【 thanks-SS.13-100605 】 『ディール急襲』第U部 第3章 12話 「 町の風 」 2 終了時
ファレスの日記 5
雑貨屋の店先で膝をかかえて丸くなり、あんぽんたんが、じぃぃっとしゃがみ込んで動かねえ。
ケネルに一喝をくらって以来、壁の隅っこに引っついて、いつまでもいつまでもいつまでもいつまでも、あんまり鬱陶しくしょげているから、ハジと繋ぎをつけがてら、こうして連れだしてやった訳なのだが──。
「わああ! これ、かわいいっ!」
縁台から装飾品をつまみあげ、あんぽんたんは目をまん丸くしてキャイキャイ騒ぐ。
そうかと思えば、
「──ぶーっ! なにこれダッサっ!」
口をタコにしてぶん投げる。いや、何がどう違うというのだ。さっき絶賛したヤツと。なんの規則性も見だせねえ。
あんぽんたんは相もかわらず一人でまことに騒がしい。そして、ああでもないこうでもないとブツブツ一人で御託をたれては取捨選別をくり返している。必然性と生産性を欠くそうした作業に、ほとほといい加減うんざりし、首根っこつかんで引っ張りもどした。
「今、そいつは関係ねえだろ。おら。とっとと次いくぞ」
案の定、途端にわめいたが、首根っこ引きずり、通りに戻る。
何を思ったか、あんぽんたんは、はっ、と弾かれたように足を止めた。息を止めたどんぐりまなこで慌てふためいて振り返る。なんだ。どーした。いやに真剣な顔つきだが──。
しかし、こいつは前後の脈略すっ飛ばし突如首を締めてきたりするから、まったくもって油断がならない。そうだ。ちょっと前にも、意味不明な奇襲をくらったばかりだ。今度はなんだ、とじりじり警戒していると、あらぬ方を指さした。
「すぐに戻るから、そこにいて! いいわねっ!」
──あ?
気ばって言うなり、脱兎のごとくに駆けていく。何をそんなに急いでいるんだ。
ああ、便所か。今の今まで平気な顔で歩いてたくせに、あいつ腹でも壊したか? 妙なもんは食わせてねえはずだが──。
かくして、あわ食って突進したその先は、
……床屋か?
意味不明だ。
なに考えてんだ、あの阿呆は。
第一、ケネルが切ったばっかじゃねえかよ。まだ、それほどむさ苦しいとも思えねえのに、アレの考えることは、いちいち全く理解できない。
しかし、あんぽんたんはすっ飛んでいっちまったし、場所をうっかり動いて迷子にでもなりゃ、後がよっぽど面倒だ。
仕方がないから、指定の街路樹で、しばし待つ。
しばし待つ。
しばし待つ。
待つ。
待つ。
……。
いつまで待たせんだあのアマは!
飛んでったきり戻ってこねえ。もう8分もたったじゃねえかよ!
腹は減ったわ何だかむんむん蒸し暑いわで気分がいっそう苛々する。どっかで祭でもしているのか道も急に混んできて、体感温度まであがった気がする。ああ、うざい。イラつく。暑苦しい。
やがて、あんぽんたんがすたこらこっちに戻ってきた。
わざわざ床屋に突撃したから、刈り上げにするとかチョンマゲにするとか丸坊主にするとか変わった頭にするのかと思えば、まるで代わりばえのしねえオカッパ頭だ。何がしたいのか、さっぱり分からん。そして、何が不満か膨れっ面だ。て、けんか売ってんのかコラ。
到着するなり、あんぽんたんは、あてつけがましく溜息した。そして、待たせた詫びを言うでもなく、顎を小生意気に突きあげた。
「もー。あんた、ちょっと、その口つぐんでおきなさいよー」
てめえにだけは言われたかねえ。
ハジが買ってきた服を見て、阿呆は「気に入らない」とか小生意気なことを抜かしやがった。無論、目立つ格好なんぞは絶対駄目だと却下する。ネズミにわんさと狙われてるのに何考えてんだこの阿呆は。人目を少しでも引いたりした日にゃ、的はここだ、とわざわざ教えてやるようなもんだ。
すると、懲りないトリ頭は、膨れっ面で言いやがった。
「じゃあ、普段着の替えとか色々見たいー」
……野郎。
もっとも、ハジの方の用件は済んだから、あとは阿呆を適当に遊ばせて帰るだけだが。
まあ、構わねえか、と横を見れば、あんぽんたんはグーの両手をぶんぶん振って、口をぱっくり開けて歩いている。上機嫌だ。それは、まあいいとしても、寄り道ばっかりしやがって、まるで先に進みやしねえ。て、何また座り込んでいやがんだ!? 服屋に行くんじゃねえのかてめえは!
首根っこつかんで引きずり戻し、手近な服屋に阿呆をぶち込む。
ほれ。ここがお前の目的地だろうが。すーぐ目移りしやがって。とっとと選べ未熟者。
不本意そうなあんぽんたんは、たこ口で文句をぶーぶーぶーぶー垂れていたが、それでも、てくてく店には入った。よし。──だが、
「……違う」
手にした服を「ほー……」と溜息で棚にもどす。そして、
「これも違う」
はあ、と首を振り、またも嘆息。
「うーん、これじゃないよな〜……」
検討しているブツこそ違うが、全く同じ作業のくり返し。
こいつは、どこにいても、こうらしい。たく。どれでも一緒だろうがクソアマが。袖があって身頃があって首が開いてりゃ、着るもんなんざ十分じゃねえかよ。げんなりして嘆息した。
「てめえ、そろそろ、いい加減にしとけよ。いったいそうやって何百軒、見て回りゃあ気が済むんだ」
「だあってえ!」
膨れっ面が言い返した。
「なあんか、みんなイマイチなのよねー」
いっちょ前に溜息をつく。ふと顔を上げ「あっ!」と棚を指さした。そして、
「見ぃぃっけ! あたしのピンクぅ♪」
……。
危ねえ。あやうくぶん殴るところだ。
ちなみに何故か、
財布がなんか、軽くなった気がする。
お粗末さまでございました。 (*^o^*)
☆ 拍手を送る ☆
( INDEX / ディール急襲TOP / Side Story TOP )
オリジナル小説サイト 《 極楽鳥の夢 》