白い衣をまとったその人は、裏の畑へとおもむいた。
腰丈ほどの緑葉が、うららかな陽を浴びて、一面におい茂っている。
「どれ、そろそろかな」
白衣の人は手をのべて、青々とした群生の中から、茎を一本引きよせた。
葉も、茎も、カリカリに乾いて枯れている。重たそうに首(こうべ)を垂れた先端には「茶色い実」がなっている。
白衣の人は、ていねいに手折って、愛おしそうに目を細めた。
「茶色く枯れた実」は熟成の証。
鳥に食われることもなく、立ち枯れることもなく、無事に育った果報者。そして、土壌の養分を自力で吸いあげ、ここまで立派に実ったのだ。
とはいえ、時を同じだけ経ただけでは、同じように熟成するとは限らない。
群生の中には「緑のままの実」もたくさんある。こちらはシワもなくつやつやで、一見きれいには見えるのだけれど、「緑の実」は生育不良だ。
もう一度、土壌に戻してやる。
熟成するまで、そうして何度でもくり返す。
白衣の人は手をのべて、「緑の実」をていねいに手折り、隣の土壌に埋めてやった。
「さあ、しっかり育っておいで」
こんもり、かぶせた土塊に、愛おしそうに目を細める。
あたたかな土の下では、今頃、聞いているだろう。「おぎゃー」とあがった産声を。
〜 豊穣の庭 〜
☆ web拍手を送る ☆
小説のランキング に参加しております。 .
気にいって頂けましたら、ご投票下さい。
ネット小説ランキングに投票する
( TOPに戻る )
ショートショート館 《 ぐるぐるのめいきゅう 》 / 短編小説サイト 《 セカイのカタチ 》