クリスマスのよるに
クリスマスのよるに
おじいさんの おにわには、おおきな 「 き 」 が ありました。
はを あおあおと しげらせた、とても おおきな りっぱな 「 き 」 。
ふゆになっても かれません。
たんせいこめて ていれをした 「 き 」 が、おじいさんは、たいそう ごじまんでした。クリスマスになると、この 「 き 」 も キラキラのほしや ピカピカのモールを たくさん かざって、おめかしします。でんきゅうも ピカピカつくのです。
おにわに はえた おおきな おおきな クリスマス・ツリー。ごきんじょさんや、のらねこや、みんなが、にこにこ やってきます。みんな、おじいさんのつくるクリスマス・ツリーを、それは それは たのしみにしていました。
だから、おじいさんは、かわいい にわの 「 き 」 を なでながら、はりきって かざりつけを するのです。
ことしも、もうすぐ クリスマスです。
おじいさんは、はりきって かざりつけをします。クリスマスには、まごの まおくんが おうちを たずねてくるのです。きれいにかざった にわのツリーをみて、まおくんは、いつも、こういいます。
「わあ、とっても、きれいだね」
おじいさんは、まおくんの えがおが だいすきです。
クリスマスまで、あと１しゅうかん。
おじいさんは、がんばって にわのツリーの かざりつけをします。
きんのモールを てにもって、きのまわりを ぐるぐるまわって、いっしゅう、にしゅう、さんしゅう……。
ピカピカひかる まんまるボールを いくつも たくさん えだからつるし、ほしや サンタも えだから つるし、はしごにのぼって、おおきく たかい てっぺんに、きんのほしを、ぽい、とつけたら かんせいです。
すっかり、きれいに、おめかしが すんで、にわのツリーは、ほこらしげです。すみきった あおぞらに、あかと みどりのデコレーションが、すがすがしく そよいでいます。
クリスマスまでに、あめが ふるかもしれません、そういうテレビの てんきよほうだけが、おじいさんの いちばんの なやみのたねです。
ごじまんのツリーが かんせいすると、かいものがえりの ごきんじょさんが、おじいさんのにわを とおりかかりました。
「まあ、きれい！」
ころころ ふとった、おばさんです。ネギがニョッキリ、かいものかごから、はみでています。
おばさんは 「まあまあまあ」と おおきなツリーを にこにこ みあげて、おうちにかえって いきました。
つぎに とおりかかったひとも、また、そのつぎに とおりかかったひとも、ツリーをみると、にっこりして、みんな、おじいさんを ほめてくれます。
だから、おじいさんも、にこにこ デレデレ。それは それは じょうきげん。
きょうも、おじいさんは にわにでて、ごじまんのツリーを みあげていました。
すると、むかいのもりから、のうさぎが いっぴき やってきます。ちいさなかたを、はあ、と おとして、のうさぎは、おじいさんに いいました。
「さむくて さむくて しにそうだよ」
どうやら、こごえているようです。
ふゆのくうきは いてついて、こがらしがピューピューふいています。けれど、おうちのない どうぶつたちは、そとで よるを こさなければなりません。
のうさぎは、かだんのすみっこに、じっと、うずくまってしまいました。
「それは、きのどくに」
おじいさんは、かわいそうになりました。
おおきなツリーから、きんのモールをとりはずし、のうさぎに わたしてやりました。
ながいひげを ひくひくさせて、のうさぎは、おじいさんをみあげます。
「もらって、いいの？」
おじいさんは、にっこり わらって いいました。
「いいさ、もってけ」
「ありがとう」
しわしわに かわいた そのてから、きんのモールを うけとると、のうさぎは、まえばでモールをひきずって、もりに かえっていきました｡
モールは、なくなってしまったけれど、ツリーは、まだまだ きれいです。
きょうも、おじいさんは にわにでて、ごじまんのツリーを みあげていました。
すると、もりのネズミが とぼとぼ、こちらに あるいてきます。ちいさなかたを はあ、と おとして、ネズミは、おじいさんに いいました。
「クリスマスなのに、こどもに、なにも してやれないよ」
「それは、きのどくに」
おじいさんは、かわいそうになりました。
おおきなツリーから、サンタや ほしを とりはずし、ネズミに わたしてやりました。
まんまるのめを、もっと まんまるく みひらいて、ネズミは、おじいさんを みあげます。
「もらって、いいの？」
おじいさんは、にっこり わらって いいました。
「いいさ、もってけ」
「ありがとう」
ネズミのかぞくは、だいかぞくです。もりからやってきたネズミのかぞくが、ツリーのまえに いちれつに ずらりと ならびます。みんな、ながいしっぽをウキウキふって、じぶんのじゅんばんが やってくるのを、おぎょうぎよく まっています。
おじいさんは、サンタや ほしを はずします。
しわしわに かわいた そのてから、サンタや ほしを うけとると、みんな、おおよろこびで もりに かえっていきました。
モールと かざりは、なくなってしまったけれど、ツリーは、まだ まだ きれいです。
きょうも、おじいさんは にわにでて、ごじまんのツリーを みあげていました。
