【 おまけSS.27 141022 】 『ディール急襲』第3部
おっかけ道中ひざくりげ
〜 副長とゆかいな仲間たち 〜
その6 の1
「んじゃ、多数決ってことで。恨みっこなし。いいスね」
ザイは腕組みで念を押し、連れの顔を交互に見た。
「はい。"先に進む" に賛成の人」
ひょい、と二人が片手をあげた。
目の前の街道には、ファレスと、セレスタンののほほん顔。
「──て、おいこら。腐れハゲ」
ザイは苦虫かみつぶして振りかえる。
「お前が賛成ってのは、どういうこった」
副長大好きなセレスタンのこと。彼の体を気遣って、てっきり反対にまわると踏んでいたのだ。
だが、蓋をあければ、これこの通り。「反対」はザイ一人きり。
「だって、俺らが反対したところで」
セレスタンは飄然と肩をすくめた。
「行くって言うでしょ、副長は。もたもたしてれば姫さんだって、どんどん先に行っちまうし」
「無理だろ普通に。この傷じゃ」
ザイは額をつかんで嘆息する。今、こうして歩いているのさえ、不思議なくらいの重傷なのだ。
笑って、セレスタンは禿頭を掻いた。「いや、平気っしょ、しぶといから。ぶっ殺しても死なねえくらいに」
「おう! トロトロやってる暇はねえ」
ファレスももどかしげに目を向ける。「今なんか、ムカついたような気がしたが」
なにか腑に落ちない顔つきで、だが、ファレスは街道に足を踏み出す。
はた、とザイを振り向いた。
「さてはお前、サボる気だな? そうだろザイ!」
「──誰も言ってやしねえでしょ、そんなこた」
やむなくザイも、やれやれと二人に足を運ぶ。「又ぶっ倒れても知りませんよ?」
「俺は平気だ。決まってんだろ」
ギン、とファレスは仁王立ちで、三白眼を振り向ける。
「傷なんざもう、とうに治った。おう。話がついたら、とっとと行くぞ」
「了解」
「じゃ、馬、こっちに回しますよ」
セレスタンがぶらぶら横を追い抜く。「ちょっと、ここらで待っててください」
ぶらぶら足を向けながら、ザイはげんなり嘆息する。
(たく。なんなんだ、こいつらは)
能天気すぎる。何度も言うが重傷なのだ。
先を行く禿頭の背を何の気なしに見送って、ふと、街道のかたわらで目を止めた。
小柄な人影が、木の下にある。若い女。街道脇の右の木陰。
その顔を認め、面食らって息をつめる。
とっさにザイは目をそらし、苦々しげに顔をしかめた。今日は珍しく私服だが、そこにいるのが誰であるのか、ザイにはたちどころに分かったようだ。
「──お? あいつは」
ようやくファレスもそれを見咎め、ぶらぶら歩きの足を止めた。
怪訝な顔で向き直り、眉根を寄せて、その場で固まる。
「……どっちの奴だ?」
彼女は胸で手を握り、ファレスを見つめて思いつめた顔。いつも一緒の双子の片割れの姿は見えない。
彼女がうつむき気味の顔をあげ、決心したように近づいた。
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