interval 〜解〜

 
 
 黒々とした植栽の茂みに、どさり、と鈍い音で"それ"は落ちた。
 古城三階の窓から見届け、赤髪の男は紫煙を吐く。
 鬱蒼と生い茂った黒梢の下、詰め所の灯火がちらちらと赤い。
 ぽっかりと丸い月の下、ぐるりを取りまく塀の向こうで、かがり火が小さく揺らいでいた。
 守備兵たちに動きはない。黒々と広い庭の向こうで警備をしている誰一人、今の落下音に気づかなかったらしい。もっとも、詰め所のある場所は、国境の河川が程近い。
 かたわらを流れる轟音が、物音を掻き消したようだった。そもそも守衛の注意と意識は、身の内たる館でなく、外からの侵入者に向いている。
 赤髪は窓枠に背をもたせ、くわえ煙草で目を戻す。
 整然と片付いた深夜の部屋。黒革の長椅子と高価な卓。壁を埋める大型の書棚。書類を積んだ執務机。そして、飴色の調度品。だが、暗がりに沈んだ鏡面は、うっすらとほこりを被っている。
「みんな、どこへ行ったんだかな」
 無人の部屋をながめやり、赤髪は暗がりで紫煙を吐いた。なぜか一人も使用人がいない。
「ま、それは、どうでもいいことか」
 月夜の庭へと、視線を戻す。
 アレを捨ててこなければならない。植栽に落とした穀物袋を。かつて秘書官・・・と呼ばれた男を。
 館の裏手は、激流の内海。肉食の魚類が回遊するため、死体はまず、あがらない。
 窓の手すりを靴裏で踏みしめ、夜空にあいた窓から乗り出す。
「さてと。俺は、もう一仕事しないとな、っと」
 黒く艶やかなその靴が、ためらうことなく手すりを踏み切る。
 トラビアの青い月光に、ひらり、と身を躍らせた。
 
 
 

*2014.9.28 第3部1章 了
 
 
 
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