■ CROSS ROAD ディール急襲 第2部 5章 interval04 〜お嬢様の憂鬱 4 〜
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若くして嫁ぐのが通例の、良家の子女たるエルノアが、二十歳を少し超えて尚、なぜに未だに独身なのかといえば、亡き妻によく似たエルノアを、父が離さないからである。
婿の名乗りをあげようものなら、父が瞬時にはねのける。もっとも、このエルノアは、ドゴール財閥の一人娘ゆえ、「嫁に出す」ではなく「婿をとる」──つまりは家族に婿が一名、加わるだけ──のことではあろうが。
そして、徴税官たるラルッカは、たいそう優秀な人物であり、生家も由緒ある家柄で、どこをとっても申し分がない。
けれど、それでも、父は渋った。「娘・大事!」の父のこと。そんなスペックなんのその。どんな男を連れて来ようが、断固棄却! が基本である。
そんな健気な父を後目に、エルノアはラルッカと婚約した。
結局のところエルノアが、例によって縁談を、勝手にまとめてきたからだ。
ちなみに、優秀なラルッカが、なぜに承諾したかといえば、酔った挙句の間違いで逃げられなかったからである。
一夜明けたレーヌの町。町の入り口の街道に、一人の女の後ろ姿があった。
頭には日よけの大きな帽子、高いヒールの足元には、豪華絢爛な旅行鞄。
栗色の長髪をなびかせて、足は肩幅、両手は腰に、仁王立ちで踏ん張っている。
エルノア=ドゴールは、街道の先、商都の方角を睨んでいた。
今朝も今朝とてエルノアは、別荘の机に張りついてシコシコお手紙をしたためていたが、あまりのなしのつぶてさに不意に気づいて、ペン先を折って立ち上がった。そして、鞄に荷物をつめこみ、勝手におん出てきた、という次第である。
エルノアは目をつぶり、ゆるく組んだ腕の上、とんとん二の腕を叩いている。出奔に気づいた侍女たちの、悲鳴が遠く聞こえるが、エルノアの耳には入らない。
エルノアはゆっくり目を開いた。
夏日照りつける街道の先、陽炎の立つ土道の行く手に、不敵な笑みで目をすえる。
「ラル、覚悟はよろしくって?」
むんず、と鞄をもちあげて、意気揚々と踏み出した。
──首を洗って待ってらっしゃい。
おしまい
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