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木々が、笑っているようでした。
両手を伸ばして、手を繋ぎ、腕(かいな)の中に封じ込め、みんなで意地悪して、通せんぼ。
あっちかな? こっちかな?
出口はどっち? かさこそかさ……
どっちに行ったら、出られると思う?
冬の日暮れは早くって、世界は、すっかりオレンジ色。空は、どんどん暗くなっていくばかり。
そして、木々に囲まれたこの森も、暗くなっていくばかり。
とぼとぼ歩く足を止め、まおくんは、ため息をつきました。
まおくんは、困っていました。
とっても、とっても、困っていました。
だって、どっちの方向を見てみても、鬱蒼と生い茂る木々ばかり。枯れきったモミジの巨木の先っちょの、夕方の空を見上げれば、頭がぐるぐるしてきます。
近道できるはずだったのに。
まおくんは、おじいちゃんちで、クリスマスのケーキを食べた帰りです。
お部屋のツリーは、ぴかぴか光って、でっかくて、
おばあちゃんのケーキは、クリームたっぷりで、おいしくて、
おじいちゃんのお話は、スリル満点で、楽しくて、
気がつけば、窓の外は、一面、夕方のオレンジ色。古くて大きな柱時計を見れば、5時を少し過ぎています。
まおくんは、あわてて 「 さようなら 」 を言いました。
「 森には、入っちゃいけないよ。おそろしい魔物が出るからね 」
大きな森を見渡して、おじいちゃんは、いつも、こう言います。これは、おじいちゃんとの約束です。
「こんな年に一度のクリスマスの晩には、《 森のヌシ 》 も浮かれて出てきて、なんぞ悪さをするやもしれんな」
帰りがけ、おじいちゃんは、とぼけた顔を作って、こんなことを付け足しました。
「悪い子にしてると、さらわれちゃうぞお?」
おじいちゃんの家のすぐ前には、《 ぐるぐるの森 》が広がっています。そして、まおくんの家は、森を挟んだ向こう側。
《 ぐるぐるの森 》は、ひょうたんの形をしています。
ひょうたんの「くびれ」の東に、おじいちゃんの家、そして、お向かいの西側に、まおくんのおうちが建っています。だから、おうちまでは、一本道。地図で見れば、すぐそこですが、《
ぐるぐるの森 》が間にあるので、ぐるっと、遠回りしなければなりません。
けれど、今日はテレビで6時から、クリスマスの特番があるのです。
それは、絵本で読んだお話で、とても楽しみにしていました。遠回りなんかしていたら、間に合わないかもしれません。
おうちの隣の赤いノッポの鉄塔が、森のすぐ向こうに見えていました。
だから、あのとんがった先っちょ目指して歩いていけば、近道できるはずだったのです。
《 ぐるぐるの森 》は広くって、行けども行けども、出られません。
《 ぐるぐるの森 》は深くって、戻ることも、できません。
赤いノッポの先っちょも、たくさんの大木におおわれて、すっかり見えなくなってしまいました。
どこを見ても、大きく茂った木々ばかり。
けれど、まおくんは、初め、あんまり気にしていませんでした。それなら、森に住む動物達に、教えてもらえばいいのです。
まおくんは、キョロキョロしながら、森の中を歩きます。
道を聞きたいのです。誰か、いないでしょうか?
すると、
後ろから、何かが、やってきます。
外に向いた平べったい足で、バタバタ、こっちに、かけて来ます。
《 ちくたくウサギ 》でした。
首から下げた金の鎖時計を、片手で、しきりに見ています。
ちょうど良いタイミングです。
まおくんは、声をかけました。
「ウサギさん、ウサギさん、森の出口を教えてよ」
けれど、《 ちくたくウサギ 》は、まおくんのことなど見もせずに、バタバタ通り過ぎてしまいます。
「いそげー! いそげー! 早くしないと、始っちゃうじゃないかあ!」
《 ちくたくウサギ 》は、そう言っていたようでした。
仕方がありません。忙しいのです。
目に入らなかったのかもしれません。
まおくんは、暮れゆく森を見回しました。
完全に夜になってしまったら、電気のきてないこの森は、真っ暗になってしまうでしょう。暗いところは、恐いです。
まおくんは、あきらめて、歩き出します。
少し後に、巨木の枝から、ヒラリと、何かが落ちました。
季節外れのモミジ葉です。
5枚の葉っぱの真っ赤な " それ " は、右と左の端っこの葉っぱで、小さな口をクスクス押さえて、まおくんの後を、そーっと、ついて行きました。
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