■ CROSS ROAD ディール急襲 第2部 3章 interval 〜 罪 〜
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『 いい? お前は力が強いんだから、他の子をぶっちゃ駄目なのよ 』
誰だろう。優しい声。昔からよく知る温かな声。
──ああ、そうか。あれは笑っていた頃のあの人の、
髪を狂ったように振り乱し、喚いて罵る女の号泣。どんより重たい曇天の下、子供の笑顔の遺影を掲げ、黒装束の列が行く。
世界の底に沈んでいたのは、悲嘆に暮れる項垂れた葬列。自分は何もしていない。ぶたれたから、ぶち返した。でも、あの人は泣いている。そうか、ぶっちゃ駄目なのか。
──そうだ、ぶっちゃ駄目だった。
殺せ、と誰かの声が言う。
『 ……楽にするか 』
聞き慣れた声が同意した。哀れだから。不憫だから。あんな風では仕方がないから。捨て置けば、また犠牲が出る。
これが初めてじゃない。
光の射さぬ薄暗い場所に放り込まれて、幾日も幾日も閉じ込められた。
あいつがオレの首を絞めた。泣きながら狂ったように。苦しくなって暴れたら、あいつは壁にぶつかって、それきりピクリとも動かなくなった。男の名は " 父親 " だった。
閉じない瞼に恐くなって、泣いているあの人にしがみ付いた。両手を広げて力いっぱい。よろけて受け止めたその人は、気づいたら動かなくなっていた。女の名は
" 母親 " だった。
世界は大人達のものだった。
次々伸ばされる手を払った。世界が牙を剥いたから、手近な刃を手に取った。唯一身を守る術だった。刃を盾に立て篭もった。狂っている、と人は言うだろうか。
やがて、黒髪の隊長がやって来て、盾を取られて捻じ伏せられた。刃を首に当てたまま、黒髪の男は見下ろしていたが、「俺と来るか」と訊いたから、ついて行くしか方法はなかった。明るい世界で待っていたのは、綺麗な男の底知れぬ眼。
世界が彼方に遠のいた。
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