ぐるぐるの森 

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 あっちかな? こっちかな? 
 出口はどっち? ホウホウホウ。

 
 
 まおくんは、待っていました。
 大きなどんぐりの木の根元で。
 両方の手で、頬杖をついて。
 
 森の中は、いっそう薄暗くなってきました。
 木々の先に見える空は、どんどん、どんどん、暮れていきます。
 まおくんは、心細くなってきました。だって、
 
 もしも、このまま、《 ものしりフクロウ 》が戻って来なかったら──?
 
 山端に落ちゆく夕陽を眺め、膝の間に頭を突っ込み、まおくんは、大きなため息をつきました。
「……ごめんねえ、おじいちゃん。ぼく、悪い子だったよ」
 近くの幹をよじ登った " それ " が、ふわり、と、まおくんの肩に、飛び乗りました。
 口を押さえて、クスクス笑い、肩の上で、あっちにこっちに飛び跳ねます。
 森の木々がサワサワ揺れて、まおくんの周りで歌います。
 
 あっちかな? こっちかな? 
 出口はどっち? かさこそかさ……
 
 あっちかな? こっちかな? 
 出口はどっち? 遊ぼうよ。
 
 あっちかな? こっちかな? 
 もっと、もっと、遊ぼうよ。
 
 あっちかな? こっちかな? 
 今日から、きみも、ぼくらの仲間。
 
 あっちかな? こっちかな?
 
 こっちかな? あっちかな? 
 
 ねえ、ねえ、どっちに行ったら、出られると思う?

 
 
 思わず、まおくんは、立ち上がりました。
 その途端、何かが、はらり、と、足元に落ちます。
 なんだろう? と、目をやると、
 
 こんな真冬に、真っ赤なモミジ?
 
 まおくんは、首を傾げてしまいました。
 だって、モミジは、秋の葉っぱです。そして今日は、クリスマス。
 けれど、何度見直しても、運動靴の右足の上には、5枚の葉っぱをピンと伸ばした、できたてホヤホヤみたいな真っ赤なモミジが、1枚、確かに乗っかっています。
 まおくんは " それ " に、手を伸ばしました。
 そして、
「そんな所に落ちてると、誰かに踏んづけられちゃうよ?」
 壊さないよう、そーっと、そーっと拾い上げ、今まで座っていた切り株の上に、両手で、ていねいに乗せてあげます。
 うん、これで、よし。
 
 まおくんは、森の奥を眺めました。
 あれから、ずいぶん、たちますが、《 ものしりフクロウ 》は、帰って来ません。
 飛んで行って、それっきり。なんの音沙汰もありません。
 
 切り株の上では、真っ赤なモミジが、まおくんに内緒で、カサリ……と、ゆっくり起き上がりました。
 右と左の端っこの葉っぱで、もぞもぞ腕組みしながら、見ています。
 
 まおくんは、空を仰ぎました。
 枝葉の切れ目に見える空は、紺色に染まって、夜の気配。
「……困ったな」
 いよいよ暗くなってきました。
 けれど、まおくんは、動けません。
 だって、「 すこ〜し、ここで待っておれ 」 と言われたのです。
 だから、待っていなければなりません。それは 《 ものしりフクロウ 》との約束です。
 
 けれど、

 《 ものしりフクロウ 》は、とっても不機嫌でしたから、もしかしたら、とっくに、よそへと飛んで行ってしまったかもしれません。
 今まで出会った動物達も、みんな、あんがい、いい加減でしたし……。
 
 時間は、どんどん過ぎていきます。
 こうして待ってる間にも、森の闇は、どんどん、どんどん、深まっていきます。
 どこかで、カサカサ音がします。
 影の落ちた大木が、ザワザワ枝を揺すります。 
 急に深まった茂みの闇が、真っ赤な口を、ぱっくり開けて、あっちで、こっちで笑います。カサカサ、カサカサ、カサカサ……
 真っ暗になってしまったら、どっちに歩いて行けばいいのでしょう。
 きっと、今よりもっと、分からなくなってしまいます。そうしたら、森に閉じ込められてしまうでしょう。
 そんなの、いやです。早く、おうちに帰りたい。
 まっ黒な闇が渦巻いて、まおくんの心を埋め尽くします。
 いてもたっても、いられません。それなら、いっそ──
 
 自分で、出口を探しに行こうか?
 
「──ううん。だめだ」
 まおくんは、首を振りました。
 約束は、守らなければなりません。どんなに、それが大事なことか、まおくんは、もう知っています。
 あの《 ものしりフクロウ 》は、「 すこ〜し、ここで待っておれ 」 と言ったのです。
 なんだか、ちょっと遅いけど、きっと、戻ってくるはずです。
 なんだか、ちょっと遅いけど、きっと、こっちに向かっています。
 なのに、勝手に、どっかへ行っちゃったら、
 
 約束を守って、戻ってきた時、とても困ってしまうでしょう?
 
 
 その時でした。
 真っ暗な森の奥から、何かが、猛スピードで、やって来たのは。

 
 
 
 
 
 
 
 

 
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