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豊穣の庭
 白い衣をまとったその人は、裏の畑へとおもむいた。
 腰丈ほどの緑葉が、うららかな陽を浴びて、一面におい茂っている。
「どれ、そろそろかな」
 白衣の人は手をのべて、青々とした群生の中から、茎を一本引きよせた。
 葉も、茎も、カリカリに乾いて枯れている。重たそうに首(こうべ)を垂れた先端には「茶色い実」がなっている。
 白衣の人は、ていねいに手折って、愛おしそうに目を細めた。
「茶色く枯れた実」は熟成の証。
 鳥に食われることもなく、立ち枯れることもなく、無事に育った果報者。そして、土壌の養分を自力で吸いあげ、ここまで立派に実ったのだ。
 とはいえ、時を同じだけ経ただけでは、同じように熟成するとは限らない。
 群生の中には「緑のままの実」もたくさんある。こちらはシワもなくつやつやで、一見きれいには見えるのだけれど、「緑の実」は生育不良だ。
 もう一度、土壌に戻してやる。
 熟成するまで、そうして何度でもくり返す。
 白衣の人は手をのべて、「緑の実」をていねいに手折り、隣の土壌に埋めてやった。
「さあ、しっかり育っておいで」
 こんもり、かぶせた土塊に、愛おしそうに目を細める。
 あたたかな土の下では、今頃、聞いているだろう。「おぎゃー」とあがった産声を。






〜 豊穣の庭 〜



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