CROSS ROAD ディール急襲 第2部 2章 interval 〜萌芽 〜
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interval 〜 萌 芽 〜

 
 
「……あのなあ、お前ら。もうちょっと、なんとか、なんねーのかよ」
 屈んだ膝に両手をついて、ダドリーは、呆れた顔である。目の前にあるのは、肩でゼエゼエ息をつき、地面にグテ〜っと這い蹲った、ラルッカ配下の三人組。
 結局、彼らは悲鳴を上げて逃げ回るばかりで、何の役にも立たなかったのだ。その悲惨にして滑稽な戦い振り(?)は、不甲斐なさを補いまくって余りある。
 そして、両手を投げ出しヒイヒイゼイハアやってる彼らは、
「「「 ……そ、そんなことを……言われて……も…… 」」」
 息も切れ切れ、完璧にグロッキー状態。
「まったく情けない連中だな〜。逃げ回ってばっかじゃなくて、少しは応戦なんかもしたらどうだよ。お前らも官吏の端くれなら、剣術の訓練くらいは日々積んできている筈だろう? なら、あの程度、どうにか出来るだろうがよ普通──」
「「「 出来るかっ! 」」」
 キッと、三人揃って顔を上げる。
「「「 あんたらが異常なんだあんたらがっ! 」」」
 三人は、ブンブン人差し指を振り回す。既にキレ気味。
 例の上司と引っくるめて名指しされ、ダドリーはキョトンと小首を傾げた。
「そお?」
 そう、相手はそれを生業とするプロである。
 それで飯を食っているんである。
 そもそも、職種ってもんが違うんである。
「「「 ぼ、僕らは普通の(←!?)人間だぞ! ただの役所の官吏だぞ! 書類が相手の仕事だぞっ! 」」」
 絶対、出来ない! と食ってかかる。既に、涙目。ある意味、鬼気迫る勢いだ。
 頭を掻きつつダドリーは、屈んでいた上体を、やれやれと引き起こした。
「──もう。困った連中だな〜。もうちょっとくらい、使えるんじゃないかと思ってたんだけどな〜……」
 そして、そそくさと退散する。
 身の危険を感じたようだ。
 
