ぐるぐるの森 

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 あっちかな? こっちかな? 
 出口はどっち? コンコンコン。

 
 まおくんは、森の中を歩いていました。
 道を聞きたいのです。誰か、いないでしょうか?
 
 すると、
 
「どうか、したのかい?」
 誰かが、声をかけてきます。
 
 そこにいたのは、《 タヌキどん 》でした。
 右手に 「 かよい 」 、左肩からは、自分のおなかほども大きな、お酒の 「 とっくり 」を下げています。
 まおくんは、わけを話しました。
「タヌキさん、タヌキさん、森の出口を教えてよ」
 《 タヌキどん 》は、ふんふん言いながら、聞いています。
 実は、《 タヌキどん 》は、修行中の身です。たぬき族にとって一番重要な「 化け学 」の単位を落としてしまったのです。
 まだ修行中の身ですから、「 とっくり 」 を持っていても、お酒を飲むことはできません。それは、全国たぬき協会の 「 きやく 」 で、きちんと決まっていることです。たぬき社会のルールは、守らなくては、いけません。
 けれど、この 「 大とっくり 」 は、「 かよい 」 と共に、たぬき一族の由緒正しきアクセサリーですから、いつでも、どこでも、ちゃあんと持っていなければなりません。それも、やっぱり、全国たぬき協会の 「 きやく 」 で、きちんと決まっていることです。
 話の途中で、修行中の《 タヌキどん 》は、「 おいらにも、《 ものしりフクロウ 》くらいに知恵があれば、落第なんてしなかったのになあ 」 と、照れたように笑いました。そして、
「ふーん、そいつは、気の毒なことだなあ……」
 困った顔のまおくんを見て、《 タヌキどん 》は、助けてあげたくなりました。
だって、世の中は、もちつもたれつ、「 助け合い 」です。それは、《 タヌキどん 》のざゆうのめいです。全国たぬき協会の 「 きやく 」 でも、確か、そういうふうになっていたはずです。じっちゃんからも、ばっちゃんからも、そう聞いています。
 《 タヌキどん 》は、うん! と、大きくうなずいて、どん! と、たのもしく胸を叩きました。
「おいらに、まかせといて!」
 《 タヌキどん 》は、とっても親切。
 だから、本当は知らないことでも、ちゃあんと、まおくんに教えてあげます。
「ありがとう、タヌキさん」
「いいってことよ!」
 まおくんは、両手を振って、意気ようようです。
 にこにこ歩くまおくんに、毛皮の腕を振りながら、《 タヌキどん 》は、「 いいこと、したなあ 」 と思いました。良いことをした後は、とっても、気持ちがいいものです。
 ちなみに、《 タヌキどん 》は、生まれてこの方、森から出たことは、ありません。

 
 
 
 
 
 
 
 

 
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