■ CROSS ROAD ディール急襲 第2部 3章 3話1
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早朝のゲルは寝静まり、ひっそりとして人けはない。
夜気で冷えた絨毯を踏み、ケネルは西へと土間をまわった。
北側の寝床の前でたたずみ、寝入った客を無言で見おろす。
片膝をついて抱き起こし、寝巻きの襟についている白絹のリボンを引き解いた。
一番上のボタンを外す。おもむろに、上から二番目も。しどけなく開いた襟元を、無造作な手つきで肩へと剥ぐ。
くしゅん、と小さくくしゃみして、彼女がむずかるように顔をしかめた。
「……ケネ、ルぅ……」
面くらい、ケネルは手を止めた。
腕に仰向いた白い顔。心許ないほど細い首、銀の鎖の首飾り──。舌打ちして、目を背ける。
指がためらい、包帯の上をさまよった。手の下の包帯が覆う、鎖骨の浮いた薄い肩──。
手のひらを握って、顔を背けた。
彼女は少し口をあけ、無邪気に眠りこけている。あの言葉を疑いもせずに。
くしゅん、と体を震わせて、もそもそ身じろぎ、迷惑そうに顔をしかめる。
「──わかった。わかった。寒かったよな」
ケネルは苦笑って襟を戻した。
元の通りにボタンをはめ、うつ伏せにして慎重に寝かせる。後ろ手をついて足を投げ、溜息まじりに天井を仰いだ。「──俺も存外、意気地のない」
にぎやかな鳥声が、外で、した。
天窓から射す朝日の帯が、白々と土間を照らしている。
ケネルは持て余して寝顔をながめた。こうも手放しで信用されると、やはり、どうにも御しがたい。
考えが甘いと、わかっている。きのうの今日で、目覚める気使いがないことも。又とない好機といえる。こうして手をこまねく間にも、時はじりじり過ぎていく──。
早く確認すべきだった。
あの話が事実なら、客への対処は一刻を争う。負傷を覆う包帯の下に、縫合した跡は
ない。
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