【 おまけSS.27 141113 】 『ディール急襲』第3部
おっかけ道中ひざくりげ
〜 副長とゆかいな仲間たち 〜
その6 の2
あの双子の片割れが、思いつめた顔で見つめていた。
ラトキエ領邸の使用人。双子の名前はリナとラナ。威勢のいい方が妹のリナ、大人しい方が姉のラナ。
昼日中の街道で、彼女をながめるファレスのかわたら、ザイはまぶしげに目をすがめる。
「──へえ」
ふい、とよそに目をそらした。
ぶらぶら道を歩き出す。「なにか話があるようで」
ファレスの横を通りすぎ様、前を見たまま念を押した。
「相手は堅気のお嬢さんスよ?」
しかめっ面で、ファレスは見やる。「だから、なんだよ」
「くれぐれも 泣かしたり しねえように」
問答無用で、きっぱり諌め。
初歩中の初歩ではあるが(幼稚園児なみの)
「──たりめーだろうが、そんなもん」
仏頂面で、ファレスはごちる。
「じゃ、俺は外しますんで。──副長」
歩き出した足を止め、ザイは肩越しに念を押した。
「いいスね」
「……あ?」
きっちり釘をさされてしまい、ファレスは頬をゆがめて突っ立った。
「あの野郎。人をなんだと思っていやがる」
離れるザイの背にぶちぶちとごち「まあ、いいか」と向き直る。
「よう。どうした。観光かよ」
さばさば彼女に声をかけ、そちらに気負いなく足を向けた。
「遊びに行くのはいいけどよ。今、トラビア方面は危ねえぞ?」
彼女は見るからにあわてた様子で、どぎまぎ目をそらしている。
「まあ、行くなら精々、ノアニールまでってところだな。あの辺までなら、さほど危ねえ目にはあわずに済む……」
説教顔で覗きこみ、ぴたり、とファレスは足を止めた。
《 副長、いいスね 》
むくむく諫言が脳裏をよぎる。
《 くれぐれも 泣かしたり しねえように 》
むむ……とファレスは固まった。
そういや、あれは「泣き虫女」そして既に、二度ほど泣かした前科がある。ちなみに、次に泣かせば、三度目の正直……。
ぶちぶち肩越しにザイを見た。
「あの野郎……」
さらりと言ったが、なんか意外と難問だ。
次の街角までぶらぶら歩き、ザイは肩で壁にもたれる。
上着の懐に嗜好品をさぐり、苦々しく空を仰いだ。
煙草をくわえ、火を点ける。
「なあに見てんの」
よっ、と肩を叩いて笑いかけたのは、あの見慣れた禿頭だった。
ザイは一服吐いて、怪訝に見まわす。「馬はどうした」
馬をとりに行っていたはずだが、彼は身軽な一人歩きだ。
「それが、なんでか動かなくてね」
同じく煙草を取り出して、セレスタンは肩をすくめた。「どーしても嫌だってさ、トラビアの方に向かうのは。ありゃ、ちょっとやそっとじゃ動かないね。それよりさ、どしたのアレ」
笑って、道の二人を顎でさす。
夏日照りつける人けない道に、向かい合って立っているのは、副長ファレスと例の彼女。
「なんか深刻そうな感じじゃん。つか、俺の見間違いじゃなかったら、なんかアレ、告白られてね?」
「別に、何も間違っちゃいねえよ」
「止めなくていいわけ?」
「なんで」
「相手はあの副長だぜ。考えなしに突っこめば、こっぱ微塵は間違いなしだろ」
「傍が口出す話でもねえだろ」
「ま。そりゃ、そうだけどさ」
「一応、泣かさねえよう釘はさした」
「……。それ、副長には拷問じゃね? そんなこと言ったら、がんじがらめで動けなくなるぞ? つか」
セレスタンも煙草に点火して、呆れ顔で振り返った。「いーわけ? お前は」
「何が」
「気に入ってたんじゃないの? あの双子──ラナちゃんだっけ?」
ザイは苦虫かみつぶした。「お前が思うような仲じゃねえ。人のことより自分の心配をしたらどうだ」
「俺?」
セレスタンが面食らった顔で自分を指した。
「……いいよ、俺は」
苦笑いして、軽く手を振る。「俺の場合、根っこの部分がイカレちまっているからさ。ま、自分一人ならバランスとって、どこへなりとも流れても行けるが、誰かを担いでとなると、さすがにね。まあ、けど──」
意味ありげに、にんまり笑う。
「遊び相手は欲しいかな?」
ザイは白けた顔で目をそらした。「好きにしろよ」
「あなたのことが好きなんです!」
甲高い女の声が割りこんだ。
待機していた街角から、二人の対峙する通りを覗く。
同じくそちらに首を伸ばして、セレスタンが苦笑いした。
「おやおや。とうとう、やっちまったか。けど、相手が副長じゃあね。さて、どう返しますかね、あの幼稚なガキんちょは」
日照りの道に立っていた、長髪の背が身じろいだ。
足を踏みかえ、ためらうように目をそらし、そして、向かいに目を戻した。
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