■ CROSS ROAD ディール急襲 第2部 3章 1話6
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翌早朝、ケネルは首をひねっていた。
腕にはなぜか、引っ掻かれたような赤い線。心当たりは、とんとない。
北側の寝床は空っぽだ。毛布がめくりあげられたまま。己の寝床に目を戻す。
「なんで、こいつが、ここにいるんだ?」
再びケネルは首をひねる。
領家からの預かりものが、膝で寝息を立てていた。安心しきった顔つきで。
彼女の陣地をもう一度ながめ、寝床までの軌跡を目でたどる。
「どうやって寝ぼけたら、ここまで転がってこられるんだ?」
なんて寝相の悪い奴だ……と呆れ顔でごちながら、持て余し気味に寝顔をながめる。
「──。案外こいつ」
お? と何やら思いついた顔でつぶやく。
ふむ、と腕組み。
「夜這いとか?」
いや、それはないな、と言ったそばから笑い飛ばす。
「さっさと向こうへ戻すとするか」
気がつけば、うるさいに決まっているから──。むろん、この件の張本人が──質悪く寝ぼけたのが、他ならぬ己自身とは、思いもしないケネルである。
背をかがめ、起こさぬように注意して、彼女を肩へと担ぎあげる。
かくり、と腕に、寝顔が落ちた。瞼を閉じた至近距離の顔。薄桃色の唇は半開きで……
はたと、ケネルは我に返った。
きょろきょろ周囲の壁を見まわし、室内の無人を即行確認。
ほう……と胸をなで下ろし、「まったく、しょうもない奴だ……」などと(誰も聞いてないのに)ぶつぶつ一人ごちながら、自分の肩へと担ぎあげる。
すたすた北の寝床へ歩いて、うつ伏せに彼女を転がした。普段より更にぶっきらぼうな手つきで、ぱたぱた寝具を整えてやり、ケネルはそわそわ、靴脱ぎ場へ向かう。
戸口の仕切りを払いのけ、戸口の枠に蹴っつまづきつつ、そそくさ外へと出て行った。
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