CROSS ROAD ディール急襲 第2部 3章 4話1
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 あの時感じた感情を、なんと言ったらいいのか分からない。
 あれは、誰にも見られたくない無様な姿で、一番言われたくない屈辱的な言葉。
 ぶっきらぼうで、ぞんざいで──けれど、飾りけのない一言に、彼の労わりが感じとれた。
『 見ねえから 』
 
 樹海の木立が、ゆるい風に揺れていた。
 脇道の先の風道で、ファレスは文句も言わずに待っている。
 ああして背を向けて喫煙したまま、いつまでだって、いるだろう。
 エレーンは木幹に寄りかかり、梢をながめて、息を吐いた。ぼんやり仰いだ視界には、どこまでも広がる薄青の天空。
「……ごめんね、ジイ。心配かけて」
 膝をかかえ、気だるく頬をすりつける。
 あの領邸に残してきた、あの老いた執事を思った。
 実はトラビアに向かっている、とあの執事が知ったなら、顔を真っ赤にして叱るだろう。
 そして、あわてて連れ戻しにくる。
 でも、どうか、わかって欲しい。
 ただ、ダドリーのそばに行きたい。だって、今、行かなかったら、きっと一生、
 後悔・・する。
 
 空が一面、青く、高い。
 ダドリーに会いたかった。
 今は、無性に、彼に会いたい。
 
 気がかりなことが、一つあった。
 ダドリーに、クレストの領邸のことを、街の人たちのことを任されていた。
 なのに、勝手に街をあけてしまった。まだ落ち着いてなかったのに。
 でも、街に居座ったところで、できることなど何もない。むしろ、復興の妨げにさえなる。施政に不慣れな上役など、いっそ、いない方がいい。
 たぶん、街は大丈夫だ、街にはあの義兄、チェスター候がいる。
 領邸の主が不在なら、あの仲良しの貴族たちと、万事うまく計らうだろう。なにせ、自らの評判が・・・・・・かかっている。
 いつかダドリーが生還すれば、留守を守ったあの義兄の、立場も面目も守られる。でも、もしも、万が一、
 もしも、ダドリーが戻らなかったら・・・・・・・──
 
 高い梢が、ぼやけて、にじんだ。
 ぐい、と手の甲で、目元をぬぐう。ふと、それについて考えた。
 なんだろう。
 今のあたしに、できること。
 
 
 

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