☆ CROSS ROAD 月読の記憶 01







【1】 難 破



 古い毛布にくるまって、荒れ狂う海を見ていた。
 浜では、轟々と火が焚かれ、気の荒そうな男たちが、大きな声で怒鳴っていた。
 女は毛布をかかえて駆けまわり、浜にうずくまった者たちを、甲斐甲斐しく介抱している。
 皆、奇妙な成りだった。
 あたりは暗く、騒然としている。
 入り乱れた喧騒の中、ばさり、と女が毛布をかぶせ、もう大丈夫だからね、と労わるや、すぐに、あわただしく駆け去った。

 底冷えのする晩だった。
 髪も衣服もずぶ濡れで、指がかじかみ、唇が震えた。
 古い毛布を握った指が、体温を奪われ、夜目にも白い。 

 試みは、失敗したようだった。
 とりあえず、一度戻らねばならない。
 門はどちらか、と通りすがった女に尋ねたが、女は怪訝そうな顔をして、首をかしげて行ってしまった。
 腕を組んだ陸の者に、ゼルガディスが事情を説明している。だが、話は一向に通じていない。

 遠くの黒い岩礁に、波が叩きつけられていた。
 吹きすさぶ風、荒れ狂う海。見たこともない岩がある、真っ暗な夜の浜辺。
 不吉な雲でおおわれた、冷淡でよそよそしい日没の空。
 胸の翠石を、知らず握りしめていた。
 ここは、一体どこなのか。


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