CROSS ROAD ディール急襲 第2部 3章 8話3
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 引き渡した客を乗せ、長髪靡く後ろ姿が午後の草原を南下して行く。緩やかな風が吹いてきて、指先の紫煙がたゆたった。
「セレスタン、狩りの用意をしておいてくれ」
 木陰の倒木で脚を投げ出し、セレスタンは長く紫煙を吐いた。「堅気さんがいちゃ、まずくないすか」
「だから、用意だけ、しといてくんねえか。出番がないなら越したことはない」
「的は」
「ウォードさ」
「──真っ向勝負は無理っすね。決行は明け方、薬は不要。奴さんには例の成長痛がありますから、疲労困憊して寝入った隙に仕掛けりゃいい。もっとも、それでも返り討ち覚悟すけどね。向こうさんも必死でしょうから」
 事務的な口調で淡々と応え、目の端だけで一瞥する。「で、なんで、よりにもよって"今"なんです」
 バパは倒木の隣に腰を下ろす。「是非もない。ウォードが母親を捜し始めた」
「へえ、とうとう狂っちまいましたか」
 セレスタンは驚いた風もなく、どうでも良さげに灰を落とした。「ほんのついさっきまで、大人しくやってたようっすけどね」
 バパは頭の後ろで手を組んで、倒木の傾斜に寝転がった。「──"青い春 " なんだよな」
「思春期ってヤツっすか。遠い昔の物語っすね」
「で、それが」とセレスタンは素気ない。等閑(なおざり)なその相槌を「たく、お前はよ」と白けた溜息でバパは見やって、晴れた青空に目を細めた。
「思春期ってのは、心身共に生涯最大の節目だぜ。潮目に立ったそいつにとっちゃ、未曾有のどでかい変動期だ。大人に脱皮する欲求が淡い世界をぶっ壊し、幼稚な価値観を覆し、実世界をリアルに捉える準備をする。ヤツはこれまで、変動の荒波に晒されながら不安定な節目に立っていた。だが、とうとう負けて、さらわれちまった。こうなっちまったら、もう誰にも止められねえ」
 短くなった吸殻を「……へえ」と眺めて、セレスタンは無造作に投げ捨てた。
「この話、他所へ持ってってもらえませんかね。そういうのは俺にはどうも」
 バパは苦笑いでセレスタンを見る。「気が進まないか」
「ガキはちょっとね」
「──そうか」
 大儀そうに起き上がり、バパは上着の懐を探った。煙草を取り出し、火を囲う。点火の姿勢で一瞥し、やれやれと目を戻した。「いいよ、わかった。ためらえば、即、返り討ちだからな」
 セレスタンは「どうも」と気のない素振りで肩を竦めた。用済みのマッチを緩く振り消し、バパは草原を眺めて一服する。セレスタンは新たな煙草に火を点けて、空を眺めて紫煙を吐いた。
「なんにせよ、ヤツを仕留めるなら、これが最後のチャンスでしょうね。今でも寝首掻くのがやっとだってのに、成長痛あしかせまでなくなったら、誰にも仕留められなくなる。ありゃあ並みの人間じゃない。隊長・副長クラスすよ。何もない所にぽっと出たり、他人の心読んじまうような変な能力ちからは幸いねえから、隊長も処分しないで連れて来たんでしょうが」
「といって、ヤツに尻拭いさせる訳にもいかんだろう。どこかで繋がった血縁だからな」
 溜息混じりにそう言って、バパは草原の先を遠く眺めた。「──思春期か。ヤツなら勝てると思ってたんだが、やっぱり負けちまったか。なにせ相手は大いなる摂理だ。人間なんぞとは規模が違う。統領代理の苦肉の策も姑息な小細工の範疇か。所詮は無力な人間風情、哀れなもんだな」
「──三歳みっつ六歳むっつ九歳ここのつ