 肩越しに振り向き振り向き、ダドリーは、木陰で涼んでいたラルッカへと歩み寄った。ふと顔を上げた相手に「よ!」と気楽に笑いかけ、件の三人へと顎をしゃくる。
「物好きだな〜ラル。なんで選りにも選って、あんなのを」
 どう見たって、落ちこぼれっぽい。部下に選ぶなら、他に幾らだって適任者はいたろうに。もっと頭が切れそうな奴だとか、護衛に使えそうな屈強な体格の奴だとか。
「しかも、あいつら、年齢とし幾つだよ? 案外、まだ学生だったりすんじゃねえの?」
 ラルッカは、軽く肩をすくめた。
「仕方がないだろう。エルノアが選んでしまったんだから」
「へ? なんでエルノア?」
 意外な名前の登場に、ダドリーは固まりかけて目を瞬く。この"エルノア"というのは、ラルッカの婚約者の名前である。もちろん、役所の人員採用に当たっては、なんの権限も持ってはいない。
「受験者名簿で、あの三人の顔を見つけてしまったらしくてな」
 ラルッカは、輪になって未だブツブツやってる三人へと、ごくさりげなく視線を送った。
「あれ、同じ顔をしてるだろ? それで、いつの間にか、人事に書類を提出されてしまって」
 勝手に ○ を付けちまったらしい。
 ダドリー、引き攣り黙る。("神経衰弱 "じゃねえっつの)
 一匹多いが。
 軽く溜息をついて、ラルッカは続ける。
「エルノアの奴、すっかり気に入ってしまったらしくてな。近頃じゃ、日に三度は(
私用で)屋敷へ呼びつけるし、あいつらもあいつらで、妙に懐いてしまってて、呼ばれた途端に、嬉々として出かけて行く始末だし……。今ではエルノアの小姓のようだ……」
 ふっと遠い目をした哀愁漂うラルッカ。
「屋敷からの遣いなんか、追い返せば?」
「相手は天下のドゴール商会だぞ。下手すりゃ、こっちが叩き潰される」
「……それも、……そうだな……」
 エルノアは、大層お金持ちなお家のご令嬢なんである。そして、彼女の生家は、商都カレリアの商人会を束ねる、誰でも知ってる大商家の一。因みに、箱入り無菌状態の一人娘であるので、俗に言う「親バカか──!?」ってなくらいに、いたく溺愛されて育てられ、そのまんま現在に至る──なんである。結果どんな代物に育っちまったかについては、言わずもがなってヤツであろう。つまり、下手に突付けば、天下の大ロワイエ家 vs 大ドゴール商会の熾烈なる戦いが華々しく開幕すること必至である。実に下らない理由で。
 ラルッカ同様、件の三人に目をやって、ダドリーは、ポカンと見返し腕を組んだ。そして、ごくごく当然のことを訊く。「なんで訂正しないワケ」
「無論、したに決まってるだろう」
 ラルッカは、キッと顔を振り上げた。そう、そんなチョンボは、そもそも無効もいいところ。しかし、何故だか、すぐに項垂れ、ラルッカは、力なく首を振る。
「だが、気付いた時には、遅くてな。全てが受理された後だった……」
「……。(さては、エルノアの奴、妨害したな)」
 ダドリー、再び、引き攣り黙る。裏で手を回しやがったらしい。ああ、左頬に手の甲添えたお嬢様の甲高い高笑いが、何処からともなく聞こえてくるようだ…… 
 そこに真っ黒な陰謀の匂いを嗅ぎ付け、固まるダドリー。そして、そんなことは露ほども思ってみないらしいラルッカは、重たい溜息を、はあ……っと、つく。
「それに、見ろよ、あの張り切りようを。採用が決まって、あいつら、もの凄く喜んでてな。あれじゃあ、とても言えやしないだろう? 今更 "間違いだった"なんて」
 ラルッカは、白皙の額を長い指で揉む。苦悩する彼の脳裏に蘇るのは、感激した三人にヒシッと手を握られて、更には「「「 頑張りますっ! 」」」と上下左右にブンブン振られ、三方から「「「 見捨てないでね…… 」」」と取り縋られた、あの夕暮れの執務室……
 そして、この件とは一切無関係な天下泰平ダドリーは、つくづく呆れ顔で小首を傾げる。
「──ばっかだなあ、ラル。なんで採用者名簿なんか、エルノアあれの手の届く所に置いておくんだよ」
 自殺行為だ。
 ヒクリと柳眉をひそめたラルッカは、白皙の額を、更にグイグイ揉み込む。
「不覚を取った。しかし、まさか、採用者名簿あんな物に興味を示すとは」
 夢にも思わなかったらしい。
 痛恨の拳を(今更ながら)ギリギリ握るラルッカに、ダドリーは困った顔で腕を組んだ。
「お人好しだな〜、ラルも。それで、あんなの引き受けちまったってワケ? しかも三人いっぺんって、正気かよ。そんなに側仕え採っちまったら、どんなに優秀な奴が現れたって、もう誰も採れねーじゃん」
 満員御礼、舞い飛ぶ紙吹雪。もう人数枠いっぱいである。
「仕方がないだろ。……いいんだ、あれはあれで。あいつらも随分張り切っているようだし」
 盛大な溜息を吐き出して、ラルッカは、吹っ切るようにして顔を上げた。
「その分俺が頑張ればいいんだし、仕込めばなんとかそこそこ使えるようにはなると思うしなに人なんてものは育てよう一つだからこっちの指示さえしっかりしてればきっとなんとかなる筈でイヤ俺がなんとかしてみせるっ!
おう!やらいでかっ!だいたいあいつら喜び勇んでとっくに親戚一同に触れ回っちまったみたいだしなまったくそういう早トチリもどうかとは思うがでもだからといって今から文句を言ったところでどうにもならんし余計なコトして妙な恨みを各方面から買ってもなんだし今更解雇も出来ないし……( 以下、略 )……」
 そして、引き攣り笑顔で、妙な呪文をブツブツ唱え出したラルッカの苦悩は、線路は続くよえんどれす……(?)
 そりゃあ、あの三人が狂喜乱舞するのも、無理のない話なのだ。なんたって、彼の出自ロワイエ家は、由緒正しきお家柄。過去、幾多数多の大人物を輩出し、このラルッカの就任と同時に、久々の中央復権を遂げた輝かしいエリートの家系なんである。さん然と光輝く名家"ロワイエ"の威光と権勢は、商都カレリアに住む者ならば、路地裏でカツアゲ中の子供だって知っている。
 
