世 界 の カ タ チ
人が本当に知りたいものは、今のも昔も一つだけ。
誰もが皆、生まれ故郷と目的地、
そして、自らの存在意義の追求に余念がない。曰く、
ぼくらは、どこから来て、どこへ行くの?
なんのために生きている?
けれど、今や多くを持った人類には、押しよせる雑音が多すぎて、
" 世界 "の形がクリアじゃない。
真理は、すぐ、そこにある。
誰もが手が届く、近い場所、すべては、そこここに埋まっている。
最初にそれを掘り出した者が、皆の絶賛を浴びるけど、
たまたま、その人だった、というだけだ。
誰もがそれを " 知っている " から、" 初めて " 目にしたその価値を、誰もが " 初めから " 知っている。
誰もが希求する " 世界 " の形を、野に生み出された獣たちは、当たり前のように持っている。
彼らにすれば自明の理だが、彼らにとって価値はない。食えないからだ。
見向きもしない無関心の背にこそ、" それ " は腕を伸ばして、そっと寄り添う。
真理は、初めから、そこにある。
すべては、等しく、すべからく、誰の前にも転がっている。
もっとも、誰にも、はっきり見えはしない。
どの手も拾えるわけじゃない。
それを、詩人は文字に変えて形にし、
作曲家は調べにのせて譜面に記し、
画家は画布に塗りつけ、色鮮やかに固定する。
それぞれの方法で、それぞれの生き様で、
注意深く、息をつめ、見つめ続けた者だけが、
"それ"のまばゆい輪郭をとらえ、すくいあげることができるのだ。
ある時には、はっきりと。
ある時には、馬鹿らしいほどに明確な形で。
片鱗を追いかける彼らは誰もが、困った顔で言うだろう。
だって、仕方がないんだよ。
ぼくには " それ " が見えるんだもの。切りとらないわけにはいかないじゃないか。
ぼくには、これしかできないし、早くしないと消えてしまう。
だから、ぼくには、いつも、いつも、時間がない。
おびえ、ひるんだ狂人の目は " 世界 " をとらえているけれど、
それを伝える術がない。
ほんの鼻先、顔の皮一枚の、すぐ向こうにまで迫ってこられて、
窒息するほど余すところなく、" 世界 " がまんべんなく充満していて、
押しよせる " 世界 " の海で、溺れそうになっているのに、
それでも伝える術がない。
人類こぞって追いかける " それ " は、
追えば、逃げ去る乙女のように、
突き放せば、すがる恋人のように、
熱砂を走る逃げ水のように、
気まぐれに姿をさらしては、熱心な求道者を翻弄する。
その実、いつも、そこにある。
" 世界 " は真理で満ちている。
人は " 世界 " をかじって、生きている。
人が本当に知りたいものは、今も昔も一つだけ。
自分の正体、それだけだ。
本当は、ちゃあんと知ってるくせに。
〜 世界のカタチ 〜
☆ web拍手を送る ☆
小説のランキング に参加しております。 .
気にいって頂けましたら、ご投票下さい。
ネット小説ランキングに投票する
( TOPに戻る )
ショートショート館 《 ぐるぐるのめいきゅう 》 / 短編小説サイト 《 セカイのカタチ 》