トモダチ 〜 さきちゃんとぼく 〜
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青くて広い空を、見ていた。
白い雲が、ゆっくり、のんびり、流れていく。
伸び放題のたくましい野草が、風に吹かれて、サラサラ鳴る。
箱の中には、湿った古い毛布。寒くはないけど、おなかがすいた。
すっと頭の上に影が差してきて、ぼくの体は、宙に浮いた。
顔を覗き込んできたのは、大きな瞳の、小さな女の子。
「おなか、すいてるの?」
その通りだ、と一声鳴いた。
「……ふーん、そっか」
驚いた。
この子、ぼくの言葉がわかるみたいだ。
どんなに「おなかがすいた」と訴えても、今までは、誰も聞いてくれなかったのに。
女の子は、ぼくの頭を優しくなでて、つたない足取りで歩き出す。
テクテクテクテクしばらく歩くと、奇麗なお家に辿り着いた。そんなに大きくはないけれど、ピッカピカの新品だ。
女の子が「ただいまあ!」と元気にドアを引き開けると、奥の間から、それを見た女の人が「あらあらまあまあ……」とスリッパをパタパタ鳴らして、駆けてきた。
「さき、どうしたの? その子」
「ひろった、そこの土手で。──ねーママ、牛乳! はやく!」
冷蔵庫から出した牛乳を、丸くて平べったいお皿にあけて、"ママ"
は、困った顔で、床に下ろされたぼくの前に、コトリと置く。
──やった! 三日ぶりの食料ゲットだ!
女の子は、"さき" ちゃんという名前らしい。
「おいしい?……ね、おいしい?」
──もちろん! 君はとってもいい人だね。
お肉があると、もっといいけど。
お礼に、ほっぺを舐めてあげる。ふわふわだ。
くすぐったそうに、さきちゃんは笑う。ぼくも幸せ。
さきちゃんは、膝を抱えて、ぼくの頭を撫でている。そーっと、そーっと。……ごめんね。今、ぼく、忙しい。
ママは、膝に手を置いて、覗き込むようにして、こう言った。
「……あのね、さき。この子は、ここでは、飼えないのよ?」
「どうしてぇ?」
「新築だから。爪で引っかかれたりしたら、お家が傷だらけになっちゃうわ。この子は大きくなりそうだし、お庭だってないし。第一、わんちゃんは、毎日、散歩をさせないと──」
「さきがするよ。だって、このこ、さきのともだちだもん」
へえ? ぼく達は、"トモダチ" になったらしい。
……うん、いいね。
ぼく達、トモダチ。
でも、今は忙しいから、ちょっと待って。
気がつけば、さきちゃんは、どうしてなんだか、泣いていた。
小さな手で、ぼくを抱きしめて、一生懸命、首を振る。ママに叱られたのかな?
許さないぞ。
さきちゃんを泣かせたら、ママだって、許さない。
だって、ぼく達 "トモダチ" だから。
ママは、困ったように溜息をついて、「仕方がないわね。パパに聞いてごらんなさい」と言った。
夕方、「ただいま〜」と、外から、誰かが帰ってきた。
さきちゃんは、早速、お出迎えに駆け参じる。もちろん、ぼくも、ついて行く。
さきちゃんに背中に乗っかられ、笑いながら靴を脱いでるその人は、体が大きくて、強そうだ。
すぐに、分かった。きっと、この人が、ここのボスなんだ。
だから、後ろに控えて、大人しく良い子で、尻尾を振る。
ぼくは、絶対に、逆らわないことにした。
その人の名前は、"パパ" といった。
"パパ" は、さきちゃんには、甘い。とっても、甘い。
そして、じきに、"ママ" には、とっても弱いことが、判明する。
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