CROSS ROAD ディール急襲 第2部5章 7話5
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 路地は穏やかに静まっている。
 宿の二階の窓ガラスに最初の朝日がさしこんでから、かれこれ随分経っている。床に直置きした荷物は解かれ、静まり返った木板の床は、朝の光に満たされて、開け放ったままの窓からは、風が清々しく吹きこんでいる。仲間と呼び交わすすずめの声が、どこか遠くで聞こえている。
 ようやく「……んあ?」と瞼をもちあげ、ファレスはあわてて跳ね起きた。横になっていた長椅子から思わず転げ落ちそうになりながら、枕をかかえて後ずさる。
「……てめえは、どっちの奴だ?」
 まずはとりあえず、そこを尋ねた。うっかり相手を間違えた日には、また七面倒臭いことになるからだ。
 寝ていた長椅子のすぐ横で、女が床に膝をつき、顔を覗きこんでいた。連れの同僚メイド服──喫茶兼居酒屋もどきのあの店で、メイドの集団にとりかこまれた件の事件の発端の双子、むしろ一昨日の昼の初対面から、ケチつきまくりのあの双子だ。とはいえ、ためつすがめつ仔細に見るが、顔が実に似ているので、敵の正体は見極め難い。双子なだけに。
 清楚なメイド服を着こんだ女は、大きな瞳でまたたいて、はにかんだように微笑んだ。
「おはようございます。よくお休みでしたね」
 楚々として、軽くうつむく。三つ指つかんばかりの勢いで。
「……ラナって奴か」
 ほっととりあえず安堵して、ファレスは強ばった肩から力を抜いた。あの粗暴な方ではないらしい。もっとも、傍若無人なあの女が宿を訪ねる理由はない。とはいえ、泣きべそかかされた片割れが、なんでいるのか不明だが。
 そこにいささか疑問を感じ、(なんの用だ)と視線で問えば、膝にうつむいたメイド服が、前髪を揺らして顔をあげた。
「ざんね〜ん! リナでしたあ!」
 にんま、と笑う。邪悪な笑みで。
「──てめえか! メイド服!」
 ぎょっとファレスは後ずさった。気を抜いたところを不意打ちされて、動転しつつも、あたふた指さす。「な、なら、てめえか! 部屋ん中ごそごそ動き回っていやがったのは!」
 だらだら惰眠を貪っていたのは、部屋で物音がしていたからだ。ごそごそ、がさがさ、とたとた歩き回る忙しない足音──当然、連れが何かしているものとばかり思っていた。なにせ任務は「宿にて待機」、規則正しく起床したところで、どうせ宿から出られない。
「あいつはどうした!」
 はっと気づいて、遅まきながら壁を見た。案の定というべきか、連れの寝台は空っぽだ。リナは肩先の髪を指で払った。「あー、あの子なら、ちょっと買い物行ってくるってー」
「──買い物だァ!?」
 リナはうるさそうな顔をして、いかにもうんざり腕を組んだ。「なにピーピーピーピーわめいてんのよ、たかだか買い物に行ったくらいで。あー、なにもしかしてあんた、やっぱマザコンとかってヤツですか〜?」
「……ま……」
 予期せぬ切り返しに虚をつかれ、ファレスはとっさにたじろいだ。小生意気な連れのそれとは返しのパターンがまた違う。とはいえ、これに負けるのは癪にさわる。気を取り直し、会話の主導権を奪取すべく、制服の胸倉をつかみあげた。「なめた真似してっと犯すぞこら!」
 リナは小さく嘆息し、鬱陶しそうに顔をしかめた。
「いーけどぉー? 別に」
 ファレスは思考停止で固まった。こうまでさばけた返事には、未だかつてお目にかかった試しがない。リナはおもむろに手をあげて、細い手首につけた茶革バンドの腕時計を一瞥した。「だから、いいわよ、付き合ってあげても。まだちょっと時間あるし」
 悪人顔をつくったままで、ファレスは進退窮まった。相手にあっさり同調されては、この手の脅しは成立しない。
 リナはしたり顔で、にぃ、と笑って、上目使いで覗きこむ。「それとも怖気づいちゃった? 大口たたいて実は大したことないだとか?」
「いい度胸だなメイド服! 足腰立たなくしてやるぜ!」
 長椅子の上に突き飛ばし、ファレスは肩を押さえて組み敷いた──いや、組み敷こうとしたとした刹那、「……お?」とまたたき、停止した。
 今なにか、引っぱり戻されたような気がしたのだ。無論、他に人はいない。
 それは馴染みのない違和感だった。微弱ながらも、無視できない存在感がある。どうにもそれが気になって目の前の闘いに集中できない。いわば、この違和感は、左右が均衡した体の重みのどこかが欠けて、上手くバランスがとれない、とでもいうような──?
