CROSS ROAD ディール急襲 第3部2章7
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 壁に手をつき、すがるようにして、ファレスは昼の街路を睨んだ。
「──たく──あいつら〜っ!」
 気持ちよく昼寝して、目が覚めたら、いなかった。
 卓にあった書き置きによれば会計は済んだようなので、つまり置いてけぼりを食わされたのだ。連れてきたキツネとハゲに。
 それでやむなく遅まきながら、宿の寝台を抜け出して、こうして町まで出てきたが──。
 ほんの一区画進むごとに、前かがみで、ぜーはー休憩。煉瓦の街角で手をつく始末。
 顔をゆがめて腹を押さえ、ファレスはうなって行く手を睨む。やっぱりだ。
 やっぱり、すこぶる体調が悪い。どういうわけだか、阿呆がいないと。
 そうだ。やっぱり必要だ。健全な肉体と精神のためにも、ぜひとも阿呆が必要だ!
 キツネとハゲには内緒だが、あの阿呆をとっ捕まえたら、即刻逃げるつもりでいた。
 阿呆とはすなわちあの客のこと。領家の奥方エレーン・クレスト。つまり、歴とした亭主持ちだが、領主はどのみち駄目なのだから、ぶん取ったところで問題ない。
 とはいえ、障害がないでもない。言わずと知れたキツネとハゲだ。根性のひん曲がったあの連中が、先に阿呆を見つければ、こそこそ隠しやがるに違いない。
 そして、最難関は、なんといっても、あのタヌキだ。
 あのケネルたぬきは澄ました顔して、阿呆を引き渡そうとしやがった。こっちにはなんの断りもなく。──いや、確かに予定はその通りなのだが、やっぱり、どうにも納得がいかない。
 どう考えても、阿呆の所有権はこっちにある。
 あのトウモロコシ頭のレーヌの漁師が、阿呆をこんがり丸焼きにしようと──いや、荼毘に付そうとしやがったところを、この手で断固阻止したからだ。あんな旨そうな飯も食わずに
 あの時阻止していなければ、になっていたこと確実だ。つまり、今頃は土の下。いわば、どこにもいないも同然だ。だったら、そっちはいさぎよく諦め、こっちがもらっても別にいい。
 そうだ、やっぱり、どう考えても、阿呆の所有権は、
 こっちにある
 ふと、手首に垂れさがる、鮮やかなひもが目についた。
「……あ? なんだ、こいつは」
 そわそわファレスは行く手を睨み、首をかしげて紐を引っぱる。まったく、とんと見覚えがない。いつから、こんなものが巻かれていたのか、なぜ手首に結んであるのか──行く手の街路を苛々睨み、もどかしい指で紐をほどく。「たく! なんだってんだ、鬱陶しい!」
 そういや起きたら足首に、なんでか鈴コロがくっついてたが、あっちはザイの仕業だろう。なんでかわかるキツネの仕業だ。あのキツネはたまにヒトを小馬鹿にする。だが、この紐こっちは違うだろう。むろん、あのハゲでもない。ハゲはなんでか撫でくりまわすが、別になんの利点もない、こんな紐切れの仕掛けはしない。
 ともあれ、当面の敵は、キツネとハゲだ。
 なんでか絡みつく手首の紐を、取って捨てるのもじれったく、前のめりで足を踏み出す。
「俺より先へは行かせねえ!」
 ずくん、と腹が脈打って、意識がどこかへぶっ飛んだ。
 
 
 

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