すると、まちのこどもが、とぼとぼ こちらに あるいてきます。ちいさなかたを、はあ、と おとして、こどもは、おじいさんに いいました。
「クリスマスなのに、なにも かってもらえないよ」
「それは、きのどくに」
おじいさんは、かわいそうになりました。
おおきなツリーから、ピカピカ・ボールをとりはずし、こどもに わたしてやりました。
きょとん、と めを まばたいて、こどもは、おじいさんを みあげます。
「もらって、いいの？」
おじいさんは、にっこり わらって いいました。
「いいさ、もってけ」
「ありがとう」
そういうと、こどもは、なかまに しょうしゅうを かけました。はなしをきいた こどもたちが、いそいで、ばらばら あつまってきます。
あんまり たくさんの こどもがいるので、おじいさんは、ちょっと こまってしまいました。みんなに あげてしまったら、さいごにのこったピカピカ・ボールも なくなって、ごじまんのツリーでは なくなってしまいます。
けれど、ほっぺを まっかにした こどもたちは、わくわく、おじいさんを みあげています。
おじいさんは、にっこり わらって いいました。
「いいさ、もってけ」
おじいさんは、ピカピカ・ボールを はずします。
しわしわに かわいた そのてから、ピカピカ・ボールを うけとると、みんな、おおよろこびで、おうちに かえっていきました。
そうして ひびは すぎさって、とうとう、クリスマスのひに なりました。
すっかり まるはだかになってしまった にわのツリーの 「 き 」 を みあげ、おじいさんは、ためいきをつきました。
きょうは、クリスマス・イブ。そろそろ、まおくんが やってきます。おおきな おおきな おおきなツリーを、まおくんは、たのしみにしているのです。
けれど、かざりは みんな、あげてしまったので、ごじまんのツリーには、 「 き 」 の とんがった てっぺんに、きんのほしのかざりが一コ、ななめに かたむいて、ひっかかっているだけです。だから、にわのツリーは、なにもない、ただの
「 き 」 でしか ありません。まおくんは、どんなに がっかりするでしょう。
よるになり、かぜが つめたくなってきました。
にわも シンシン ひえてきます。
おじいさんは、はあ、と ためいきをついて、テラスから、おうちに はいりました。
ゆりいすにゆられて ちいさくなって、おじいさんは、しょんぼりしています。おばあさんが しんぱいして、かおを のぞきこんだりするのですが、おじいさんは、げんきなく、ゆるゆる くびをふるばかり。
やがて、げんかんのチャイムが ピンポン、と かろやかに なりました。ああ、きっと、まおくんです。
スリッパのそこを ぱたぱた ならして、おばあさんが げんかんに むかいます。おりょうりのじゅんびも すっかり すんで、おばあさんは、にこにこ えがおです。おもたい こころを ひきずって、おじいさんも げんかんに むかいます。
おばあさんに せかされて、あつくて ちゃいろい きのドアをあけると、そこには、やっぱり、まおくんが、にこにこ わらって たっていました。
「メリー･クリスマス。おじいちゃん、おばあちゃん」
「メリー･クリスマス。まおくん」
そとは、とても さむいのでしょう。まおくんは、ほっぺを まっかにしています。
うんどうぐつを いそいで ぬぐと、まおくんは、おぎょうぎわるく ろうかをはしって、おへやのテラスに ちょっこうしました。はやく おにわのツリーを みたいのです。
ぶあつく しまったカーテンを、りょうてで いきおいよく ひきあけます。
おじいさんは、うなだれました。あの みすぼらしいツリーをみたら、どんなに がっかりするでしょう。
けれど、
「わあ、すごいや」
まおくんが、ひとみを かがやかせて ふりむきました。
いったい、どうしたというのでしょう。ことしの にわには、ただの おおきな 「 き 」 しか、ないはずです。おじいさんは、パチパチ めをしばたいて、まおくんが ゆびさす ほうこうに、ふしぎそうに めを むけました。そこには──
おにわの 「 き 」 の てっぺんに、きんのほしの かざりが一こ、ななめにかたむいて、ひっかかっていました。ぼうすいけいの みどりのえだに、ゆきが まわたのように ふりつもっています。
はだかになった にわの 「 き 」 は、ふんわり まっしろな ゆきげしょうをして、ふだんのツリーなどより もっと、ずっと ほこらしげに みえました。
「すごい、きれいだねえ、おじいちゃん」
おじいさんは、えがおになりました。
あたたかい へやのなかから、にわの ほこらしげなツリーを ながめて、まおくんと、にっこり、おたがいのかおを みあわせます。
くらいてんから ふってくる、それは、ごくじょうのプレゼント。
きんモールをもらった のうさぎは、キラキラ･モールを からだに まきつけ、
こだくさんの ネズミのかぞくは、サンタや ほしで ガヤガヤ あそび、
ピカピカ・ボールをもらった こどもは、テレビのうえに かざって ながめて、
みんなが えがおに なりました。
シンシン ゆきが ふりつもる、せいなる きせきの クリスマスのよるに。
おしまい
〜 クリスマスのよるに 〜
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