トモダチ 〜 さきちゃんと ぼく 〜 ( 2 / 5 ページ )
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夜中、見回りの途中で、怪しい足音を聞きつけた。
速攻で、玄関に急行。
そして、バパの晩酌に付き合ってやる。
遅くになって帰ってきたから、ママは、お部屋から出てこない。夜更かしは、お肌に悪いから。
さきちゃんのとは違う、ガッシリ大きな堅い手で、パパは「お前は、いい奴だな〜……」と、ぼくの頭を撫でてくれる。
うん、任せて。
いつでも、聞いてあげるよ。パパの愚痴。
ふむふむ。
" ぶちょうのやつ " というのは、どうも、悪い奴らしい。これは、最近、頻繁に登場する超重要キーワードだ。
人間も、色々大変なんだな。
ぼくも、色々大変だけど。見回りとか、お散歩とか、ご飯とか。
パパが「お前も飲め」と勧めるから、ご相伴に預かった。
ちょっと目が回るけど、クセになりそうな味だ。「いい飲みっぷりだな〜、お前」と、パパがバンバン背中を叩く。
そうかい?
なんなら、ぼく、パパをいじめたそいつのこと、かじってきてやったっていいよ?
ぼくは最近、パパと大の仲良しなのだ。
もちろん、ママだって大好きさ。だって、ご飯をくれるから。
でも、さきちゃんが、一番、好き。
だって、ぼく達 " トモダチ " だから。
さきちゃんの足音が、ちょっとでも聞こえると、真っ先に玄関に飛んでいく。
誰よりも早く、お出迎えしたいから。
" がっこう " から、急いで戻って来たさきちゃんは、満面の笑みで、ぼくを抱きしめてくれる。
" らんどせる " を放り出して、ママにお小言言われたりするけど、気にしない。こっちに
" てんこう " してから、ママは、ちょっぴり、甘いらしい。
そして、お散歩。
ぼくの一番楽しみな時間だ。
でも、お昼だと " あすふぁると " で足の裏がコゲちゃうから、夕方からね。
涼しくなった土手道を、さきちゃんと歩く。
さきちゃんとぼくが、出会った場所だ。
この時間になると、同じように首をリードで繋がれたぼくの仲間が、あちこちから、わらわらと湧いてくる。ジョンに、タロウに、コジロウに……コイツラとも、最近、懇意だ。
仲間同士、挨拶をかわして、ちょっとだけ、近況報告、情報交換。
小太りのおばさんか、よく喋る細っこいおじさんに引っ張られてくる奴が多いけど、中でも、さきちゃんは、一番かわいい。えっへん。
ぼくのさきちゃんには、誰も、かなわないさ。
だって、さきちゃんは、ぼくの自慢の " トモダチ " なんだから。
……へえ? 珍しい。
さきちゃんと同じくらいの男の子だ。
今、そこの白いマンションから、出てきたらしい。あれは……
なんだ、" はやぶさ号 " じゃんか。
あいつ、いつもは、ママと散歩に来るのに。
──ああ、そうか。
それじゃあ、あいつが、噂の " じゅんぺい " か。
" はやぶさ号 " なんて、変てこりんな名前をつけたヤツ。
でも、自分の仲間をけなされると、大抵の奴は、怒るから、ヤツには、そんなことは言わないでおく。
早速 " はやぶさ号 " のところに挨拶に行く。近況報告♪ 情報収集♪
「……あれ? 香坂じゃん」
ぼくに引っ張られて息を切らしたさきちゃんに、" じゅんぺい " は、ぽかんと、そう言った。
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