 
「大将〜、あいつらも捕虜と一緒に置いていこうぜ。足手纏いだ」
 降って湧いた即興戦も無事終わり、ようやく人心地ついた《 ロム 》達が、呆れた顔でやって来た。不甲斐ない三人組を、立てた親指で指し示し、心底うんざりと嘆息する。
「真面目にやってる人の目の前、ウロチョロウロチョロ横切りやがってよお。まったく邪魔っけだったら、ありゃしねえ」
「あんなのにかまけてたら、こっちの方が危ねえよ」
 案の定、不満たらたら苦情続出。総評──最低ライン、落第点。
 まあ、無理もない。貢献するどころか、足を引っ張るばかりなんである。
 だが、ツレなく肩をすくめたダドリーは、
「無茶言うな。こんな所で放り出したら、あいつら、きっと、ディールの哨戒に、あっという間に捕まるぞ」
「「「 えっ? 」」」
 他ならぬ当の三人が、一瞬の内に氷結する。確か、ついさっきまではアッチの木陰で伸びてた筈だが、いつの間にやら、そそっ……と様子見に寄って来ていたらしい。
 じっとり……と、三つの熱い視線で仰がれて、《 ロム 》の一人が、鬱陶しそうに手を振った。
「あんたら、帰れ。邪魔なんだよ」
「「「 いいい嫌だっっ!!! 」」」
 三人組は、速攻で拒絶。ブンブン首を振り、イヤイヤしつつも、三人同時にジリっジリっと後退る。もちろん、ディールの餌食はイヤである。
 伸び放題の髪の毛を、面倒臭そうにボリボリ掻いて、別の《 ロム 》が顎をしゃくった。
「こっから先は、戦場なんだよ。ますます哨戒の目が厳しくなる。なのに、あんたらみたいな柔っこい奴に、目の前ウロチョロされてみろ。こっちの方が迷惑なんだよ」
「「「 嫌だっ! 帰るもんか! ぼ、ぼ、僕らを見捨てるつもりだなっ!? 」」」
 三人互いに抱き合いつも、すぐさまハモりながら食い下がる。
 聞き分けのない三人に、《 ロム 》達は、はあ……と、脱力の溜息。まったく喩えようもない情けなさ、あまりにも無様な体たらく振りである。素直といえば素直だが、あんたらにはないのか、矜持ってものは。
 三人はそれぞれ頬を引き攣らせ、ガルルル……と相手を威嚇しつつも、「「「 絶対帰るもんかっ! 」」」の実に強固な意思表示。うっかり手なんか出そうものなら、たちまち噛み付かれちまうこと請け合いである。しかし、その実、縋るような眼差し。
「──ち! しょうがねえな」
 バリバリ牽制している三人を、やれやれ……と眺め下ろして、《 ロム 》達は盛大な溜息をついた。
「だったら、次、戦闘になったら、大人しく隅っこに引っ込んでろよ」
「さっきみたいに足引っ張られるのは、ご免だからな」
「──ああ、まったく、使えねえ連中だぜ!」
「日頃は、あんなに威張り散らしてるくせによ」
 雨アラレと降ってくるのは、嫌味混じりの厳命である。
「「「 ……はい 」」」
 身の程を知った三人組、実に素直に良いお返事。皆、しょぼくれてグーの音もない。
 ああ、栄えあるカレリアの徴税官。合流早々 "みそっかす" の称号を受ける。
 
