第2部1章【最終話】

CROSS ROAD ディール急襲 第2部1章 【最終話】
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 木漏れ日さしこむ真昼の森を、枯葉を踏んで、さくさく歩く。
 足場を選び、普段より慎重な足どりで。
 降り積もった枯葉の層が、踏みしだかれて音を立てる。ケネルの分厚い靴裏で。野草や藪を払う音──。
「……歩けるだろう、自分の足で」
 こんな所まで走ったくらいだ、と見まわすケネルは疑わしげな顔。
 その背中に負ぶさりながら、ぷい、とエレーンは横を向く。
「無理。転んで足くじいちゃったもん」
「だが、あんたを背負うと、両手がふさが──」
「いーでしょっ! 手なんかっ! どうだってっ!」
 怯んで、ケネルが口をつぐんだ。
「みんなケネルのせいなんだからねっ!」
「いや、転んだのは、あんたが勝手に──」
「ケネルが意地悪しなかったら、こんなとこまで来なかったもんっ!」
「……そ、そうか」
 ケネルは不承不承引き下がる。わんわん泣かれて懲りたらしい。
 エレーンは口を尖らせて、もそもそ首筋にしがみつく。ケネルの額のそれに気づいて、手のひらでさわさわでた。「ねー、なに? このタンコブ。どっかにぶつけた?」
 ケネルが苦々しげに舌打ちした。「──誰のせいだ」
「はあ? なにそれ。あたしのせい?」
 む、とケネルは口をつぐむ。もやっとしている顔つきだ。だが、
「……。なんでもない」
 結局、仏頂面で引き下がった。余計なことは言うまい、と固く心に誓った顔。
 ぽかん、とエレーンは首をかしげた。
 すぐに(まあ、いいか……)と、ケネルのうなじに潜りこむ。どうせ、どっかで転びでもしたのだろう。こっちが見てない知らない時に。なんでか憮然としているが、身に覚えはないのだし。そんなことより──
 ケネルの肩に頬をつけ、目を閉じ、揺れに身を任せる。陽に温まった黒髪の襟足。あの日と同じお日様のにおい。揺らぐ頬が、思わずほころぶ。「……ねー、ケネル」
「なんだ」
 ふふっ、と微笑って、しがみつく。「んーん。別になんでもない」
「……」
「ねー、ケネル」
「だから、なんだ」
 軽くあけた唇で、その首筋をそっとなぞる。
 ケネルが首をすくめて、のけぞった。
「──なんなんだ!」
「んーん。別になんでもない」
 返事をしてくれるのが嬉しくて、ついつい何度も呼んでしまう。
 ぎゅっ、と首にしがみつき、エレーンは存分にすりすりした。固い背中。ケネルのぬくもり。戻ってきた。やっと。やっと。
 ──やっと!
「おい、そんなに首を締めるな」
 む。
 なんだと? 天下泰平鈍感男のくせに。
「わしゃわしゃ頭をかきまぜるな。──こら。咬むな。蹴るな。足を振るな。くじいたんじゃなかったのか」
「……むぅ」
 なんで一々注意すんのよ。
 まったく、この鈍感タヌキは、どうして、そんなに無粋なのだ。せっかく人がいい気分なのに──。抗議をこめて、かぷり、とエレーンはかぶりつく。
 わなわな肩を震わせたケネルが、青筋立てて振り向いた。
「蹴るな叩くな頭をかじるな! どうしてそんなに落ち着きがないんだっ!」
「ふ〜んだ! もっと、かじっちゃうも〜んっ!」
「猛獣か! あんたはっ!」
 知らんぷりの鼻歌で、エレーンは足をぷらぷらさせる。足なんか、もちろん、
 どこも、ちっとも痛くない。
 
 

ディール急襲 第二部一章  < 了 >
 
 
 
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☆──SS-1 「隊長と姫のめくるめく攻防 〜森の中〜」──☆
 
 
 
 本稿をもちまして、第二部一章は完結です。
最後までお読み頂き、ありがとうございま した。

もっとも、この後、
次章以降につながる挿話「interval」の更新がございますので、
引き続きお付き合い頂ければ、嬉しいです。


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