interval 5 〜 契約 〜
翠光が、まばゆく迸った。
それが羽ばたき、たち現れる。
輪郭だけの光彩が、木漏れ日の中にたたずんでいた。
白い装束の袖が舞い、風もないのに髪がゆらめく。
「久しぶりー。月読」
あぐらで夏草に座したまま、ウォードはそれに微笑んだ。
夏草に埋もれた膝先には、今まさに背を斬られ、息も絶え絶えの黒い髪。
淡い緑のゆらぎの中、それの桜色の唇は、うっすら微笑をたたえている。
カノ山近郊、西の森。
青い梢がそよ風に揺れる。
大気にゆらめく光彩が、少し首をかしげたろうか。
彼女の白い装束が、あるか無きかの風にそよぐ。
「──あい分かった」
うなずき、月読が眉をひそめた。
「だが、しかと約束はできかねる。いくら、国主の頼みとはいえ」
「……誰ー?」
「本当に覚えておらぬのか。己が何者であるのかを。我らが何故、こうした旧知の仲なのか」
「オレが閉じ込められてた所に、あんたが入ってきたんでしょー?」
「侵入したのはお前の方よ。しかし、あの邂逅より前、我らは知己であったはず。お前は遥か
遥か昔の開闢時、時空が三つに分かたれて、三つの
境域に芽生えた生命は、それぞれ種の生き残りを賭け、様々な姿に分化した。「ヒト」も膨大な亜流の一。だが、親たる境域に成り代わり、群れを統べるというならば、しかと取り決めをせねばならぬ。
よって、三つの境域は、地平を統べる 「ヒト」 の総代 「国主」 と契約を交わすべく、貴馬、天鳳、荒竜と霊獣を象り、顕現した。育んできた膨大な命を、努滅ぼすことのないように。
「しかし、お前も酔狂なことよの」
つくづくというように、月読が呆れた一瞥をくれた。
「自ら枯骨になろうとは。 咎とは本来、過ちを犯した当人が、その身で償うものであろうに」
「いいよ。オレは、それでいい」
膝の先で横たわる瀕死の彼女をウォードは見、梢の先の空をながめた。
「エレーンの罪は、オレが贖う」
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