 
「陽のある内に、そこらで兎でも狩っとくか」
 食事をするにも、干し飯だけでは、如何にも侘しく味気ない。なので、オカズを調達しようというのである。
「──お、狩りか?──俺もやるっ! 弓貸せ弓っ!」
 野生児ダドリー、嬉々として参加を表明。例え、パンツ一丁巻きの無一文で、突如寒空に放り出されてしまっても、コイツならばヌクヌクと、勝手に生きてくことだろう。何せ、締め出し食らった三階の、、、自室に、平気でダイブしちゃう奴である。
 だが、ラルッカ配下の三人は、
「「「 ……ウサギ? 」」」
 怪訝に顔を見合わせた。
 普通に育ちの良い彼らのこと、無論、狩りなど、したことはない。
 そして、キレた上司にうっかり付いて来ちまったもんだから、食料はおろかオヤツの一つも持って来てやしないのだ。
 
 日没には、まだ少し早いが、風が大分ひんやりとしてきた。
 予定外に足止めを食らい、又、いささか"不都合"が生じた事情もあり、ここで早目の晩飯を取ろうと話が決まる。付近の木立で、獲物を要領良く仕留めた《 ロム 》達は、手馴れた様子で火を熾し、焚き火を囲って、さっさと食事を開始した模様。
 しかし、見よう見真似で、アタフタと木立に入った "みそっかす" の三人組は……
「──おい、見てみろよ、あれ!」
「なんでえなんでえ、あのへっぴり腰はよ」
 まったく、無様極まりない有様だ。いたいけな野兎一匹に、中腰姿勢の三人がたかり、ウロチョロウロチョロ追い掛け回す。そして、意を決して飛び掛った挙句に、あっさり目の前で逃げられる。顔を見合わせ、それを指差し、《 ロム 》達は、ゲラゲラ大爆笑。ある意味、格好の肴である。
 ピーピー口笛で野次られて、三人組は俄然躍起になるも、しかし、何度やって、やっぱり玉砕。柔らかそうな毛皮目がけて飛びついてみても、獲物になんぞ掠りもしない。可愛らしい野兎に、見るからに馬鹿にされている。
 そう、兎如きと侮るなかれ。彼らは日々死線を掻い潜り、過酷な弱肉強食の世界に生きる野生の獣なんである。鍛え上げられた彼らの足は、捕食者の襲撃から逃れる為に付いているのだ。決して、本日新装開店出血大サービス!のパチンコ屋の行列に居並ぶ用途でくっ付いてる訳でも、はたまた、そこらの飲み屋に一杯やりに行く用途でくっ付いてる訳でもないんである。そう、食卓の椅子に踏ん反り返って、ご飯が出て来るのを、のほほんと待ってるこの三人とは、基本的に鍛え方が違うのだ。──と、突進したその顔に、後ろ足で強烈な三連続キックを喰らって、バタリと草の中にへたり込んだ。そして、既にヘトヘト疲労困憊の三人は、とうとう、そのままバタンキュー。クタ〜ッと地面にへばりついたのだった。
 散々苛められた野兎は、邪魔っけな障害物と化した三つの背中を、踏ん付けるようにしてピョンビョン飛び跳ね、バネの利いた後ろ足で、カカカ──ッ!と長い耳を掻いている。余裕のよっちゃんである。
 勝者、兎。
 そして、勝利の雄叫び、ならぬ、勝利の毛づくろい。
 
