に賛同。夏服のランニング一丁に、ぴーぷー木枯らしはこたえるらしい。むしろ、一刻の猶予もない様子。
三人はほくほく足を向けた。そう、腹が減っては戦ができない。
店の前には「かるがもラーメン」の立て看板。
見よう見まねの不慣れな箸でアツアツの麺をぐるぐる巻いて、「んまいっ」とはふはふ、ひたすら食す。
店はまずまずの客入りで、座席は八割方が埋まっている。昼時は過ぎたのに大賑わい。
わいわいがやがや明るく活気ある店内で、ずずずっ……と三人、汁まで啜る。
「ふぃー。おいしかった! ごちそうさまあー!」
満面の笑みで、エレーンが「まんぷくまんぷくっ」と腹をたたいた。
いつもの調子でそっくりかえって丼をかっこんでいた隊長ケネルは、人心地ついて店内を見やる。
「しかし、ここはどこなんだ。付近の様子を見てくるか」
がたた、とビニール張りの椅子を引いた。隊長は偵察に行くらしい。見知らぬ土地は落ち着かないようだ。
「なら、あたしもあたしもっ!」
エレーンも手をあげ、立候補。
「あたしも街のなか見てくるね!」
ケネルの後にいそいそ続く。
エレーンの丼に張り付いたワカメのカケラをちまちま箸で引っぺがしていたファレスは、それをもぐもぐ咀嚼しながら、しょうがねえな、と顔をしかめる。
「おいこら、待てよ。俺がまだ食ってんじゃねえかよ。たく、落ち着きのねえ連中だぜ。──おう、勘定ここに置くぞ」
尻ポケットを片手で探り、紙幣を置きつつ席を立つ。
「へい、毎度あり〜!」
白い前掛けの店員が、いそいそ卓に寄ってきた。
ん? と目の前で札を広げる。
「……お客さん」
二人を追いかけ、ファレスはそわそわ戸口に向かう。「ああ、釣りはいらねえよ」
ぐい、と首根っこ引っつかまれた。
白前かけの店員が、ぴら、と渋い顔で札を振る。
「なんすかこれは。子供銀行券?」
……あ? とファレスは振り向いた。
無一文の副長ファレス、ラーメンすすって皿洗い。
洗剤の泡をもくもく立てて、次から次へとさげられるラーメン丼をガチャガチャ洗う。
そうして三時間が経過した。
「……たく。どこ行きやがった……あいつらは〜っ!」
しゃかりきに皿を洗い、よれよれになった副長ファレスは、店から持ち出したホウキにすがって、師走の街をよろよろ歩く。
んん? と顔を振りあげた。
「あっ! てめっ! あんぽんたんっ!」
ラーメン屋の上っ張りをこそこそガメて逃げてきたファレスは、びしっと人波に指をさす。るんるん歩いていたエレーンを発見。
「どこをほっつき歩いていやがった! なんで、とっとと戻ってこね──」
「ねー。ケネルはー?」
きょろきょろエレーンは辺りを見まわす。毎度のことだが、聞いてねえ。
「あのタヌキも戻ってこねえよっ!」
副長ファレスは涙目でがなる。おかげで一人で重労働。大量のお湯と洗剤で、手なんか、ふかふかにふやけているのだ。
ちらと店を覗いたものの、労働していたファレスを見、そそくさ街に舞い戻ったエレーンは、不思議そうに首をかしげる。「どこ行っちゃったんだろーねケネル」
「知るかよっ!」
飯代を完済するため、労働していたんである。
「ほんと、どこ行っちゃったんだろーねー」
「──だからっ、そんなの知らねえよっ!」
明るく賑わう師走の街を、二人てくてくケネルを探す。
あっ、とエレーンが指さした。
「ねー。あれ食べたい!」
通りに面したケーキ屋だ。
店先の台の上には白い箱が山積みになり、群がった客が列を作って買っている。人気店であるらしく、結構な人だかり。
憮然とファレスは片手を振った。
「なんでか金が使えねえんだよ」