 怪訝に首をひねり、ファレスは一旦、体を起こした。後ろ頭にもそもそ手をやり、己の体を急きょ点検。
 はらり、と肩から落ちたものに気づいて、ぎょっと顔を強ばらせた。視界を占める真っ赤なリボン。沸々わき立つ怒りをたたえ、ゆらり、とリナをねめつける。
「……てめえ、何してくれてんだ」
 押し敷かれた長椅子の上、リナはにっかと笑って、ピースしている。ファレスはわなわな拳を握った。
「人の頭を、勝手に三つ編みにすんじゃねえっ!」
 
 るんるん軽いスキップで、リナが階段を降りていく。ファレスもげんなり、その後に続く。
 ぴょん、と一足飛びに一階に飛び降り、リナが肩越しに舌打ちした。「なあによ、だらしがないったら。三つ編みにしたくらいで、へこんじゃってさー」
「てめえこそ、ちったァ慎みをもてや!」
 せめて、ファレスは爪先立ってがなり返す。
「がさつで図太いてめえと違って、こっちは色々繊細なんだよ! つか、あんなかわいいアタマでできるか!」
 もっとも、怒鳴られている当人は、既に背を向け、聞いちゃいないが。
 ファレスはずかずか、廊下の床を踏んづけて歩く。
「大体なんだ。夜這いなんざ堅気の女のすることかよ!」
 鼻歌交じりのリナに続いて、無人の帳場を通りすぎ、薄暗い宿の玄関を出る。
 一歩外に踏み出した途端、ファレスは顔をしかめて目をすがめた。直に降りそそぐ真夏の日ざしが、光に慣れない目にまぶしい。晴れた夏空を眺めやり、人けない路地を舌打ちで見まわす。「おい、本当に知ってんだろうな、アレが行った店ってのをよ」
 リナは頭の後ろで手を組んで、ぶらぶら先に立って歩いている。あくび交じりに返事をよこした。「いーじゃん、そんなの。あんたはこっちに付き合いなよ」
「なんで俺が!」
 まなじりつり上げ、ファレスは制服の肩をつかむ。「てめえ! ざけんな! 話が違うじゃねえかよ!」
 リナがくるりと振りむいて、指を鼻先に突きつけた。
「あんた、ラナを泣かせたでしょうが」
 うっ、とファレスはとっさに怯んだ。リナは冷ややかに腕を組む。「まさか、あのまま逃げるつもりじゃないわよねえ?」
「あ?」
「償いはしてもらうわよ?」
 ぐい、と腕が引っぱられた。
 ファレスは不意打ちにたたらを踏む。強制的に腕を組み、リナはらんらん、上機嫌で歩いていく。
「さあ! 覚悟なさい女男! もう逃がさないわよ〜?」
「──もう勝手にぶら下がってんだろっ!」 
 せめて怒鳴って言い返すも、とっとと来い! と問答無用で連行された。
 建物の建てこんだ路地を抜けると、壁に遮られた視界が開けた。
 肩に、頭に、昼の日ざしが降りそそぐ。歩道に人影は、やはり疎らだ。青々と茂った街路樹が、ぬるい夏風にゆれている。
 ぐいぐいリナに引っぱられるがままに歩きつつ、ファレスはあくび交じりに正午前の街を眺めやる。
 昨日は一日、連れは宿で大人しくしていた。 膝に手を置きちんまり座り、宿の部屋から外に出たのは、飯を食いに出た時くらい。そこでどんぶりめし三杯をぺろりと平らげ、枕によだれですーぴー昼寝、それからほくほく飯を食いに出て、商店街の店先を冷やかしアレコレたかられ買い物袋を山と持たされ──夕方、宿に戻ってからは「おやすみなさいませ〜」とたいそう正しく挨拶し、すぐにシーツにもそもそもぐり、大の字になってかーかー寝ていた。
