ひとりぼっちの かいじゅう
ひとりぼっちの かいじゅう
とある もりの おくふかく、ひとりぼっちの かいじゅうが いました。
かいじゅうは いつも ひとりぼっちでしたから、むらのみんなと なかよくなりたいと おもっていました。
だから、あるひ、もりをでて、みんなのところへ でかけました。
「ねえねえ、ぼくも なかまに いれてよ」
むらびとは とびあがり、ばらばら にげていきました。
もしかして、ぼくのおかおが こわいのかな？
いけのほとりで ほうづえをついて、かいじゅうは すいめんを ながめます。
みずのかがみに うつったかおには、するどいキバが はえています。そういえば、ちょっと こわそうです。
さて、どうしたものでしょう。
すこしでも かわいくみえるよう、わらいかたの れんしゅうを たくさんしました。
さあ、これでよし。
ひとりぼっちのかいじゅうは、いそいそ、みんなのところへ でかけました。
「ねえねえ、ぼくも なかまに いれてよ」
にっこり、みんなに わらいかけます。
むらびとは とびあがり、ばらばら にげていきました。
もしかして、ぼくのシッポが こわいのかな？
おおきなからだを、ぐいと、よじって、かいじゅうは シッポを ふりかえりました。
シッポは とてもおおきくて、するどいトゲトゲが ついています。そういえば、ちょっと こわそうです。
さて、どうしたものでしょう。
すこしでも かわいくみえるよう、あかいリボンを つけてみました。
さあ、これでよし。
ひとりぼっちのかいじゅうは、いそいそ、みんなのところへ でかけました。
「ねえねえ、ぼくも なかまに いれてよ」
リボンのシッポを、ふりふりします。
むらびとは とびあがり、ばらばら にげていきました。
もしかして、おおきな このてが こわいのかな？
みぎてと ひだりてを もちあげて、かいじゅうは りょうてを ながめます。
５ほんのゆびには ながいつめがついていて、ぜんぶ するどく とがっています。そういえば、ちょっと こわそうです。
さて、どうしたものでしょう。
みんなが こわくないように、ぷちん、ぷちん、と するどいつめを きりました。
さあ、これでよし。
ひとりぼっちのかいじゅうは、いそいそ、みんなのところへ でかけました。
「ねえねえ、ぼくも なかまに いれてよ」
まあるくきった つめを みせます。
むらびとは とびあがり、ばらばら にげていきました。
もしかして、おおきな このあしが こわいのかな？
あしを かたほう もちあげて、かいじゅうは じっくり しらべます。
かいじゅうの あしは おおきくて、ちいさなウサギや ネズミなんかは、しょっちゅう ふみつぶしてしまいます。そういえば、ちょっと こわそうです。
さて、どうしたものでしょう。
かいじゅうは もりにいき、ウサギや ネズミを ふみつぶさないよう とっくんしました。
さあ、これでよし。
ひとりぼっちのかいじゅうは、いそいそ、みんなのところへ でかけました。
「ねえねえ、ぼくも なかまに いれてよ」
がにまたのヒザを、ぷるぷるしながら うちまたにします。
むらびとは とびあがり、ばらばら にげていきました。
もしかして、クマをたべるのが こわいのかな？
ごはんの とちゅうで きがついて、かいじゅうは バリバリたべていた ホネつきのにくを ながめます。
ごしごし くちをぬぐってみると、おくちのまわりも、まっかです。そういえば、ちょっと こわくみえるかもしれません。
さて、どうしたものでしょう。
だいすきなにくを たべるのをやめて、かいじゅうは ガリガリに やせほそってしまいました。
さあ、これでよし。
ひとりぼっちのかいじゅうは、いそいそ、みんなのところへ でかけました。
「ねえねえ、ぼくも なかまに いれてよ」
よろよろしながら もりをでて、やせほそったてを あげます。
むらびとは とびあがり、ばらばら にげていきました。
かいじゅうは どうくつに こもってしまいました。
むらのひとたちに きらわれないよう、あんなにあんなに、がんばったのに、みんな にげていくのです。
こみあげた なみだを ぐい、とぬぐって、ぐすん、と ひざを かかえます。すっかり、いじけてしまいました。
そとでは ピューピュー、かぜが はげしく ふいています。あらしが やってきたのです。
くらい どうくつのすみっこを、ひとりで にらんでいた かいじゅうは、ちら、と そとを、ふりむきました。