 指先で紫煙を燻らせて、セレスタンは遠く空を仰いだ。
「あの坊やも、とうとう十五を越えられなかったか。なんで逃れられないんすかね、あの " 三 " の因業から」
 
 
 
 藪を隔てた向こうから、子供の泣き声が漏れ聞こえていた。母親に会いたいとゴネているらしい。宥めているのは件の客人。遥か彼方のキャンプの子供がこんな場所にいる筈もないのに、全く驚いた風もない。あの子供と密かに会うのは、どうやら初めてではないようだ。木陰で寝ていた男を見つけて、ファレスは舌打ちで顎をしゃくった。「──おい、いいのかよ、あのガキ」
 ケネルが煩そうに寝返りを打った。「俺には子供など見えない、、、、が?」
「あ? な〜にとぼけていやがんだ。いんだろうがよ、そこに」
 横道に顎をしゃくりかけ、ファレスはふと動きを止めた。ゆっくり瞬き、合点した顔で口を開ける。上着の懐を探りつつ、舌打ちで隣に腰を下ろした。「──ああ、俺の勘違いだ」
 梢で鳥が鳴いていた。向かいの樹海で、追いかけっこしながら蝶が舞う。生い茂った夏草が風道の縁で揺れている。鈍く緩んだ午後の陽が静かな風道を照らしている。
「もう、それほど長くはない」
 目を閉じ寝転がったまま、ケネルは静かに理由を告げた。ファレスは煙草を銜えつつ「──そうだな」と眉をひそめる。それについては知っていた。子供の華奢な項(うなじ)には例の黒い斑点がある。不治の病・黒障病の刻印だ。ケネルは何を考えているのか、腕の枕で寝転がったまま「何か用か」と素気ない。ファレスは煙草に点火した。「アレが夢を見たんだと」
「それが」
「何度も同じ夢を見るらしい」
「──別に珍しくもないだろう」
 ケネルはかったるそうに寝返りを打つ。ファレスは一服、一瞥した。「"先読み"で見たぜ、全く同じ光景を、、、、、、、
「──どういうことだ」
 ケネルが面食らって見返した。「何故、そんなものがアレに見える」
 ファレスは身じろいで肩を竦めた。
「さあな。理由は分からねえ。まったく変な女だぜ。一体どうなっていやがんだか。だが一つだけ、確実に分かったことがある」
 立て膝の上に腕を置き、ファレスは藪の向こうに目を眇めた。
「アレの夢は正夢、、だ」
 騒音が静寂を突き破った。凄まじい物音、キャンプの方向、何かを破壊してでもいるような──。怪訝に顔を見合わせる。ゲルに賊でも入り込んだのだろうか。だが、羊飼いの持ち物を賊が狙うなど、まずはない。標的になるとすれば、十中八九こちら絡みだ。
 ケネルが素早く起き上がった。ファレスも煙草を投げ捨てて、舌打ち交じりに腰を上げる。高枝の影に目配せし、キャンプへの道を急ぎ戻った。
 問題のゲルはすぐに分かった。只ならぬ事態の発生に人だかりが出来ている。案の定、借り受けたあのゲルだ。壁が燻って焦げ臭い。ケネルに一歩先んじて、戸口のフェルトを払いのけた。
「──おい、何してんだ!」
 炎が視界に飛び込んだ。燃えているのは南の壁、木組みに掛けてあったロープの束であるらしい。鉄瓶が床に転がっていた。土間の炉を蹴り倒したらしく、絨毯が水浸しになっている。枕の羽毛が舞っている。荒れ果てたゲルの中、土足の白シャツが炎の照り返しを受けている。
「……ウォード」
 ファレスは面食らって足を止めた。暴れていたのは予想だにせぬ相手だった。炎上を始めたゲルの中、一人ひょろりと立っている。凡その事情はケネルから聞いたが、移動の途中で見た時は、特に凶暴になるでもなくて何事にも無反応でぼうっとしていた。そして、そのまま野営地にやった。その筈だった。それがいつの間にやって来たのか。
