【 thanks-SS.16-120821 】 『ディール急襲』第U部 第5章 9話 「弔鐘 」 3 終了時
 
 

ファレスの日記 8   

 
 
「はい、副長。でっかい奴じゃなくて、ちっちゃいトマトね。つか、でかくてもちっちゃくても一緒じゃね?」
 戸口で茶袋を引っ下げて、ありゃ? とジョエルが振り向いた。
「あんた誰」
 ぶっきらぼうに顎をしゃくる。
 そそくさ戸口に張り付いて、引きつり笑いを浮かべているのは、どっかで見たようなメイド服?
 前回、不法侵入でつまみ出されたから、本部に出入りする誰かに張り付き、連れを装って侵入したらしい。つか
 たち悪りぃな、こいつ。
「どーします、これ。つまみ出します?」
 ジョエルがやる気なさげに顎でさした。あわてて、おかちめんこが振りかえる。
 ぎょっとしたように動きを止めた。拳を握って怒鳴りつける。
「あんた、何してんのよっ!」
 あ?
 何してる、って、見てわかんねえかよ。
 けんすいだろ。
 毎日毎日タラタラ寝っころがってたら、体がなまって、しょうがねえ。
 散々だらだら寝てたから、さすがにクラクラしやがるが。
「あ?」
 
 ……血?
 
 


 

 あんぽんたんが、泣きやまねえ。
 朝飯を食い終わった途端、なんでか、めそめそ、おっ始めた。
 なんだ、腹でも痛てえのか? いや、痛てえのは俺か。
 だったら、原因はなんだってんだ? 
 今日はまだ、どついてねえし、脅しもかましてねえはずだ。
 部屋に入ってきた時は、普段通りの阿呆面だった。いきなりずびずびし始めたのは、飯を食い終わった後あたり。なら、ぴーぴー泣きやがる原因は、
 弁当か?
 泣くほど嫌いか? その弁当。残さず、きれいに平らげたくせによ。
 突進してきたあんぽんたんは、えぐえぐ、ずびずび、やっている。たく。ガキみてえにびしょ濡れのほっぺたくっつけてくんな。つか、ひとの頭で鼻水をふくな。
 仕方がないから、とっておきのチェリートマトを分けてやった。
 これで機嫌も直るだろう。なんたってチェリートマトなんだからな。
 あ? なんか、ごちゃごちゃ言ってんな。なんだ? 何を言ってんだ?
 "もっと" ?
 ……食う気満々だな、あんぽんたん。
 たく。なんて図々しい奴だ。もう、半分も残ってねえのによ。
 それというのも、あの時ジョエルに引っついてきた挙動不審のおかちめんこのせいだ。「何しにきた」と訊いた途端、ジョエルから袋を引ったくり、ガバガバむさぼり食いやがって。なんでなんだか茹でダコみたいに真っ赤な面で。
 まあ、済んだことは置くとして、問題なのはこの阿呆だ。
 阿呆は「もっと」と要求している。弁当が好みじゃなかったからだ。つまり、口直しを要求しているのだ。要求に応じて、こいつをやれば、阿呆は泣きやむ。だが、取り分がこれ以上目減りするのは心底むかつく当然だ。だが、こいつが泣くのは神経に障る──。
 取り分と阿呆を天秤にかけて、しばし、のたうって悶絶した。
 胃が痛くなるような拷問だ。こんな不運がたて続くとは、もしや厄年というやつか? あんな妙な化け物に脇腹刺されたと思ったら、せっかくのチェリートマトをおかちめんこにむさぼり食われ、更にその上、こんな拷問が待っているとは。そうだ。分け前の目減りは承服しがたい。だが、阿呆が泣くのは神経に障る──。
 荒ぶる呼吸を整えて、観念して、もう一こやった。だが、絶対これが最後だぞ?
 もう、ぜってえ、やんねえからなっ!
 このチェリートマトは俺のなんだからなっ!
 こっちは背水の陣、敷いてんだからなっ!
 本当なら、考えられねえ大奮発だ。だが、二つもやれば、さすがに阿呆も──
 ……ちっ。泣きやまねえ。
 やむなく袋を見てみれば、残るチェリートマトは、あと三こ。
 阿呆はぴーぴー、これ見よがしに泣きやがる。ここは、もう一こやるべきか?
 だが、やっちまったら、取り分が減るのは自明の理。
 たく。なんて苦行が待っていやがる。
 けんすいでひらいた腹の傷、縫い終わったばっかなのによ。おかちめんこぶん殴るの、死ぬほど我慢したのによ。まったく、今日ほど痛感したことはない。
 人生は、試練だ。
 
 
 

 お粗末さまでございました。  (*^o^*)
  ☆ 拍手を送る ☆
 
 
 

   アンケートやってます。
お手すきの時にでも、ご協力お願いします!
 
 
 
( INDEX / ディール急襲TOP / Side Story TOP )


オリジナル小説サイト 《 極楽鳥の夢 》