ヒトは四方八方に走っていた。
生まれ落ちた"中心"から、なるべく遠くに到達し、己が生まれた本体に、生存に有益な情報を、各々持ち帰るのが使命だからだ。
情報を得て強くなり、更に強くならんがために、ヒトは地平を目指して走り続け、新たな領域に挑み続ける。外へ、外へ、新たなる未知へ──。
個々に与えられた時間は短い。己が領分を拡大すべく、ヒトは各々懸命に走る。ともない、生まれた当初は間近にあった渦の"中心"は、年を重ねるに従い、遠くなる。
そこは、ヒトが生まれた場。
外に向けて遠ざかるにつれ、やがて思い出せなくなった懐かしい故郷。
かつてはそれにどっぷり浸かり、己が身の内にもあったものだ。幼ければ幼いほどに "中心"について把握していた。
ヒトは気になって仕方ない。
それは封じられた安寧の世界、世界の全てがそこにある。なぜ自分はここにいるのか。どこへ行こうとしているのか。自分は一体何者なのか──。
けれど、外を目指すのが個々の使命。
ヒトは外円を形成し、"中心"は厳然と背後にある。
とうとう誘惑に打ち勝てず、一人が肩越しにうかがった。途端、
ひゅん──と大渦に巻きこまれ、空気の抜けた風船のように " 中心 " の周囲をぐるぐる回って、スポン、とそれに吸いこまれてしまった。
〜 中 心 〜
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