 引き倒された炉の炎が南壁で爆ぜていた。ウォードは長い手足を振り回し、憑き物につかれたように暴れている。室内に置かれた全ての物を手当たり次第に破壊して。炎がめらめら南の壁を焦がしていく。ファレスは舌打ちで凝視した。早く排除せねば迷惑がかかる。いや、悪くすれば犠牲さえ出かねない。だが、迂闊に近寄るには危険が大きい。相手が興奮状態のウォードでは、取り押さえる事さえままならない。
「……思い出したー」
 ウォードが急に動きを止めた。放心したように突っ立って、天窓をぼんやり仰いでいる。と、頭を両手で掻き毟り、ガクリと出し抜けに膝をついた。肩を押さえて蹲り、苦しげに歯を食いしばっている。( ──今だ )とケネルと目配せした。夕闇が迫ると、ウォードは成長痛を引き起こす。踏み込もうと身じろいだ矢先、脇を何かがすり抜けた。
「ノッポ君っ!」
 甲高い声に息を呑んだ。突き伸ばした指先が、掴む寸前で空を切る。
「──馬鹿! よせ!」
 不意を突かれて対処が遅れた。捕まえ損ねた黒髪は床に膝を打ち付けて、止める間もなくウォードに駆け寄る。
「どしたのノッポ君っ! 大丈夫っ?」
 労わるように背中に手を置き、項垂れた顔を覗き込んだ。ウォードの頭をおろおろ抱えて気遣わしげに背をさする。ウォードがゆっくり顔を上げた。目の前の獲物をあの眼が捉え、白シャツの腕がピクリと動く。ふっ、と黒髪が掻き消えた。
「……だ、大丈夫―? 苦しいの? ノッポ君」
 蹲ったウォードの中から、戸惑った声が漏れ聞こえた。あまりの速さに息を呑む。獲物を掻っ攫う獣の動きだ。
 ファレスは絶句で凝視する。黒髪は既に懐の中、ウォードが利き手の掌を広げ、後ろ頭を平手で掴んだ。そのまま抱えて蹲り、緩い胡座(あぐら)の懐深くにすっぽり抱え込んでしまう。全ての目から覆い隠そうとでもするように。
「……父さんは、オレに死んで欲しかったんだよ……でも、九つになってもオレ、死ななかったからさー……」
 懐に語りかけているらしきウォードの声がぼそぼそ聞こえた。困惑気味の受け答えの声も。
 不測の事態に血の気が引いた。しがみ付かれたオカッパは、後ろ頭の黒髪を残して上背のある図体に呑み込まれてしまっている。
( ──どうする。とられたぜ )
 隣に目配せ、面食らった。ケネルは息を呑んで凝視していた。完全に止まってしまっている。恐らくは思考までもが。一人、千の敵に囲まれて尚、眉の一つも動かさぬこの男が。
 ファレスは舌打ちで目を戻す。ウォードの背中をぺたぺた叩いて、黒い髪がもぞもぞ身じろぐ。辛うじて突き出た細腕が、押し潰されそうになりながら、圧し掛かる背を宥めている。幼い子供でも労わるように。だが、ウォードの腕が動く度、いつ抱き潰されるかと気が気じゃない。
 ウォードに寄せる無防備な信頼、だが、如何に好意的に接しようと、相手も同じとは限らない。焦燥に駆られて手に汗握る。自分が"何"を撫でているのか、お前は本当に分かっているか──。
 まさしく当時の再来だった。せき止めていたウォードの時が動き出してしまったのだ。ウォードは腕を放さない。ウォードに炎など見えてはいない。だが、早くしないと火の手が回る。ここでかかずらってモタつけば、一蓮托生そこで焼死の運命だ。硬直していたケネルが動いた。
「──おい、待て!」
 強襲の気配をとっさに察して、乗り出した腕を辛くも掴んだ。腕尽くで戸口に引き戻す。
( ここで斬り捨てるつもりかよ! アレが目の前にいるんだぞ! ) 