(((( あんたら、兎一匹、満足に捕まえられねーのかよ…… )))
 
 ギャラリー、引く。
 とことん惨めである。
 
 「──仕方がねえな」
 散々笑った《 ロム 》の一人が、重たい腰を、ようやく上げた。
「余りもんでも分けてやるか。飢え死にさせるって訳にも、いかねえだろうし」
 "みそっかす" 達の、あまりの惨状を見かねたようだ。パチパチ爆ぜる焚き火の前から、串刺しの"救援物資"を掻き集める。しかし、昼の戦闘で散々邪魔され、いささかムカついていた面々は、
「ほっとけよ。奴らだってガキじゃない」
「てめえのことは、てめえでなんとかするさ」
「そうだ。甘やかすと癖になるぞ」
 ブツブツ言いつつ、プイと三人から目を逸らす。実に、非友好的な態度だ。
 そして、苦々しい顔で「ちっ!」と舌打ち。如かして、その心中は──
 
(((( 何度踏ん付けそうになったことか──! ))))
 
 アワアワやって来た三人に、いきなり股の下潜られて、引っ繰り返った後頭部に、タンコブ作った者もいる。
 皆から口を揃えて却下されてしまい、兎の丸焼き片手に立ち上がりかけてた中腰の男は、
「……そ、そうか?」
 ストンと、元いた席に、又、座る。そして、サバイバル・ツールの鉄串を、元あった位置に、ねじねじ……と差し直す。
 結局、放置ということで、話は決まった。しかし、まあ、──
 それでも、焼き兎の男は気になるらしく、三人に向けてチラチラ視線を投げている。そして結局、奮闘続く林の方を、ボソボソ言い訳しつつも振り向いた。
「しかし、素手で狩りをしろってのも中々シンドイもんがあるしな。──ま、道具くらいは貸してやるか」
 武士の情けってヤツである。
 
「ほらよ、弓矢だ。貸してやる」
「「「 ……えっ? 」」」
「頼むから、こっちに打ち込んでくれるなよ」
 だが、日頃から、狩りなどには、とんと縁のない彼らなんである。「ほれ、どーぞ」とフレンドリーに手渡されはしたものの、この三人にしてみたら、弓矢なんぞ、使ったことはおろか、実物を見たことさえも碌にないのが実情なので、屈み込んだ相手の顔をポカンと見上げて、ただただキョトンとするばかり。"コイツラ、やる気ナシ"と一発で分かる空虚振りである。
 焼き兎の代わりに道具を持ってきてやった親切な男は、三人の薄ら寒いリアクションを、しばし、笑顔を凍らせた思考停止の顔で見ていたが、
「……使い方が分からねえのか」
 パチクリと目と瞬き「「「 うん 」」」の意思表示をする三人。
 男は、空を仰いで、自分の額を片手で掴んだ。
「あー、いーよ。好きにしろよ、もう」
 そこまでは面倒みきれねーよ、と、ついに匙を投げられる。大サービスで来てくれた男ではあったが、やっぱり、やれやれ……と行ってしまった。
 ポツネンと取り残された三人は、膝の上にある年季の入った珍しい道具を、しばし、腕組み状態、小首を傾げて、うーむ……と唸りつつも見ていたが、
「「「 ……どうする? 」」」
 どうしようもない。
 ただただ、そうやって、じぃ──っと恨みがましく見つめてたって、どっかのスプーンみたいにクニャっと勝手にひん曲がったりもしなけりゃ、いきなり弓の達人に変身しちゃったりもしないのだ。しかし、──しかし、だ! 
 現実問題、三人のお腹はクークー泣いて、「さっさと、どーにかしろよっ!」と己の窮状を訴える。
 もう、お腹と背中がくっ付きそうなんである。腹ペコ窮状は、最早MAX。だがしかし、ここにある弓矢は、どうしたって使えそうもない。だって下手すりゃ物騒なオウンゴール 、同士討ちにでもなったら、それこそ目も当てられない不幸ではないか。そもそも、お肉は、お肉屋さんで買うもんである……
 やがて、三人は、まあるい頭を寄せ集め、何やらコソコソ相談を始めた。
 しばし、そのまま、ゴニョゴニョヒソヒソ、何事か相談していたが、やがて、互いの顔を見合わせて、コクリと大きく頷いた。何やら決意した模様だが──?
「「「 行くぞっ! 」」」
 "みそっかす" 三人組は、スックと力強く立ち上がった。
 
