【ディール急襲】 第2部5章opening 〜鍵〜

CROSS ROAD ディール急襲 第2部5章opening 〜鍵〜
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 あれは「家の鍵」なのだという。
 無邪気に過ごした子供時代に、母親と暮らした家の鍵。いつか聞いた話によれば、家屋は既に取り壊され、母親も今は亡いのだという。鍵はいわば母の形見ということだ。
 彼の手に、ひとつ残されたその鍵は、今となっては二度とは開かぬ扉の鍵。彼にとっては永久に閉ざされた安らぎへの鍵であるのかも知れない。
 生死を賭けた一戦を控えた戦場の目立たぬ片隅で、シャツの襟ぐりから銀の鎖をたぐりよせ、それを見つめる彼の姿を見た者がいる。無心で穏やかな横顔は粛然として近寄りがたく、祈りを捧げているかのようにも見えたという。
 肌身離さぬその鍵は、願掛けの類いを一切しないあの彼が、無意識の内にも拠り所にしているものであるらしかった。誰にも気を許すことのない、冷徹で非情なあの将が、唯一心を寄せるもの。
 
 
 
 
 

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