■ CROSS ROAD ディール急襲 第2部 3章 4話1
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あの時感じた感情を、なんと言ったらいいのか分からない。
あれは、誰にも見られたくない無様な姿で、一番言われたくない屈辱的な言葉。
ぶっきらぼうで、ぞんざいで──けれど、飾りけのない一言に、彼の労わりが感じとれた。
『 見ねえから 』
樹海の木立が、ゆるい風に揺れていた。
脇道の先の風道で、ファレスは文句も言わずに待っている。
ああして背を向けて喫煙したまま、いつまでだって、いるだろう。
エレーンは木幹に寄りかかり、梢をながめて、息を吐いた。ぼんやり仰いだ視界には、どこまでも広がる薄青の天空。
「……ごめんね、爺。心配かけて」
膝をかかえ、気だるく頬をすりつける。
あの領邸に残してきた、あの老いた執事を思った。
実はトラビアに向かっている、とあの執事が知ったなら、顔を真っ赤にして叱るだろう。
そして、あわてて連れ戻しにくる。
でも、どうか、わかって欲しい。
ただ、ダドリーのそばに行きたい。だって、今、行かなかったら、きっと一生、
後悔する。
空が一面、青く、高い。
ダドリーに会いたかった。
今は、無性に、彼に会いたい。
気がかりなことが、一つあった。
ダドリーに、クレストの領邸のことを、街の人たちのことを任されていた。
なのに、勝手に街をあけてしまった。まだ落ち着いてなかったのに。
でも、街に居座ったところで、できることなど何もない。むしろ、復興の妨げにさえなる。施政に不慣れな上役など、いっそ、いない方がいい。
たぶん、街は大丈夫だ、街にはあの義兄、チェスター候がいる。
領邸の主が不在なら、あの仲良しの貴族たちと、万事うまく計らうだろう。なにせ、自らの評判がかかっている。
いつかダドリーが生還すれば、留守を守ったあの義兄の、立場も面目も守られる。でも、もしも、万が一、
もしも、ダドリーが戻らなかったら──
高い梢が、ぼやけて、にじんだ。
ぐい、と手の甲で、目元をぬぐう。ふと、それについて考えた。
なんだろう。
今のあたしに、できること。
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