■ CROSS ROAD ディール急襲 第3部 1章1話8
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恰幅のいい初老の紳士が、つややかな革張りの椅子にもたれた。
指輪の指を腹で組み、あてつけがましく一瞥をくれる。皮肉な笑みで口ひげをいじるゲーラー侯を睨み据え、ラルッカは卓の下で拳を握る。
とり急ぎトラビアから帰還すると、泥沼の事態が一変していた。
一体何があったのか、ラトキエが軍を掌握していたのだ。
包囲は解かれ、門前に詰めていた大軍勢は、嘘のように消え失せていた。そして、一門の主だった顔ぶれが、ラトキエ領家に召集された。
正装した一同が領邸会議室で着席する中、ラルッカは休む間もなく重大な事実を訴えた。クレスト領主がディールの捕虜になっていると。
だが、主張はたやすく斥けられた。
ゲーラー侯が猛反論し、次々と一同がなびいたのだ。
ラルッカの生家ロワイエ侯爵家は、かつて造反のかどで処分され、市政の中心から締め出されたが、近年ようやく復権を果たし、未だ一門で最たる名家だ。そして、ゲーラー侯爵家は、かの家に次ぐ門閥だ。
参集した一同は、しゃにむに説き伏せるラルッカを論拠薄弱と一蹴した。
それも致し方のないところがあった。
まだ駆けだしの若輩と軽く見られたこともあろうが、何より北方のクレスト領主が、大陸の逆端トラビアなどに、今時分いようはずがないのだ。それに加えてラルッカには、情報の出所を明かすことができない。トラビアを襲撃した一行は、かの地の領主を担ぎ出すことに失敗している。
広い会議室に敷きつめられた窓の下の赤絨毯に、鈍く西日が射していた。
飴色の卓の一同は、眉をひそめてざわめいている。囁きかわすその中には、哀れむような苦笑いも混じっている。
「意見は出つくしましたか」
卓にしなやかな手をついて、上座の青年が席を立った。
ざわめきが吸い込まれるように引いていき、一同の注目が彼に集まる。
「諸君」
落ち着いた声で改めて呼びかけ、領主代行アルベールは、一同に視線をめぐらせた。
「反攻に転じる時がきた」
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