トモダチ 〜 さきちゃんと ぼく 〜  ( / 5 ページ )
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 夜中、見回りの途中で、怪しい足音を聞きつけた。
 速攻で、玄関に急行。
 
 そして、バパの晩酌に付き合ってやる。
 遅くになって帰ってきたから、ママは、お部屋から出てこない。夜更かしは、お肌に悪いから。
 さきちゃんのとは違う、ガッシリ大きな堅い手で、パパは「お前は、いい奴だな〜……」と、ぼくの頭を撫でてくれる。
 うん、任せて。
 いつでも、聞いてあげるよ。パパの愚痴。
 ふむふむ。
 " ぶちょうのやつ " というのは、どうも、悪い奴らしい。これは、最近、頻繁に登場する超重要キーワードだ。
 人間も、色々大変なんだな。
 ぼくも、色々大変だけど。見回りとか、お散歩とか、ご飯とか。
 パパが「お前も飲め」と勧めるから、ご相伴に預かった。
 ちょっと目が回るけど、クセになりそうな味だ。「いい飲みっぷりだな〜、お前」と、パパがバンバン背中を叩く。
 そうかい?
 なんなら、ぼく、パパをいじめたそいつのこと、かじってきてやったっていいよ?
 ぼくは最近、パパと大の仲良しなのだ。
 もちろん、ママだって大好きさ。だって、ご飯をくれるから。
 でも、さきちゃんが、一番、好き。
 だって、ぼく達 " トモダチ " だから。
 
 さきちゃんの足音が、ちょっとでも聞こえると、真っ先に玄関に飛んでいく。
 誰よりも早く、お出迎えしたいから。
 " がっこう " から、急いで戻って来たさきちゃんは、満面の笑みで、ぼくを抱きしめてくれる。
 " らんどせる " を放り出して、ママにお小言言われたりするけど、気にしない。こっちに " てんこう " してから、ママは、ちょっぴり、甘いらしい。
 そして、お散歩。
 ぼくの一番楽しみな時間だ。
 でも、お昼だと " あすふぁると " で足の裏がコゲちゃうから、夕方からね。
 
 涼しくなった土手道を、さきちゃんと歩く。
 さきちゃんとぼくが、出会った場所だ。
 この時間になると、同じように首をリードで繋がれたぼくの仲間が、あちこちから、わらわらと湧いてくる。ジョンに、タロウに、コジロウに……コイツラとも、最近、懇意だ。
 仲間同士、挨拶をかわして、ちょっとだけ、近況報告、情報交換。
 小太りのおばさんか、よく喋る細っこいおじさんに引っ張られてくる奴が多いけど、中でも、さきちゃんは、一番かわいい。えっへん。
 ぼくのさきちゃんには、誰も、かなわないさ。
 だって、さきちゃんは、ぼくの自慢の " トモダチ " なんだから。
 
 ……へえ? 珍しい。
 さきちゃんと同じくらいの男の子だ。
 今、そこの白いマンションから、出てきたらしい。あれは……
 なんだ、" はやぶさ号 " じゃんか。
 あいつ、いつもは、ママと散歩に来るのに。
 ──ああ、そうか。
 それじゃあ、あいつが、噂の " じゅんぺい " か。
  " はやぶさ号 " なんて、変てこりんな名前をつけたヤツ。
 でも、自分の仲間をけなされると、大抵の奴は、怒るから、ヤツには、そんなことは言わないでおく。
 早速 " はやぶさ号 " のところに挨拶に行く。近況報告♪ 情報収集♪
「……あれ? 香坂じゃん」
 ぼくに引っ張られて息を切らしたさきちゃんに、" じゅんぺい " は、ぽかんと、そう言った。
 
 
 

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