つぎのあさには、ひどいあらしは おさまっていました。
ねむれなかった かいじゅうは、ちら、と もういちど、そとを みました。
むらのことが きになって きになって しかたありません。だって、あんなに ひどいあらしですもの。みんなは、いったい、どうしたでしょう。
よし、と ひとつ うなずいて、かいじゅうは げんこをにぎって、たちあがりました。
むらのようすを みにいこう。
おおあらしに おそわれて、むらは めちゃくちゃになっていました。
かわは はんらん、はたけは みずびたし、さくもつは すべて かれはてて、くったり じめんに はりついています。
いえいえのやねも ふきとばされて、もう すむことはできないでしょう。
いえと はたけを うしなって、ひとびとは とほうにくれて ないていました。おおきなカシの きのしたで、かたをおとして、うなだれています。
あれたはたけを みまわして、かいじゅうは おたけびを あげました。
「もう、きらわれたって、かまうものか」
かいじゅうは おおきなシッポを ふりました。
シッポの ただのひとふりで、かれたさくもつが なぎはらわれて、まっさらな はたけに なりました。
かわまでいって かいじゅうは、じめんを おおきく けりました。
つちをえぐられた じめんのみぞに、ざあっ、と かわのみずが ながれこみました。みずは、ぐんぐん、むらのはたけに むかいます。
かいじゅうは もりで きをきって、それを なんぼんも こわきにかかえて、えっさほいさ、と はこびます。
むらと もりとを おうふくするうち、いえをつくる もくざいが、どん、どん、どんっ！ と みるみる じめんに つみあがりました。
そうして かいじゅうは ふりむいて、こわいかおで にらみます。
これさいわいと おそいにきていた とうぞくが、あわてて にげていきました。
はらぺこのおなかが 「ぐぅ〜！」 となり、ごうおんが じひびきのように とどろきました。むらのひとびとが ふるえあがりましたが、これは どうにもなりません。
むらびとは しげみに にげこんで、ようすを おそるおそる みていました。
かいじゅうのほうを ちらちら みながら、ひそひそ となりと はなしています。
だれも しげみから でてきません。いきをころして、じっと かいじゅうを みています。
きっと ひとびとは かいじゅうのことが、もっと こわくなったのでしょう。
ゆうひにそまった あかいはたけに、ひとりでたっていた かいじゅうは、とぼとぼ もどっていきました。
ジメジメしめった うすぐらい どうくつで、かいじゅうは よこになっていました。
おなかがへって しにそうです。もう ずいぶん ながいこと、なにも たべていないのです。
なのに、うごきまわったりしたものだから、もう たちあがることもできません。
すっかり やせて、よわってしまって、いけに みずを のみにいくことさえ、できません。
わいわい、がやがや こえがしました。
おおぜいの ひとのこえ、どうくつの いりぐちの ほうこうです。
むらびとが やってきたのでした。
ひとびとは てにてに たいまつをかかげ、クワやカマを もっています。
そうか、と かいじゅうは、よわよわしく つぶやきました。
「ぼくを たいじしに きたんだな」
おおきなからだの かいじゅうが よわったところを みはからい、みんなでやってきたのでしょう。
あんなに おおあばれ したんだもの、みんなにきらわれても、あたりまえだ。
かなしくて、かなしくて、かなしくて、かいじゅうは、ぽろりと、おおつぶのなみだを こぼしました。
たいまつをかかげた むらびとたちは、くちを へのじに ひんまげていました。
たちまち いりぐちにいならんで、どうくつをふさいでしまいます。
みごとな しろヒゲのおじいさんが、みんなに ひじでつつかれて、おずおず まえにでてきました。
あたまから むぎわらぼうしを とりさって、むねのまえで かかえます。
おほん、と こえのちょうしを ととのえて、ハゲあたまの そんちょうは いいました。
「なかまに なってくれんかね」
ひとりぼっちのかいじゅうは、みんなといっしょに もりをでて、すえながく わらって くらしましたとさ。
おしまい。
〜 ひとりぼっちの かいじゅう 〜
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