【 thanks-SS.10-100219 】 『ディール急襲』第U部 第3章 9話 「 恋敵03 」 5 終了時
 
 

ファレスの日記 2   

  
 久々に気持ちよく居眠りした。
 そして、目覚めてみれば、あんぽんたんがいねえ。おい、と隣の肘を突付けば、ケネルはぐーすか寝入っていた。たく、使えねえことこの上ねえ。女の番一つまともに出来ねえのかよ、このタヌキは。
 舌打ちしつつも、ゲルを出た。まずはキャンプ内を見て回る。が、あの姿はどこにもない。人けないゲル裏で地べたにもっさり伸びたウォードが阿呆面下げて呑気にあくびをかましていたが、発見できたのはそれだけだ。つまり、ここにいなけりゃ──
「……森ん中かよ」
 またか。
 本格的にアホだなアレは。一人で行くなと何度言っても、まるで理解しやがらない。しかも、小便行くのに、ちり紙忘れるヤツがあるか。いつもあんぽんたんが持っていく用足しアイテムを引っ掴む。念の為、ブツ埋め立て用の赤シャベルも持ってくか。
 阿呆の気配を探りつつ、左右の樹海に耳を澄まして、静かな風道踏ん付け進む。案の定、左の樹海で気配がした。
「──あんの阿呆はっ!」
 又ふらふら歩き回っていやがるな。昨日襲われたばっかだってのに、まったく懲りねえトリ頭だ。
 見つけたら頭の一つもぶん殴ってやる、と苛々しながら獣道に分け入る。ああ、やっぱり、いやがった。こっちの顔見てぱちくり瞬き、何故だかボサッと突っ立っていやがる。て──
 もう囲まれてんのか、ド阿呆が!? 
 
 たく。身の程知らずの気使いほど無駄で迷惑なものはない。
 突拍子もない阿呆のせいでいささか予定は狂ったが、ネズミの方の片はつけ、とりあえずは一段落ついた。因みに、人質に取られたヤツなんてものは、普通はもっとしおらしいもんだ。
 あんぽんたんは案の定、ヨダレをたらして寝ていたタヌキがやーっと追いついてきたのを見た途端、果敢に飛びかっていきやがった。
「ケネルケネルケネル〜っ!」
 たく。この阿呆はすぐこれだ。十年一日の如くにケネルケネルケネル──。両手を振ってわしわし駆け寄る珍獣に、呼ばれたケネルが仏頂面で振り向く。ま、女に甘いタヌキのことだ、どうせ又、やれやれと溜息をついただけで許──
「馬鹿野郎! 何度言えばわかるんだ!」
 ……あ?
 珍しいな。ヤツがコイツを叱るとは。いつもはあんなに見て見ぬ振りを決め込むくせに。
 ケネルに飛びつく寸前で、あんぽんたんはビクリと停止、阿呆のように口を開け、ぽかん、と半泣きで突っ立っている。
「……あーあ、ケネル泣かした」
 ここは一番、囃してやった。日頃隙のないケネルのこと、こういう機会は滅多にない。
 ケネルは「──む?」と見やったものの、怒った顔は崩さない。こうも立て続けに掻き回されては示しがつかぬと思ったか、今回ばかりは甘い顔はしないらしい。──いや待て。他の女というならまだしも、相手は他ならぬ珍獣だ。コイツがケネルから説教食らえば号泣すること請け合いで、そうなりゃ傍迷惑なキンキン声が脳細胞を破壊して頭いっぱいに響きわたる。つまり、トバッチリ食うのは、実はこっちの方ってことか。 
「──おい、ケネル。それくらいにしておけよ」
 つか、マジで恐ええよ真顔で凄むな。まして相手がケネルにべったりのあんぽんたんじゃ、このまま無事では到底済むまい。嫌な予感が胸に込み上げ、突っ立ったオカッパをそろりと窺う。
「うあぁーーーぁぁあんっ!」
 両耳とっさに手で押さえ、大事な鼓膜を辛くも死守。だが、辛くも一瞬間に合わず、凶暴な泣き声が出し抜けに鼓膜を突き破った。耳がジーンと痺れている。女の泣き声はマジで強力な武器たり得る。
 あんぽんたんはこれみよがしにワンワンぐじぐじ泣いている。少し離れて立ったケネルは、それでも厳しい顔を崩さない。修復不能な双方に目をやり、こりゃ駄目だ、と判断した。ただでさえ用もないのにベタベタくっ付くあんぽんたんのことだから、しがみつく物をじたばた探して引っ掴まれること請け合いだ。まして打撃を受けたこんな時なら言わずもがな。
 あんぽんたんは鼻をずびずびやりながら、口を「へ」の字にひん曲げた無残な顔をのろのろ上げた。さてと、そろそろ突っ込んでくるか、と片手を広げてスタンバイ。
 さあ来い。突っ込め。かかってこいや!
「ケネルのばか〜っ!」
 ……何故ケネルに突進する? 
 てめえを泣かした張本人だぞ。腹に不意打ちで突っ込まれ、ケネルは(──ぅげっ!)と左右の頬を膨らませた。だが、腹筋鍛錬の賜物か、それでも辛うじて踏ん張った。ここで噎せてはシマらないから、どうにか耐えて持ち堪えたらしい。片頬引きつらせ見下ろす顔は ( なんでこっちに来んだよ、なんでっ! ) とヤツの驚愕の程度を余す事なく露呈している。腹を締め上げるかの如きにしがみ付き、おいおい泣いているあんぽんたんには、そんなもの見えやしないだろうが。
 手近なこっちに突進するとコチトラ同様踏んでいたらしく、ケネルは変更不能の説教面のまま、成す術もなく硬直している。グリグリ頭頂部をなすりつけられ、しばし腹を見下ろしていたが、とうとう現状把握が追いつかなくなったらしい、やがて脱力して首を振った。はー……と溜息をついている。どう事態が転んだところで、結局タヌキは突進される事になっているらしい。だが、恐るべきはこの珍獣だ。ケネルの悲劇はシャツに鼻水なすり付けられるくらいじゃ済まなかったのだ。
 やがて、腹に張り付いていたあんぽんたんが、ぐしゃぐしゃに歪んだ不細工な顔をのろのろ上げた。そして、
「ケネルのばかあっ! 恐かったんだからねっ!」
 力一杯なじりつつ、拳固で腹を強打&乱打。
 反撃されるとはまさか思わぬケネルの方は、( お、俺か? 俺なのか? 俺が悪いのか? )と力任せの猛攻に首を捻っておろおろ狼狽。どうやらヤツは厄日らしい。だが、ヤツのこういう締まらねえところは、何故だか女どもは見ていない。いや、目では確かに見ていても、何故だか脳が処理を怠る。ともあれピーピー泣いてるあの女、号泣すると見せかけて、その実、裏では存分に
 憂さを晴らしていやがるな?
 あっぱれ。狡猾な魂胆に舌を巻く思い。にしても、やはり女は理解不能だ。信賞必罰が通用しねえ……。
 ケネルにへばりついて攻撃していた珍獣が、急に、くたっ、とへたり込んだ。ケネルが気付いて「んん……?」とつまんで引き剥がし、圧しかかった頭を 「 おいこらあんた 」 と左右に揺するが、振れど叩けど復活しない。
 ほれみろ。言わんこっちゃねえ。あれっぱかししか食わねえからだ。
 腹ぺこで目ぇ回したらしい。
 
                                     たぶん、つづく。
 
 
 
 
 
 

 お粗末さまでございました。  (*^o^*)
 
 
 
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