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まっ暗な空から、真っ白いものが、落ちてきます。
それは、ふわふわ、宙をただよい、やがて、ふんわりと止まります。
四角く区切られた道の上に。
赤や青の屋根の上に。
にゅっと突き出た煙突の上に。
外は、珍しい雪でした。
そして、空は、まっ暗になっていました。
上は、まっ黒、下は、まっ白。町の様子が、いつもと全然違います。
まおくんの町は、どこもかしこも、まっ白け。
いつの間にか降り出した雪が、町も、森も、すっぽり包んで、白い真綿で、おおっています。
でも、と、まおくんは、首をひねりました。
今まで、ちっとも寒くなかったのに?
振り向けば、ザワザワ揺れてる森の木々が、分厚く枝葉を広げています。
精一杯に高く、精一杯に広く、それは、雪と風の寒さから、動物達を守ってやるかのようでした。
「じゃあね。オレは、ここで帰るから」
森の出口で、《 オレがやるクマどん 》が言いました。
「うん、じゃあね。ありがとう、クマさん」
まおくんは、でっかい肩の上から、もそもそ下ろしてもらいます。
《 オレがやるクマどん 》の顔は、たいそう満足げです。一度言ったことは、やるのです。やると言ったら、やるのです。誰がなんと言っても、やるのです。「
有言実行 」 が、ざゆうのめいです。
ぶっとい腕で、ぶんぶん2回、手を振って、《 オレがやるクマどん 》は、のっそり体を返します。
森へと帰る、どっしり大きな黒い背中に手を振って、まおくんも、おうちへの道を歩きます。
おなかが、くう……と、鳴りました。
でも、もう、だいじょうぶ。目印の鉄塔は、すぐそこです。
おうちに帰れば、温かいご飯が食べられますし、これならば、6時から始まるテレビ・アニメ
『 こども名作劇場 』にも、ぎりぎりセーフで、間に合いそうです。
ノッポの赤い鉄塔は、まぶしいほどの、きれいなあかりを、たくさん、びっしり、まとっていました。
白い雪が舞い散る中、ぴかぴか、きらきら、光っています。まるで、大きなクリスマス・ツリーのように。
それは、こんなふうに言っているようでした。
さあ、
早く、帰っておいで。
ひとつ、大きく、うなずいて、まおくんは、安心して、歩き出しました。
だって、こんなに大きな目印ならば、もう、迷うことは、ありませんから。
その時でした。
森の端の暗がりから、ぴょ〜んっ! と、何かが飛び出してきたのは。
おうちへ向かう、まおくんの後を、外に向いた平べったい足で、バタバタ、バタバタ、追いかけていきます。
「いそげー! いそげー!──ああ、間に合うかな? 間に合うよな?」
柔らかそうな毛皮の "それ" は、首から下げた金時計を、何度も、しきりに見ています。
あの《 ちくたくウサギ 》でした。
金時計を握り締め、《 ちくたくウサギ 》は、ぐいっと、前を向きました。
「まったく! 大事なステッキを忘れるなんて、ボクのドジ! 早くしないと、晴れの出番がきちゃうじゃないかあ!」
とても、あせっているようです。
そりゃあ、そうです。だって、早く行かないと、
6時からのテレビ・アニメ 『 不思議の国のアリス 』 が始まっちゃうのだ!
空一面にちりばめられた星々が、キラキラ、びかびか、瞬いていました。
「ただいまあ! おかあさん!」
玄関のドアを元気に開ければ、明るい光があふれ出ます。
ふと、まおくんは、背中の森を振り返りました。
真っ黒で大きい《 ぐるぐるの森 》が、どこまでもどこまでも広がっていました。
白雪舞い降る銀の世界は、底知れぬ闇を、いっそう深め、森は、いよいよ、夜の色。
木々の上には、真っ白い雪が、しんしん、しんしん、降り積もってゆきます。
でも、森のみんなは、だいじょうぶ。
木々の枝葉を伸ばした森は、分厚く大きな屋根となり、雪や風から守ります。
枝葉の下は、あったかで、とても広々安心で、だから、森の住人達は、わいわい、がやがや、今日も元気に暮らします。
木々が、笑っているようでした。
繋いだ手と手を、そおっと離して、ざわざわ梢を揺らします。
ばいばい、またね。
また、おいで。
吸い込まれそうに真っ暗な空から、雪が静かに舞い降りていました。
☆ 《 ぐるぐるの森 》 おしまい ☆
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