■ CROSS ROAD ディール急襲 第1部 interval「刺客たちの午後」
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「──お疲れ、クロイツ」
クロイツは足を止めて振り向いた。
がらんとした館内に、今の声の出所を捜せば、人けない午後の窓辺に、少し猫背のあの姿があった。
壁にもたれ、くわえ煙草でながめている。人目を引く赤い髪、それと同じ赤褐色の瞳、黒の上下を身にまとい、中の白シャツは着崩している。その薄い唇が、笑みの形に吊りあがる。
「" あっち " は確保できたらしいな」
どうやら、帰りを待っていたらしい。クロイツは淡々と応えた。「どうしたわけか、ガーディアンが出張っていて、大した手間でもなかったがな。もっとも、街で暴動が起きかけたが」
「へえ、住人と遊民の?」
肩をゆすって、赤髪の男はくつくつ笑う。「やるじゃん、クロイツ。そんな質の悪りィもん、よくも一人で収めたな」
「俺じゃない。クレストの所の細君だ。遊民にやたらと信頼されている。あんなものがしゃしゃり出てくるとは、まさか俺も思わなかったが」
「──へえ」
煙草の灰を床に落として、赤髪の男は気のない口振り。だが、今、彼は小さく微笑ったろうか。蔑みなのか哀れみなのか、相槌を打つ声音には、愉しげな響きが混じっている。
クロイツは旅装の懐をまさぐって、嗜好品を取りだした。煙草をくわえて点火する。
午後の娼家の日溜りに、紫煙が気だるく立ち昇った。
昼食時をいく分すぎた正午すぎ、館内は閑散と寝静まっている。ここ商都の大抵の宿は、一階が飲食店を兼ねており、こうした娼家も例外ではない。そして、本業が始まる夕刻までの狭間の時間、店は一時、休業となる。
西日を浴びたカウンターをながめやり、クロイツは淡々と紫煙を吐く。
「クレストの領主もやるものだ。貴族や大商人の娘ではなく、気安い使用人あがりを正妻に据えて、癖のある遊民の支持を取りつけるとは」
煙草の端をくわえ直して、赤髪の男は口端で微笑った。
「──いや、そんなご大そうな動機じゃねえと思うぞ」
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