 闇医師は依然見つからず、診療所に戻ってもこず、そうして二日がゆるゆると過ぎた。その間、連れは、気味が悪いくらいに良い子にしていて、今朝方、長椅子で目覚めたら、視界のすぐ鼻先で、じぃっとリナが顔を見ていた至近距離で、というわけだ。そりゃ誰でも飛び起きる。
「おっまたせ〜!」
 物思いを中断されて、ふと、ファレスは目を向けた。隣のリナが笑って手をあげている。その先に、街角でたたずむ女の姿、やはり、領邸使用人の紺の制服──ラナだ。
 ふと、ラナが振りむいた。だが、何故か、わたわた目をそらす。リナは気にしたふうもなく、そちらに向かってずんずん歩き、素早くラナにウインクした。「うまくやった?」
「あ、う、うん。まあ……」
 うつむき加減で一瞥し、ラナはもじもじ下を向く。ファレスは怪訝にそれを見て、隣のリナに顎をしゃくった。「おい。なんだよ、その"うまくやった?"ってのは」
 一体何を企んでいやがる。
「ううん! べっつにー? こっちのことー!」
 満面の笑みで有無を言わさず話を流し、リナはくるりと踵を返した。伴い腕を組まれたファレスも、弧を描いてぶん回される。危うく壁に激突しそうになり、「──あっぶねえじゃねえかよ!」とねめつけるが、リナはまるで構わない。腕を引っぱり、ずんずん、たくましく歩いていく。
 リナは「さあデートだデートだ!」と意気揚々。今日もデートだ空気がうまい! らんらんらん! と鼻歌混じり。ふと、何事か思い出した顔で立ち止まり、ぐい、と腕を引っぱった。
「今度ラナを泣かせたら、あんた承知しないからねっ!」
 ぎろりと睨んで釘をさす。
 文句の口を、むぅ、とつぐんで、ファレスはぶちぶち目をそらす。「知るかよ、んなもん。あれは"俺が"ってより、あの女が勝手にべそかいただけじゃねえかよ」
 俺は悪くない、と控え目に主張。
「あんたが怒鳴ったからでしょーっ!」
「──見てたんじゃねーかよ!? だったら止めろや!」
 人違いで事故る前に。
「ラナはあたしと違ってデリケートなのっ!」
「ひとの話をちったあ聞けや!? てめえの話ばっか押し通してくんじゃねえ!」
「──あ、あのー」
 後ろで、か細い声がした。
 ぎゃあぎゃあ争うその後を、とぼとぼついてきたラナだった。怪訝に振りむいたファレスの顔をためらいがちに盗み見て、ありったけの勇気を振り絞るように、毅然と顔を振りあげた。
「怒鳴ったことなら、もう気にしないで下さい。双子で顔が似ているから、見分けがつかなくても無理ないです。みんな一度は間違えますし」
「──おう、悪かったな」
 意外な相手からの申し出に、一瞬気圧されはしたものの、ファレスはさばさば謝った。
「こっちも別に、あんたに恨みはねえからよ」
 見るからに大人しそうな小柄な相手に後腐れなく片をつけられ、内心驚き、舌を巻いた。どう見ても臆したふうなのに、言うべきところは、きちんと言う。気弱そうな見かけによらず、芯はしっかりしているらしい。そう、折り目正しく、きちんとしている。おかげで妙なシコリが取れて、途端に気が楽になった。
 そういや、大人しくは見えても、あの大ラトキエの使用人、そこにはやはり採用されるだけの器量があるのだ。派手で気の強いリナの陰で目立たないというだけで。
 それにしても、双子というのに、こっちは至極まともな女だ。どこぞの凶暴女とはまるで違う──真っ赤になってうつむいたラナをつくづく眺めていると、ぐい、と腕を引っぱられた。
