【 おまけSS.25 140719 】 『ディール急襲』第3部
 

おっかけ道中ひざくりげ

 〜 副長とゆかいな仲間たち 〜

  その5
 
 裏庭で収穫ったチェリートマトが、ザルで山盛りになっている。
「──どうしたんだ、あれ」
 細く開けたドアから覗いて、ザイが怪訝そうに部屋をさした。「布団にしがみついてるぜ」
 どれ、とセレスタンも、長身をかがめて室内を覗く。
「あらら。ほんとだ。また腹が痛むのかな」
「いや、違うな、ありゃ。どっちかってえと──」
 顎をつかんで、ザイは思案顔で首をかしげる。適当な症状を当てはめているようだ。ふと気づいたように顔をあげた。
「あれ、もしかして、すねてんじゃねえか?」
「──へ? すねる? 副長が?」
 ぱちくりセレスタンはまたたいて、どれ、ともう一度、部屋を覗く。
 ファレスは窓辺の寝台で、薄茶の長髪を無造作に流し、背中を向けて転がっている。むぎゅっと布団を抱きしめて、両手両足で羽交い絞め。おかげで掛け布団はよれまくって棒状。
「……ありゃりゃ」
 ドアから様子を盗み見ながら、セレスタンは禿頭を掻く。「珍しいな、副長が」
 たとえ世界が滅亡しようが、眉の毛一本動かさない男だ。
「もー。副長ってば、やっと復活したっていうのに、今度はなんでへこんでんだか」
 あのな、とザイが溜息まじりで腕を組んだ。「副長だぞ。理由なんざ、一つっきゃねえだろ」
 そう、あの男をへこませる者など、世の中広しといえど、一人しかいない。
 ぱちくり聞いていたセレスタンは「──姫さんねえ」と首をかしげた。「けど、まだ会ってもないだろ。追いついてないし」
「なら、お前じゃねえのか? なんか、それ絡みのことを言ったとか」
 俺? とセレスタンは面食らった顔で己をさした。
 ザイは面倒そうに頭を掻く。「俺にはとんと覚えがねえし、あの客の話なんざ、お前くらいしか、しねえだろ」
 うーん、とセレスタンは禿頭をひねった。「なんかしたかな、姫さんの話。さっき、ちょっと戻った時に、あがってくる副長と会ったけど。ああ、なんかそういや、急に無口になってたっけな。けど俺、大したことは言ってないぜ? ただちょっと──」
 首をひねりひねり、かくかくしかじか先の出来事を話して聞かせる。
 たるそうに腕組みで聞いていたザイが、指を鳴らして顔をあげた。
「そいつだ」
 
 
「副長、入りますよ」
 ドアを軽くノックして、ザイはあけた戸口にもたれかかった。
 ファレスの背は、相変わらず布団にへばりついている。ザイはやれやれと足を踏み出す。「なあに、どんより、たそがれてんスか」
「……」
 ごろりとファレスは、顔をしかめて布団にめりこむ。
「いつまでそうしてスネてんです」
「……」
「あーあー。なんてザマですか、ウェルギリウスの異名で鳴らした、副長ともあろう人が」
「……うるせえ。てめえにゃ関係ねえ」
 ザイは溜息まじりに腕を組んだ。
「副長より大事な奴が、あの客にいるわけないでしょ?」
 両手両足でしがみつき、がんじがらめの掛け布団に、ファレスは更に深くめりこむ。「……うっせえな。あっち行けよ。腹が痛くて、だりィんだよ……」
 手のつけられない捨て鉢な態度に、ザイは軽く嘆息する。
「花なら、副長ももらったでしょ?」
 ぴくり、とファレスの肩が動いた。
 ちら、と布団から目だけをあげる。
 顔をしかめて再びもぐった。「……なに妙なこと、ほざいてやがる。俺は、あいつから花なんか」
「ほらあ。食おうとしてたじゃないっすかー」
 そそそ──とザイの後ろから忍び足でついてきたセレスタンが、ゴマすり笑いで覗きこんだ。「あの商都の北門通りで。でっかいオブジェが並んでる。ほら。昼飯食う前っすよ。ねっ?」
 当時彼女を付け狙っていたセレスタンは、妙に細かいことまで知っている。
 しがみついた布団から疑わしげにチラ見して、む? とファレスが首をひねった。
 むくり、と寝床に起きあがる。
 あぐらの腕組みで座りこみ、斜め上の天井をながめた。
「……あー。あの黄色いのか」
 ぽん、と合点の手を鳴らす。思い当たったようである。
 セレスタンは引きつり笑った。「ねっ? それ、副長のがっすよー? ミモザ祭の花もらったの。俺の方はついでというか、なんというか」
 むろん、まっかな大嘘である。
 ファレスはくるりと振り向いて、ふーん、と話を聞いている。わりと素直な質である。
「そうっスよ。それに副長、知ってんでしょ?」
 ひょい、とザイも顎を出し、ぴん、と指を突き立てる。
「腹刺されてくたばりかけてた時なんか、あの客、副長に張りついて、テコでも動きゃしなかったんスよ?」
 往生しましたよあの時はー、とこそばゆい所を愚痴でくすぐり、すかさずセレスタンを援護する。
 セレスタンももう一押し。必死の笑顔で、ちょい、と手を振る。
「もー。あるわけないじゃないっすかー。姫さんが俺を優先するとか。まさか副長をさしおいて」
「そうっスよ。このハゲにやって副長にやらねえ手っては、さすがにねえでしょ
 ……む? とセレスタンが、しれっとしたザイを振り向いたその時、ファレスがもそもそ身をよじった。
 卓からザルを取りあげて、一つかみして、ぐいと突き出す。
「おう、ハゲ。お前も食うか?」
 突き出したのは真っ赤に熟れたチェリートマト。裏庭産のとれたてピチピチ。
 えー。俺にはないんスかー? とザルを漁ろうとするザイの手を、ペチ、と即座に叩き落として、ファレスはザルから渋々一個だけ分けてやる。
 己もあぐらでそれを頬張り、ファレスはもぐもぐ満面の笑み。
 機嫌は直ったようである。
 
 

 お粗末さまでございました。  (*^o^*)
 
 
 
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