■ CROSS ROAD ディール急襲 第3部2章77
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嫌な予感が、していたのだ。
とてつもなく重大な、取り返しのつかないことが起きそうで。
足がすくんで動けなかった。
絶対、前に進みたくなかった。そう、あの時あんなにも、嫌な予感がしたではないか。
なのに、なぜ、警告を無視した。
なぜ、道を変えなかった。こちらを捜す海賊の手下と、鉢合わせになる前に!
親切で優しいあの彼が、あんなひどい目に遭う前に。
胸騒ぎは、ずっと、あった。
夕焼けにそびえる、ザルトの街壁を目にした時から。
だから訃報を聞いた時、本当に衝撃を受けたのだ。来るべきものが、ついに来たと。
とうとう来てしまったと。疑うべくもなかったから。
……いや、違う。そうじゃない。
始まったのは、もっと前だ。
事の起こりは商都の街。監禁されていた領邸から、助け出されたあの後の──。
セレスタンを襲った災難が、降りかかるべき相手は、ファレスだった。
本来、ファレスだったのだ。
ここで命が尽きるのは。脇腹を刺された、あの晩に。
荷馬車で瀕死のファレスを見た時、自分はどこかで知っていた。あの時遠ざけた死の気配が、舞い戻ってしまったと。だからファレスを抱きしめて、死に物狂いで追い払った。取りこもうとする死魔の手を。だから、軌道をねじ曲げた。
手を加えた自覚はあった。
ひそかで確かな手応えも。なぜ、そんなことができるのか、理由は自分でもわからない。
── いや、とうに知っている。あの彼に惹かれる理由も。
彼の気配がわかるのも。在るべき場所に還りたがる、この血のせいだということは。
この身に流れる彼の血が、常に元の主を捜して、居場所を検知することを。
そういえば、死を追い払ったあの直後、なにか不思議な心持ちがした。
肩透かしを食ったような。的が逸れた、というような。
そう、指の先をすり抜けて、するりと何かが逃げ去った。無形のよどみ──得体のしれない一群が。だから、ザルトで訃報に接して、心の底から絶望したのだ。
セレスタンだったのか──そう思った。的が移ったその先は。
ざわりとした手触りの、剣呑な気配がそこにあった。
誰かが死なねば、収まらない、そうした決まり事があるかのような。
何かが "命" を欲している?
時代が生贄を求めている?
取りこむべき魂の、数の帳尻を合わせるために、その空白を埋めるため、今も生贄を捜してさまよっているのだとしたら。
その的が、今もまだ、どこにも定まっていないとしたら。いや、狙いを定めたその先が、
── 今も、セレスタンを指していたら。
心の暗い深淵で、自分は確かに知っていた。やがて、それらが現実になると。
虚空にただよう 「未来の記憶」 を取り出せるようになっている。
あやふやだった手ごたえが、日増しに強く、確かになって──
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