【 thanks-SS.12-100412 】 『ディール急襲』第U部 第3章 11話 「 恋敵04 」 1 終了時
ファレスの日記 4
ケネルの戻りを待つでもなく、あんぽんたんはこっちを指さし、しゃあしゃあと言ってのけやがった。
「あんたのがいい!」
「……てんめえ。なあんで俺なんだよっ!」
指名すんじゃねえ。かったりいな。
どうせ、不器用そうなケネルより要領が良さそうだとかぬかすのだろう。毎度の事だが、この手の顔は損をする。何故かガキに懐かれるケネルは案外あれで器用なのだが、不精だからか何も出来ないように見えるらしい。まあ、タヌキが案の定寄り付かねえから、これの世話も仕方がねえか。こうして放免となった以上は、取り急ぎ戻るなんて下らねえ愚は死んでも犯しはしねえだろうし、むしろ有り余る暇を意地でも潰して知らんぷりを決め込むに決まってる。
目の前には、膨れっ面のあんぽんたん。森の中から全身ずぶ濡れで戻ってきたのだ。となれば、阿呆はあれで怪我人だから、ぐしょ濡れになった包帯を急遽取り替える必要がある。タヌキの野郎、こういう面倒事ばっか、こっちに押し付けてきやがって。
にしても、どこをどうやって歩いたら、こんなにドロドロになれるのか不思議だ。「だって竜がー」 だの 「だってトカゲがー」 だの口を尖らせて騒いでいたが、どうせ出任せに決まってる。つか、言い訳するにも
「竜」 はねえだろ。どこぞのガキでもあるめえし。
「──たくよー、なあんで俺がこんなことを」
文句たらたら見ていると、あんぽんたんは膨れっ面で、むに、と口を尖らせた。
「だあってしょうがないでしょー? 他は男ばっかなんだもおん!」
待てやコラ。
誤りが微妙に混じってねえか。
この泥んこ遊びのあんぽんたんは、勝手に親近感を覚えやがったらしい。
でも、目隠しはきっちりしやがった。
更には壁に向かって座らされ、頭に紙袋をおっ被せられる。あんの野郎、好き放題にしやがって。
「はーい。もう、いいわよん」
「てんめえ、じゃじゃ馬。それが他人にものを頼む態度かよ。" お願いします " だろうが!」
頭の紙袋を舌打ちで取り去る。あんぽんたんは定位置の寝床にちんまり座って、でかいタオルをぐるぐる胸に巻きつけている。つか、気にするほどのもんかってんだ。ああいう慎ましいヤツに限って妙な見栄を張りたがる。想像を越えるお粗末さに、脱力しつつも指示を与えた。
「……とっとと寝転がって、バンザイしとけや」
なんだって、こんなもんばかりお鉢が回ってくるんだか。今日こそ早めに出るつもりだったのに。女はやっぱり乳とケツだろ。作業をとっとと済ませるべく、舌打ちで絨毯から立ち上がる。
戸口で、ばさり、と音がした。見れば、ケネルだ。なんぞこっちに忘れ物か? フェルトを払い、頭を屈めて、もそもそ中に入って来る。ひょいひょい、ケネルが手招きした。
「ファレス、代わる。もう出ていいぞ」
なんと、ケネルが「おれがやる」と申し出た。自明だろうが念押しする。「──おい、分かってんだろうが、役得はねえぞ」
あんぽんたんに背を向けたケネルは、( うん、わかってる )と口パクで頷く。つつ、とこっちに寄ってきて、こそっ、と肩越しに耳打ちした。
( 行きたいんだろ? 街道に )
「……お?」
おお、珍しく殊勝だな。無休で働くこっちの事など気にする奴じゃねえくせに。もしや、万年休業の良心が、ついに、やっっっと目覚めたか? にしても、どーなってんだタヌキのヤツ。こんなくだらん面倒事を自ら進んで引き受けるとは。
「おい、マジで分かってんのか? こっちはつまんねえ雑用だぞ」
すかん、とタライが飛んできた。額を直撃、膝をつく。事実だろうがド阿呆が。にしても、なんて絶妙なコントロールだ。ケネルをきっちり避けやがるとは。ともあれ、代わると言うなら、ヤツが正気に戻る前だ!
ばいばい、と手を振る戸口のケネルに見送られ、そそくさ宵の草原に踏み出した。ぷっくり腫れたタンコブさすって振り向けば、青黒い宵闇の中、ゲルの戸口がぽっかり明るい。その奥で膨れっ面が、べええっ、と舌を出している。て、あんの野郎は──っ!
やっぱり、やりたい放題だ。
お粗末さまでございました。 (*^o^*)
☆ 拍手を送る ☆
( INDEX / ディール急襲TOP / Side Story TOP )
オリジナル小説サイト 《 極楽鳥の夢 》