 無論、言わずもがなの、あのリナだ。そして、たたらを踏んで順路に戻る。
 女の乱暴さの是非につきしばし舌戦をくりひろげ、ふと気づいて肩越しに見やれば、ラナは相変わらず、うつむき加減でついてくる。ファレスは足をとめ、空いている右腕を突き出した。「ほれ」
 ぽかん、とラナが顔をあげた。
「だから、あんたもくんだろ? 町内一周」
 息を止めたラナの顔が、みるみる明るく輝いた。そして「はいっ!」と飛び切りの返事をした。
 
 邪悪な感じがするのが「リナ」で、まともでしとやかな女が「ラナ」──ちなみに、こっちは取り扱いに注意を要する──同じ轍を踏まぬよう、ファレスは密かに復唱する。だが、もっと明確な差はないものだろうか。見えない内面なんかではなく、視認できる特徴で。
 左腕にぶら下がり舌戦を仕掛ける粗暴なリナを悪戦苦闘でどつきまわし、狭い壁沿いを歩くラナを右の腕でかばってやる。三人横並びで歩いているので道幅いっぱいで窮屈だが、リナと違って大人しいラナは、不都合があっても何も言えまい。
 双子の違いを見極めていると、何かが微弱に引っかかった。そういえば、リナの方には違和感がある。どこがどうとは言えないが、何かしっくりこないのだ。そう、どことなく不器用そうというか、どことなく風変わりというか──ふと、ファレスは合点した。
(──ああ、わかった)
 こいつ、左利き、、、か。
 同じ顔したメイド服のエプロンに、両方の腕にぶら下がられ、ファレスは強制デートに勤しんだ。「俺に構うと後が恐いぞぶっころすぞこらあ」と一応すごんではみたのだが、リナにはまるで効果なく、逆になめられ放題という由々しき事態だ。
 やむなくファレスは、こっちこっちぃ、と引っぱられるがままに、足をぶん投げ、歩道を歩く。その舌打ちの片隅で(……まあ、いいか)と考えた。
 連れは買い物に出たようだが、どこに鼻先つっこもうが、常時ザイがついている。気楽にのほほんと出かければ、それを気づかぬはずがない。そもそも商都は連れの庭、警邏も始終巡回している。迷うこともなければ、かっさらわれるような心配もない。なら、多少出歩こうが問題はない。
(──で、なんなんだ、この女どもは)
 数分後、ファレスは仏頂面で固まっていた。きゃらきゃら喋くるリナの周囲に、目をまん丸くした女どもの集団。ちなみに平服。
「すっごーい! あんた、この人どーしたのー?」
 見知らぬ女の集団は、きゃいきゃい周囲をとりかこみ、許可なくあちこちぺたぺた触り、突如きゃんきゃんわめいては、ぺちゃくちゃぺちゃくちゃ喋っている。
 どうやら双子の友達らしいが、ここで一言でも口を開けば長引くこと必定なので、嵐が頭上を過ぎ去るまで、ただひたすらにじっと待つ。ひとを中心に据えた張本人のリナは、平気の平左でけろりとしている。迷惑しているのはわかりそうなものだが、お開きになる気配はない。これではいい見世物だ。
 我慢はすれども不躾な周囲にいい加減苛立ち、文句をつけようと口を開いたその時だった。
 あっ、と隣がたたらを踏んだ。大人しく控えていたあのラナだ。前に出ようと夢中になった女どもに、弾き飛ばされたものらしい。とっさにファレスは、よろめいたラナの腕をとる。
「おう、大丈夫か」  
 ラナが腕にすがって踏み止まった。
