( 前のページ / ぐるぐるの森・童話館 TOP / 次のページ )
あっちかな? こっちかな?
出口はどっち? ポンポコポン。
まおくんは、森の中を歩いていました。
道を聞きたいのです。誰か、いないでしょうか?
「おっかしいなあ?」
まおくんは、首をひねって、歩いた道を振り返ります。
どうしたわけだか、行けども行けども、森の出口に辿りつかないのです。
さっき、《 タヌキどん 》に、ちゃあんと教えてもらったはずなのに?
なんだか、さっきよりも、森が深まってしまった気がしますが、気のせいでしょうか?
しかたなく、まおくんは、とぼとぼ森を歩きます。
しばらく行って、立ち止まり、まおくんは、困って、周りを見回しました。
すると、
んごおーっ! と、大きな音が聞こえてきます。
道の右側、大きな樫の木の下です。
「なになに!?」
飛び上がって振り向くと、黄色と黒のシマシマ模様が、白い毛皮のおなかを出して、ごおごお気持ち良さそうに寝ています。
大きな口を、ガーと開けて、たまにトラ縞の腕を、のっそり持ち上げ、ぼりぼり、おなかなんかも掻きながら。
そこにいたのは、《 トラりおん 》でした。
どうやら、今の大きな音は、《 トラりおん 》のイビキだったようです。
ガーっと開いた大きな口は、食べられちゃいそうで、恐いです。けれど、まおくんは、勇気を出して、近づきました。
膝を抱えてしゃがみ込み、白いおなかを、そーっと、なでて、寝ている《 トラりおん
》を起こします。
んごーっ! と寝ていた《 トラりおん 》のイビキが、んがっ!? と言ったきり、ピタリと止まりました。
まおくんは、ごっくん、と、ツバを飲み込みました。だって、
もしも、寝起きの悪いトラだったら……?
むくっと起き上がった途端に、大きな口が、ばくっと開いて、「 ごちそうさん!
」 と、食べられちゃうかもしれません。
はらはらドキドキ見ていると、《 トラりおん 》が、ぶっとい首を、むー……? と傾げて、起き上がりました。
肉球つきの、でっかい猫手を持ち上げて、ごしごし目じりをこすっています。そのまま猫手をペロペロなめて、ピンと長いおひげの手入れ。
そして、
「……なんだあ? おまえは?」
やっと、気づいたようです。
まおくんは、わけを話しました。
「トラさん、トラさん、森の出口を教えてよ」
けれど、《 トラりおん 》は、大きな口を、んがーっと開けて、あくびなんかしています。目の前でしゃがんでいるから、まおくんは、ふっ飛ばされてしまいそう。
《 トラりおん 》は、眠そうです。これでは、又、寝ころがってしまうかもしれません。
まおくんは、あせって、一生懸命、説明しました。
「ぼくね、タヌキさんに聞いて、こっちに歩いて来たんだけれど──」
《 トラりおん 》は、腰が抜けたような感じに、でれん、と足を投げ出して、ふんふん話を聞いています。まっ黒いまん丸お目目は、あくびの涙でキラキラです。
もぞもぞ、お尻を振り向くと、トラ縞の長いシッポを、ひょい、と器用に持ち上げて、下から、なにやら取り出しました。
でっかい猫手に、でっかい木の実?
ヤシの実みたいな硬そうなカラです。
茶色い木の実を、トラ縞の猫手でゴシゴシこすると、《 トラりおん 》は、はあ〜……っと、ため息をつきました。
「ふう〜ん。お前も、なかなか大変なんだなあ。オレも、いろいろ大変なんだよ。まあ、飲めや」
《 トラりおん 》が、茶色い木の実を、差し出しました。慰めてくれるようです。
くんくん匂いをかいでみると、ツンと強い匂いがします。まおくんは、顔をしかめて、聞きました。
「なあに? これ?」
「またたび酒」
お酒らしいです。
《 トラりおん 》は、どうやら、酔っ払って寝ていたようなのです。そういえば、お顔が赤いようです。
「ありがとう、トラさん。でも、ぼく、子供だから、まだ、お酒は飲めないよ」
まおくんは、丁重に、ご辞退しました。「 なんだあ? オレの酒が飲めねえってのかあ!
」 と、すごまれちゃうと恐いので。
《 トラりおん 》は、とろんとした目で、見ていましたが、
「そお? おいしいのに」
不思議そうにそう言って、ガーっと大きな口を開けました。
茶色い木の実を、ぐいっと高く持ち上げて、尖がった牙のいっぱい生えた大きな口へと、とぼとぼ、お酒を流し込んでいきます。
あーん、と大きく口を開け、ごっくん! と、それを飲み込むと、ぷっはあ〜! と、お酒臭い息を吐き出しました。《
トラりおん 》は、ご機嫌です。
けれど、
「……わかる〜? オレにだってね、オレにだってね、そりゃあ、色々都合ってもんがあるわけよ? オレだってね、オレだってね、好きで下っ端なんか、してるんじゃないのよ? ボスに命令されたら、行かないわけにはいかないでしょ? そうなんだよ。オレにだって、付き合いってもんが、あるわけよ。なのに、うちのカーチャンときたら、その辺のことが、全然分かってないんだよなあ……うちに早く帰れないのは、オレのせいじゃないのにさあ〜! なのに、うちのカーチャンときたらさ……」
《 トラりおん 》は、くだを巻き始めました。一人でブツブツ言いながら、ぐいぐい、またたび酒をあおります。
どうも、奥さんとケンカして、おうちから追い出されてしまったようなのです。それでも、だらしなく広げた左ももの下には、竹の葉の包みが転がっていて、ねじ曲がったぶっといトラ字で、" おみやげ " と書いてありますから、本当は、仲直りしたいのかもしれません。
" トラりーまん " 社会の掟は、厳しいようです。《 トラりおん
》は、ぐい、と、またたび酒をあおっては、はあ〜……と首を振っています。ガックリとうなだれた猫耳の丸頭からは、板ばさみ
" トラりーまん " の悲哀さえも漂います。
ちなみに、《 トラりおん 》のざゆうのめいは、「 暴飲暴食 」 です。
「じゃあね、トラさん。ぼく、もう行くね」
まおくんは、そそくさと立ち上がりました。
愚痴に全部付き合うと、とっても長くなりそうなので。
( 前のページ / 童話館【ぐるぐるの森】 TOP / 次のページ )
短編小説サイト 《 セカイのカタチ 》 / 童話館 《 ぐるぐるの森 》