■ CROSS ROAD ディール急襲 第2部 3章 interval 〜 手紙 〜
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ケネルは何気なく尻ポケットに手を入れた。適当に突っ込んだ雑多な物に埋もれて、底の方に何かある。その微かな違和感については、座る都度、思い出してはいたのだが、なんだかんだと気忙しく、別段支障があるでもないので、そのまま放っておいたのだ。それが何かの拍子に位置がズレたか何かしたらしい。尻の下がいやにゴソゴソする。
ケネルは怪訝な顔で取り出した。クシャクシャに丸められた紙だった。紙くずか、と捨てようとし、ふと思い直して手を止める。
用済みの連絡メモの類いにしては、少々嵩があり過ぎた。だが、指示書でなければ何だろう。この体裁は手紙だろうか。確かに、手紙の類いなら、見も知らぬ娘から、たまに受け取る事がある。だが、波風立てずに受け取るだけは受け取るものの、ゴミ箱直行が通常だ。後生大事に持ち歩くような趣味はない。
掌に載った紙くずを、ケネルは矯めつ眇めつ眺めやる。横着にも、そのまま正体を見極めようとしているらしい。紙自体は何の変哲もない便箋だ。ならば、やはり、誰かから貰った手紙だろうか。
ケネルは溜息で首を振った。しばらく眺めて降参し、丸めた紙を無造作に開く。皺だらけの薄青の紙面に、見覚えのある文字が現れた。乱雑な殴り書きなどではなく、一字一字きっちり書かれたあの言葉。丹念な撥ねや止めの先に、息をつめて認めたのであろう真摯な息遣いが伝わってくる。文字数こそは少ないが、何度も迷い、書き改めたのであろう相手の切実な姿が、紙面を眺める脳裏に浮かび上がる。
一瞥で思い出した。文面を読み込むまでもなかった。いや、意味を取り違えようもない。
皺を綺麗に伸ばし、ケネルは紙を折り畳む。今度は上着の内ポケットに、丁寧な手付きでしまい込んだ。青いインクで綴られていたのは、切羽詰ったひたむきな懇願。苦笑いで目を閉じた。
「──あんたの命、確かに俺が受け取った」
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