 
 それから、しばらくして。
 
「──あれ? あの "みそっかす" どもは、どしたい」
 食事を終えて、ふと見れば、さっきまで悪戦苦闘していた例の三人組の姿がない。
 あの面白い見世物にも途中で飽きちまい、いつの間にか雑談に移っていた一同は、怪訝に顔を見合わせた。もしや、兎一匹、獲ること叶わず、とうとう食事は断念したのか?
 何とはなしに気になったらしく、それぞれ腰をモソモソと上げた。ごくごくさりげな〜く、そこらの木立を捜しに行く。もちろん、食後の散歩を装って。音声ナシの口笛吹きつつ、今更葉っぱの先を見回してみたり。
 だが、へばってるだろうと思われた林の木陰には、いなかった。藪の中にも、埋もれていない。「○○のばかやろーっ!」と叫ぶに格好な北の海にも、膝を抱えてシクシク泣くのに最適な小石転がる川べりにも、いない。
 なら、アッチの山に、セコく木の実でも探しに行ったのか……?
「──なあ、案外あいつら食えねえでよぉ、」
 伸び放題の無精髭を人差し指でボリボリ掻きつつ、辺りをグルリと見回して、《 ロム 》の一人が、散歩、、仲間の顔を見回した。
「そこらの草むらで、ぶっ倒れてたりするんじゃねえか」
 別の一人が、う〜む……と腕を組んで、やおら頷く。
「結構、ひ弱そうだったしな」
「──仕方がねえな、捜しに行くとするか。アレに何かあったら、こっちがヤバいぜ。班長から、どやされちまうかも知んねーし」
 困ったことに、あの"班長"は、実はたいそう世話好きである。それについては、同じ隊の部下一同、み〜んなあまねく知っている。いや、もしかしたら、別の隊の奴だって、知ってるかもしれない。もっとも、その本人は、言っても、絶っっ対に認めないが。
「ち!──たく! 世話のかかる客人だぜ」
 口々に文句をあげつらい、それでも《 ロム 》達は、重たい腰を、ようやく上げた。
 彼らは、とりあえず、真面目に三人組を捜索することにした。だって、なんかあってもヤバイから。こういう場合、こっちにトバッチリが降りかかって来るのは必定なのだ。
 風すさぶ断崖絶壁から、ボコっと陥没した地面の底の隙間まで、ヒョイと首を突っ込み、野草を掻き分け、「お〜い!  みそっかすぅ〜!」と、本人たちが聞いてもそのまま無視してスルーしそうな不届きなあだ名で呼びかけつつも、降って湧いた迷子捜索に、セッセと手分けして精を出す。実はノリノリ。
 しかし、──である。
「……いねえな」
「ああ、何処にもいねえ……」
 彼方此方(あちこち)くまなく捜してみるも、何故か、何処にも転がってない。
 失踪である。消滅である。ミステリーである。
 再びスタート地点に集合した《 ロム 》達は、この奇々怪々な事態に首を捻った。無精髭をおもむろに撫で、或いは怪訝に腕を組み、互いの顔を見合わせる。
 この事実が指し示しているのは、蓋然性の高い、ある一つの結論だ。そう、こいつは、もしや──
 
 逃亡か?
 
 
 
 
 

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