CROSS ROAD ディール急襲 第3部3章29
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 咆哮で、景色が払拭され、別の像が滑りこんだ。

 硝子が砕けた乾いた地表を、砂風が虚しく吹きさらう。
 白く乾いた壁の名残りが、うつろに陽を浴びている。
 かつては天を突くほどに高かったのだろう、四角い箱型の建物が、途中で折れて、崩れている。
 都市の残骸のようだった。
 植物だけが繁茂する、がらんと凪いだ無人の街。 

 咆哮が、大気を揺るがした。
 地面が大きく揺れ動き、三つの巨大な火の玉が、うつろな空から降り注ぐ。
 空の高みから飛来した竜が、あぎとをあけて火炎を吐き、溶岩の川が傾斜を流れる。
 もうもうとあがる土煙の中、ガラガラ建物が崩れていく。天を突くほどに巨大なそれが。
 土煙に、景色が沈む。すべてが壊れ、潰え去る。
 焦土と化した黒い大地を、巨大なあぎとが呑みこんでいく。

 光景に、ユージンは眉をひそめる。
 一つの世界の終わりだった。すべてが闇に還っていく。
 地平を丸呑みした竜が、闇の彼方に去った後、真珠ほどの小さな光が、ぽつんとひとつ宙に残った。
 もろくもはかない小さな光。
 わずかに残された希望のような。誰かの切なる祈りのような。

「……これは」

 これは竜の見ている夢。かつて栄えた都の記憶。
 すとんと、不意に腑に落ちた。
 お前は "これ"を取り戻したいのか。

 故国を想って、竜はく。
 何度も、何度も、虚空に向けて。
 失ったものを渇望している。
 忘れることができずにいる。どうしても、どうしても、どうしても、

 ── どうしても、会いたい者がいる。
 
 
 

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