 ケネルの手は既に刀柄つかにかかっている。表情こそ変えはしないが、二人が重なる一角のみにじっと目を眇めている。
( 落ち着けケネル。まずはアレをどけねえと── )
 硬直した肩の辺りから苛立っているのが丸分かりだ。だが、ウォードが身の危険を察した途端、何が起こるか分からない。それは弾みで起こり得る。ほんの一瞬腕が締まれば、全てが終わる。
「ね、ねえ、ケネルぅ〜?」
 甲高い声が割り込んだ。ふとケネルが目を向ける。「あ、ちょっと、ごめんねー」と気楽な声がし、呑まれた頭がもぞもぞ動いた。ぐりぐり押し出すように何かが出てくると思ったら、オカッパ頭がにゅっと出た。首を無理やり突き伸ばし、懐から「──よいしょ」と乗り出して、髪を打ち広げて、ぱっと振り向く。
「ねー、なんか変なんだけどノッポ君。なんかすっごく辛そうで、すっごい汗とかかいててねー」
 圧し掛かるウォードをおろおろ抱え、自分より余程でかい相手を「ねー大丈夫ぅ―?」と撫でている。能天気な態度に面食らって絶句した。そんなに簡単に出られるのか……? 
「──てんめえ、どあほう! なんで、そっちに行きやがる! とっととこっちに戻って来い!」
 気付いた時には全身全霊鳴りつけていた。オカッパ頭はくるりと振り向き膨れっ面。「やーよ、だってえ、」
「なんでもいいから、こっちに来い!」
「やだってばっ!」
「あ゛?」
「だって、ノッポ君泣いてるしぃっ!」
 オカッパ頭はぷりぷりしながらブチブチ口を尖らせている。あやすようにウォードを抱えて、両の眦(まなじり)吊り上げた。
「もおっ、あんたってばホ〜ント最低。どーしてそんなに薄情なわけえ? こーんな苦しそうにしてるのに、ほっぽって、そっちに行ける訳ないでしょー!」
 小生意気な面に、ピキリ、と引きつる
なんでもいいから、とっとと、こっちにけえって来いっ!
「……んもー。なによ、うっさいわねー。いったいぜんたいどしたのよー。なあに恐い顔とかしてるわけえー? そんなことより、あんたも早く手伝ってよー。ノッポ君避難させないとおー。──ほらあ何してんの! こっちに来て早く手ぇ貸す! いつまでボサッと突っ立ってる気ぃ?」
 ぶちり、と何かがブチ切れた。ぶっ飛ばす。
 あのバカ、マジでぶっ飛ばす。何が何でもぶっ飛ばす! ギロリと阿呆に振り向いた。「──この前代未聞の大馬鹿が! 一緒に丸焦げになりてえか!」
 踏み込んだ腕を掴まれた。引っ張り戻され、苛立って振り向く。「──あァっ?」
「火を消せ」
 ケネルは膨れっ面を眺めたままで、南の壁を一瞥する。「まずは火を消せ」
「なあにをてめえは悠長なっ!」
 このタヌキの言い草は、たまに理解出来ないことがある。苛立ちが一気に沸点を超え、喚き散らして向き直った。「ゲルの一つや二つなんだってんだ! このクソ忙しい時にっ!」
「どうせ、あれじゃ動けない」
「──それは、そうだろうが!」
「早くしろ。まずは炎上を食い止めろ。ゲルが崩れる」
 反論に詰まった。ケネルはすっかり日頃の冷静さを取り戻している。自分の方こそ逆上しかけていたくせに。鋭くこちらを一瞥した。「何をしている。対処が遅れれば下敷きだ」
 強い口調に我に返った。確かに迂闊に動けない。突拍子もない阿呆の動きは日頃から予測がつきかねる。しかも後先考えぬ暴挙のお陰で、身柄は向こうの手の内だ。遠巻きにしてボサッと見ていた野次馬どもに、腹立ち紛れに振り向いた。
「おい水だ水! 消火しろ!」
 
