【 thanks-SS.15-120728 】 『ディール急襲』第U部 第5章 9話 「弔鐘 」 3 終了時
ファレスの日記 7
近頃、阿呆は実によく食う。
今も飯をかっこんでいる。くる皿くる皿ぺろりと平らげ、実にいい食いっぷりだ。レーヌで拾われる前までは、小鳥が餌をかっ食らうくらいしか、いつも食いやしなかったのに。
それもこれも、俺のしつけの賜物だろう。
よくぞ、ここまで成長した……と感慨しきりで見ていると、こっちの皿に阿呆のフォークが。
「あっ! てめえ! なにしやがる!」
そうだ、俺のチェリートマトになにをしやがる!
とっさにフォークで強奪を阻止。領土侵犯してんじゃねえぞコラ。
だが、阿呆もさるもの、むむ、と見たきり撤退しねえ。ふくれっつらで言いやがった。
「なによおー。ちょっとくらい、いーでしょケチ!」
このアマ、言うにこと欠き太てえ態度だ。更にふくれて言いやがった。
「だあってえ! まん中のお皿じゃん!」
ざけんな! チェリートマトは俺のものだ。
大体、なんだ。腹を刺されてうなっている時、寝台に張りついてわめきちらし、めそめそずびずび泣いてたくせによ。
「俺が一番って言ったじゃねえかよ!」
飯つぶ顔にくっつけて、阿呆が顔を振りあげた。
「それとご飯は話が別よっ!」
……なんてえ顔で、すごみやがる。
つか、アレより飯のが上なのかよ。
初めにきたのは、ジョエルだった。
「はい、副長。食うでしょ?」
なにやら、袋をガサガサ手渡す。
「──おう」
袋を受けとり、中を覗けば、真っ赤に熟れたトマトが三つ?
て、なんだ、これは。
「角で屋台が出てたんで。甘くて中々いけますよ。じゃ、俺はこれで」
つか、なんで、いきなり、食いもんなんか持ってくんだ? 強請った覚えはねえんだが。
以来、特務が奇妙なことに、入れかわり立ち代りやってきた。
どいつもこいつも、寝ている寝台の枕元に、色んなものを置いていく。ロジェが酒を、レオンがツマミを、ダナンがキノコを大量に、そして、ザイが「退屈でしょ?」と、袋とじのエロ本を持ってきた。──て、気が利くなザイ。
なんのかのと食いものだらけになりながら、夜には連中が寝床をかこんで、酒盛りしいしい、札を打つ始末。
つか、何考えてんだ、こいつらは。夜中に寝床で騒ぎやがって。
うるさくって眠れやしねえ。昼に寝るからいいけどよ。まだ寝台から動けねえから、時間は幸い、腐るほどある。
そんなこんなで、次はハゲの番だった。
他の奴と同様ドアを入って、「調子はどうすか〜?」と笑いかけ、「──ありゃ」と後ろをふりかえる。
「……どこから、ついてきたんすか?」
困った顔で見おろして、ハゲが頭を掻いている。何か、後ろにいるらしいな。
何をくっつけてきやがった、とハゲの様子を見ていたら、ひょい、と女が顔を出した。
その顔に、思わず、のけぞった。
ハゲがどいた場所にいたのは、メイド服の双子の片割れ。
「……てめえはどっちの奴だ?」
手に汗握って、それを訊く。
おうよ。ここが一等大事なところだ。ここで選択を間違えると、実に面倒な話になる。
だが、どれだけ入念に観察しても、さっぱり一向に区別がつかない。
女を凝視し、じりじり警戒。
うつむき気味のメイド服が、うかがうように盗み見た。
「……お加減は、いかがですか?」
ほっと、ようやく息をついた。
「──なんだ、おめえか、泣き虫女」
にしても、なんだって、こんなものを連れてきやがる。なに尾行られてんだ、このハゲは。
ぼさっと見ていたハゲを睨むと、「あ! それじゃ、俺はこれで。ごゆっくり〜」と、そそくさ逃げていきやがった。感心するほど、逃げ足だけは速い。
それを見送り、戸口のメイド服が目を向けた。
振り向くなり、つかつか一直線に近づいてくる。なんだ? ハゲがいなくなった途端、なにかいやにキビキビした動き。……む。
嫌な予感。
案の定、その顔が、にたり、と笑い、両手を広げて飛びかってきた。
「ざんねーん、リナでしたあ!」
「──また、お前か! おかちめんこ!」
貞操の危機だ。
おかちめんこは、ぎゃんぎゃんわめき、皿から無理やり飯を食わせて、満足したように帰っていった。結局なんだったんだ、あの嵐は。
ちなみに、おかちめんこが言うことにゃ、脇腹の傷の原因は「喧嘩して刺された」ことになっていた。つか、誰が言ったんだ? 根も葉もねえそんなホラを。
つか、なんで、そもそも知ってんだ?
「しかし、なんで、こんなことになったんスか?」
今日も今日とて寝床には、特務の連中がたむろしていた。部屋をむさい連中に占拠され、暑苦しいこと、この上ない。
ザイが怪訝そうに首をひねった。
「副長が刺されるなんて、珍しいこともあるもんスねえ〜」
領邸裏で、腹を刺された一件だ。
おう、それがよ、と経緯をつらつら説明し、寝床をかこむ連中を見た。
「──でよ、ちょっとよそ見してたらよ、前から刺されちまってよ」
「「「よそ見すんなっ!?」」」
……なに殺気だってんだ?
いつもはへらへらしているザイも、怒り心頭に発した顔。
「……おう。悪かったな」
イマイチわけがわからねえが、どうもマジなようだから、ここは一応、謝った。
つか、なんで全員で怒鳴んだよ?
お粗末さまでございました。 (*^o^*)
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