「……は、はい」
 蚊のなくような声で応えて、ふらりとラナが顔をあげる。女どもの熱気に当てられたのか、ゆでだこのように顔が真っ赤だ。ファレスは舌打ちで振りむいて、一同に視線をめぐらせた。
「あっぶねえな。てめえら、ちったァ気ぃつけろよ」
 ぴたり、と群衆が口をつぐんだ。
 あんぐり口をあけて顔を見ている。呆気にとられた顔つきで。むに、と口を尖らせて、ぷいとリナが踵を返した。「んじゃ、次ね!」
「……次ィ?」
 なんだ「次」って。
 胡乱に顔をねめつけるが、リナの方は構うことなく、ぽかんと突っ立った群衆をしり目に、ぐいぐい引っぱり、歩き出す。
「あんた、勝手に喋んじゃないわよ」
 本当に柄が悪いんだから! と歩く肩越しにじろりと睨み、何がそんなに不愉快なのか、ぷりぷりしながら歩いていく。
 宣言通りに、リナは知り合いに出くわす度に、ぺちゃくちゃ街角で歓談した。そして、終わると又「次」へ。それが終わると又「次」へ。延々それを繰り返し。どうやら、このがさつな女は、街中の友人に見せびらかしているらしいのだ。そう、話がやっと飲み込めてきた。つまり、これは、
 "市中引き回しの刑"か?
「もういいだろ。俺は戻る!」
 ついに、ファレスは左の腕を振り払った。直後(力が強すぎたか──)と遅れて気づき、はっ、とあわてて目を向ける。どれほど口が達者でも、相手は華奢で小柄な女だ。普段接する粗野で頑丈な傭兵ではない。
 体重の軽いリナの体は、道の端まで吹っ飛ばされて、街路樹に当たってよろめいた。ファレスはたじろぎ、足を踏み出す。「──お、おい」
 リナがうなだれた顔をあげた。
「こ・も・り・う・た?」
 にたり、とその顔が笑っている。
 駆け寄りかけた半端な中腰で、ぎくり、とファレスは停止した。呆気にとられて絶句した脳裏に、ぽん、と連れの顔が浮かぶ。「あのねーヤツの弱点はねー」と嬉々として喋くる悪気のない笑顔──
(あんの阿呆はべらべらと〜っ!)
 あのあんぽんたんを侮った……と額をつかんで打ち震える。たぶん、これは濡れ衣じゃない。いや、絶対やったに違いない。よそで喋った記憶はない。
 ふふん? とリナが哀れむようにすがめ見た。
「あんた、マザコンなんだってねえ〜?」
「……話を捏造してんじゃねえ!」
 辛うじてそれに言い返すも、リナはぺらぺら詳細を語る。女将をウォードと取り合った、レーヌの浜での顛末を。
 連れから流出したネタは、どうやら「こもりうた」のみに留まらなかったらしい。
(──あんのアマ、ぜってえゲンコくらわす!)
 頬をひくつかせて成敗の手立てを苛々考え、リナの話を一通り聞く。念のため取りこぼしがないように。だが、
「おうよ! それがどうした! 悪いかよ!」
 とうとう途中で怒鳴りつけた。
 なにせ、辛抱は大の苦手。右腕に寄り添ったラナの手を、やんわり慎重に押しのけて、足をぶん投げ歩き出す。
「もう、いいだろう。勘弁しろよ。俺はそろそろ宿に戻るぜ。起きぬけに連れ回されて、いいかげん腹も減ったしよ」
「……あの、わたし」
 胸でおずおず手を握り、ラナが思い切ったように顔をあげた。
おいしい、、、、お店、知ってます」
 ぴた、とファレスは足を止めた。
 
 
 
 
 

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