 薄暗い草原に吸殻を投げ捨て、懐を探って新たな煙草に点火する。ファレスは戸口で脚を投げ出し、薄明の空を眺めていた。編み上げ靴の足元には「く」の字に折り曲げた多数の吸殻。明かり取りの天窓からは、星の消え残る群青の空がのぞいている。
 ぽっかり開いた南の壁から、冷えた風が吹き込んでいた。南の壁は丸く焼け落ち、床には水が滴っている。火は存外早くに消し止められた。叱咤の剣幕に驚いて一斉に散った野次馬が総出でせっせと働いたからかも知れないし、既に外から水を掛けていたからかも知れないし、井戸が近かったことも幸いしたかも知れない。
 中央の土間をそこだけ照らして、天窓からの星明りが壊れかけたゲルに白々と射し込んでいた。薄暗いゲルの片隅、ウォードは胡座(あぐら)で項垂れている。時折体を震わせつつも、腕の黒髪を放さない。緩く抱えた腕の中には、ずっと動かない埋もれた黒髪。あの後しばらく気遣わしげに名を呼んでウォードの背を擦っていたが、何かが強く煌めいた直後 、カクリと白シャツにもたれかかり、以降ピクリとも動かなくなった。それを抱え込んだウォードの方は、肩こそ上下しているものの、眠っているのか窺っているのか、どうにも判別がつきかねた。じっと蹲るその様は如何にも手負いの獣だった。手を出したが最後、獰猛に残忍に牙を剥く、そうした危うさがそこにはある。ケネルは戸口の脇で腕を組み、眉をひそめたまま動かない。人質を取られていては動きようがないのだ。
 状況が硬直したまま日をまたぎ、そろそろ夜が明けようとしていた。片手で捲ったフェルトの向こうに、ふぅー、と紫煙を吐き出して、空から室内に目を返す。ファレスは怪訝に見返した。
( " あれ " は、何だ…… )
 蹲ったウォードの背から、淡い揺らぎが立ち昇っていた。萌黄のそれはドクンドクンと脈打って、主の鼓動に合わせるように仄かに淡く揺らいでいる。
 生命の揺らぎそのもののように。
 ふと、気配を察して振り向いた。寝不足のかったるい体を引きずって、ファレスは戸口から立ち上がる。「──そろそろ来るだろうと思ったぜ」
 薄暗い未明の草原に、男が一人やってきていた。それを一瞥、「お疲れ」と外に出る。壁で腕を組んでいたケネルも「よろしく頼む」と言い置いて、静まり返ったゲルを出た。引き払ったゲルの戸口で、執行人は立ち止まる。死に絶えたような室内をしばしそのまま見ていたが、やがて静かに踏み込んだ。
 草原に出ると、朝の冷風が頬を撫でた。未明の空は白み始めている。薄闇に沈むそこここで虫が静かに鳴いている。気怠い足でぶらぶら歩き、ふとファレスは顔を上げた。眉をひそめて怪訝に見回す。今、視界がぶれた気がしたのだ。体が一瞬引っ張られたような。何かが大きくずれ込んだ、、、、、気がした。
( ──地震、か? )
 いや、どこも何も揺れてはいない。隣の様子を窺えば、ケネルは僅かに眉をひそめているようだ。元より愛想のあるような男ではないから初めからしかめっ面だった気もするし、何らかの反応を示したようにも見える。だが、わざわざ尋ねてみるというには、あまりに突拍子もない事柄だった。
 気付くか気付かぬかというくらいの微かな素早い変化だった。微弱であり、同時に巨大すぎる脈動だった。その巨大さ故に人の感覚では捉えきれない。決して人には捕まらぬ砂漠を渡る逃げ水のような。
 薄明に呑まれた世界のどこかで、何かが軋む、、、、、音がした。
 
 
 
 
 

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