そう、カレリア紙幣は使用不可。さっきのラーメン屋で実証済み。
エレーンはぶんぶん首を振る。
「たべたいたべたいたべたあい! だって、あんな豪華なの見たことないもん! ここで見逃がしたら、もう絶対食べられないもん!──あっ。あれもあれもっ! おっきい鶏肉っ!」
是非とも絶対あれも買え、とローストチキンに指をさす。
「……ち。しょうがねえな。ちっと待ってろ」
ファレスは舌打ちで踵を返した。
お姫さまは言いたい放題。こうなると、てこでも動かない。
完璧にだだっ子である。
そして、それから数分後。
ごった返すケーキ屋の店先に、サンタの服を着たファレスがいた。
「おう! うさぎ屋のケーキが今日は大まけ! なんと1500えんぽっきりだ!」
教わったとおりに口上を述べ、山積みのケーキを叩き売る。
副長ファレス、不本意ながらも町のケーキ屋でアルバイト。もっとも、元より日雇いが身上である。
とはいえ相手は、クリスマスで賑わうおびただしい人の出。我も我もとつめかけて殺気だった客を相手に、代金を受け取り箱を渡して「いつまで待たせる!」と文句を言われ、副長ファレスは大わらわ。
「──て、そこっ!」
む? と見咎め、びしぃっと列を指さした。
「ズルこいて横入りすんじゃねえええっ!」
やがて、日も落ち暮れて、シンシン冷え込んできた二時間後、
「──ち。すっかり暗くなっちまった。たく。はんてん一枚じゃ、さすがに冷えるぜ」
ラーメン屋から失敬した上っ張りの腕をさすりつつ、ファレスはやぶ睨みでバイト先を出た。サンタの衣装はあったかく、密かに狙っていたのだが、さすがにガメるのは無理だった。
ガタガタ震えあがって、向かいの「まくどなるど」に足を向ける。手には、連れ所望の苺のケーキ。
こっちこっちぃ! とウインドーで手を振るエレーンを引き取り、ケネル探しを再開し──
「あーっ! この野郎っ!」
混雑する人波に、びしっとファレスは指さした。
「どこほっつき歩いていやがった!」
ん? とケネルが振り向いた。
夕暮れの人ごみの中、ひょこひょこ、こちらにやってくる。
「ああ、いや。付近を探検──いや、探索していたら、道端でうずくまった老婆の姿を見かけてな」
「あ? 老婆だァ?」
「なんでも持病の癪が起きたとか」
「"じびょうのしゃく"って、なんだ?」
「さあ?」
ともあれ、それで負ぶって送っていき、自宅にあがってきたとのこと。
「そんなに遠かったのかよ、ババアのうちは」
「いや、茶でも飲んでいけ、と勧められてな」
それで、ちゃっかり居座って、ぬくぬくしてきたものらしい。
おい、とファレスは顔をしかめて指さした。
「なんか、いるぞ、お前の後ろに」
ケネルはふと気づいた顔で「──ああ、この人か」と振りかえる。
「帰りがけ、因縁をつけられているところに行き会ってな」
それで、やっぱり助けてきたらしい。
ん? とファレスは相手を見返し、溜息まじりに腕を組んだ。
「……じいさんよお。又かよ」
あの、カツアゲされていた、じいさんだ。
懲りねえな、とつぶやいて、お? とファレスはじいさんを見返す。「そうだ! あれ、もういっぺんやってくれよ!」
「あれって?」
きょとんとエレーンが振りかえる。
「それがよ。このじいさん、すっげえ技もってんだよ。なんにもねえところから、ぽっとケネルを出してみたりよ。だから俺は、今度こそ──」
「願いごとは、ひとり一回じゃ」
うんにゃ、とじいさんは首を振る。あんたはおしまい、ということらしい。
「はいはいはーいっ! だったら、あたし、やってみたあーい! いいでしょ? まだやってないしぃ?」
