■ CROSS ROAD ディール急襲 第2部 2章 interval 〜 坑道 〜
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〜 interval 坑 道 〜
酷く風変わりな、その背を見ていた。
暗がりに座り込んで、何かしている。そう、何かの儀式のような──。
何故、彼らがそんなに風変わりかといえば、それは──
『 ──さてと、これで良し、と 』
『 大勢で入り込んで踏み荒らしやがって。お陰で結界が解けちまったじゃねえかよ。この国の民草どもは、神聖な命脈を一体なんだと心得ていやがる 』
『 まったく、ネズミがウロチョロうるせーな。──ああ、レグルスの西、塞いどけよ。これ以上好き勝手に荒らされたら、かなわん 』
『 左だ 』
「……え?」
漆黒の闇の向こうで、誰かが囁き、耳打ちする。
『 この先の道、全て左だ。分かったな 』
深い深い淀みのない声。幼い子供に言って聞かせるような、慈愛に満ちた男の声。けれど──
「……ここは、どこだ」
『 根 』
「"ね"……?」
『 ユグドラシルの根の跡だ 』
「……あと?」
『 どうせ、みんな忘れちまうから、教えてやるか。つまり、この国にはもう"世界樹"
がないんだよ。国主が引っこ抜いちまったからな。土台を失っているから、あちこちが揺らぐ
』
「せかい、じゅ……?」
『 おやおや。そんなことも知らないのか。これだから慶寿の民草は 』
男が苦笑いをしたようだ。
『 この国は遠からず崩壊する。殺戮者が舞い降りたからな。その内、跡形もなく失くなっちまうことだろう。竜に喰われた荒国のようにな。それとも同族の手で滅ぼし合うか? それもこれも、皆、お前らの愚行のせいだよ
』
けれど、この声はひどく冷ややかだ。人の体温というものが、まるで感じられない。
記憶の底から語りかけて来るような、どこかで聞いたような見知らぬ声。そして、これは──
「あお、い、髪……?」
人、か?
いや、人ではない。ならば、これは一体──。
「……お前は、何だ」
『 ほう、賢明な民草じゃないか。種類を問うて来るとはな。確かに、俺の名を知ったところで詮ないことだが── 』
哀れむような笑い声。
『 俺達は 《 翅鳥 》 だ 』
「……"シチョウ"? 何者だ。何故、ここにいる」
『 お前ら邪魔なんだよ。民草風情がこんな所まで入って来るものじゃない。──さ、行け。もう気は済んだろう。いつまでも、こんな所をうろついてると──
』
佇む闇が手を伸ばす。
『 喰っちまうぞ 』
三日月形に口を開け、"それ"がニッと嘲笑った気がした。
言いようのない怖気と畏怖が靴の爪先から駆け上った。理屈ではない、生物としての根源的な恐怖。
そう、これは──
"人" の "上位" に立つ者だ。
足が勝手に後退る。
ラルッカは男に背を向け、一目散に駆け出した。
刹那、地面に敷かれた銀のレールが掻き消えるように見えなくなった。
*2007.12.24 第2部2章 了
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