エレーンが手をあげ、立候補。
「ほう。お嬢さんは何がいいかの?」
「じゃあねえ! なにか、あったかいもの!」
ぎょっとしてファレスが振りかえる。だが、止める間もなくエレーンは即答。
「てめえ! ちったあ考えてから──」
どろん、と何かが、すぐ脇の三丁目児童公園に出現した。
遅かったか……と額をつかみ、ファレスはぶちぶち "それ"を見る。
「……なんでえ、あれは」
お? とケネルが目を向けた。
「あれはコタツというものだ」
うむ、とおもむろにうなずいて「ばーちゃん家にあった。ふとんの中があったかいミカンも食った漬け物も食った煎餅も──」と事の次第を詳細に報告。
やっぱり、ぬくぬくしたのみならず、いい思いをしてきたらしい。おばちゃんキラーのケネルであるが、あくまでなにげに運がいい。
ファレスはふるふるゲンコを握る。
「ひとが汗水たらして働いてる時に、てめえは何をやってんだよ! つか、なんでお前、猫なんだよっ!」
猫の頭をなでながら、ん? とケネルが振り向いた。
にゃあ、と鳴いた猫を見て、ファレスの顔に目を戻す。
「なんとなく」
エレーンの言葉につられたらしい。
そして、ケネルの場合、「あったかいもの」は「猫」だったらしい。
どうせなら、もっと、いいもの分捕れよ……とファレスはげんなり額をつかみ、気を取り直して振りかえる。
「おう、じいさん。今のはナシだ。いくらなんでも猫はねえだろ。もういっぺん、やり直し……」
ぱちくりまたたき、固まった。
いつの間にやら、じいさんがいない。跡形もなく消えている。
「ねー。これ、あったかいわよー」
あんたも早くきなさいよぉー、とエレーンがコタツで呼んでいる。へばりついているところをみると、早くも気に入った模様である。ちなみに、ケネルも、既にちゃっかり、そこにいる。
「……お、おう」
ぴーぷー木枯らしに身震いし、ファレスもそそくさ足を向けた。
ともあれ、三人でコタツに入る。
あ? と何かを思い出した顔で、ケネルがごそごそ何かを出した。
「老婆からだ」
でん、と卓においたのは、オレンジ色の網に入ったミカン。
「なんでえ、これは」
「みやげだ」
ぴっ、と護身刀で、ケネルはミカンの網を切る。
あったかいコタツで、三人ぬくぬくミカンをむいた。
そして、コタツの天板に広げてあるのは、食い散らかした鶏の骨と、ファレスが調達した苺のケーキ。
エレーンは箱に附属のプラスチックフォークで、二人は護身刀の切っ先で、ホールケーキを三方からほじくる。
「くふふ。やっぱ、おいしいこれっ」
エレーンはにんまり、ご満悦。
「ケーキに顔、つっこむんじゃねえぞ」
突進しそうな勢いをたしなめ、む? とファレスは振り向いた。
「くっついてんぞ、ほっぺたに」
指でクリームをすくいとり、ぺろりと舐めつつケネルを見る。「で、結局なんなんだ、くりすますってのは」
さあな、と首をかしげるケネル。
あんぐ、とファレスはケーキを運ぶ。「どこにいんだか、わかんねえし、妙なジジイは徘徊してるし」
ケネルが両手をコタツに突っ込み、ふと夜空に顔をあげた。
「……雪だ」
ケーキの八割方を一人で平らげたエレーンは、コタツのふとんに肩までもぐって、くーくー寝息を立てている。
ケネルとファレスも肩までもぐって、静かに澄んだ夜空を仰いだ。
遠い漆黒の空の果てから、いつしか、ちらちら白い雪──。
そろそろ、うちに帰りたい。
しんしん雪が降り積もる、聖なる奇跡のクリスマスの夜に。
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