【 おまけSS.22-140212 】 『ディール急襲』第3部 opening-2 「荒れ野にて 」 〜
おっかけ道中ひざくりげ
〜 副長とゆかいな仲間たち(?) 〜
その1
「けど、あいつ、辛抱できますかねえ?」
セレスタンは腕組みで首をひねった。
「──いや、だってあいつ、あんな大人しそうな顔しといて、実は、微妙にガキじゃないでしょ? 姫さんは気にしてないようだし、奴も姫さんの前じゃ、いい子にしてるようすけど、結構キツくないっすかー? 夜、姫さんと二人きりとかって──」
「あ、バカっ!」
あわてて彼方から飛んできたザイが、その口をふさぐが遅かった。
立ち寄った駄菓子屋の店先で、おやつは一人500カレントまでなっ! とうきうき両手に握りしめていたファレスが、ひくり、と即座に動きを止めた。
そして、それから数分後、
昼ののどやかなトラビア街道を、雄たけびあげて爆走する(近隣住民には傍迷惑きわまりない)馬の一団があったのだそうな。
ちなみに、うっかり口を滑らせたハゲが、地獄を見たことは言うまでもあるまい。
その2
こんもり盛りあがった寝台のシーツを、ザイは呆然とながめやった。
「……まさか、あの副長と、寝泊まりする日がくるとはな」
夏日ぽかぽか昼さがり、ひなびた宿屋の一室である。窓際によせた寝台で、シーツを引っかぶっているのは副長ファレス。
あのあと馬に飛び乗って、ばく進したまでは良かったが、まだいくらも行かない内に、突如くったり伸びたのだった。
セレスタンは長身を折り、やれやれと寝顔を覗いている。「もー。そんな無理するから。そんな体で、馬に乗るとか無茶っすよ。腹に穴があいてんすよ?」
ザイは壁にもたれて腕をくんだ。
「よく甲斐甲斐しく世話が焼けるな」
セレスタンのデコには、ぺったり貼ったバンソウコウ。ファレスに踏んづけられた跡もある。
「恩人だからね、この人は」
セレスタンは笑って、ファレスの髪から、枯葉をとる。どこでゴロゴロしてきたか、今日のファレスは、なんか色々汚れてる。
ぐぬぬ……と顔をしかめたままで、ファレスは手足を縮めて丸まっている。水だ、タオルだ、靴下だ──と、セレスタンはせっせと、つきっきりで世話を焼いている。
そう、馬上で伸びたファレスを見、とたん、張りきり出したのはハゲである。あわてて馬から引きずりおろし、あぜんと突っ立ったザイに構わず、強引に宿まで運びこんだ。顔を引きつらせた猛ダッシュで。
いささか呆れて、ザイは言う。「──おい、あんまり構うなよ。また、ぶっ飛ばされてもしらねえぞ」
「もー。こんな丸まって。かわいいんだからあ副長ってば」
「……。お前、妙な気は起こすなよ?」
一瞬、ザイは微妙に固まる。
「そりゃ、確かに副長は、下手な女より整った面だが、サカったハゲの一匹や二匹、寝てても軽く斬り捨てるぞ」
こんな所で刃傷沙汰はご免だからな、と半ば本気で釘をさし、げんなりファレスに目を向けた。「それはそうと、寝ちまったら寝ちまったで厄介だな。現場に急行しようにも、どうやって起こしたもんだか」
隊長の寝起きが最悪なのは公然の秘密であるのだが、誰とも寝泊りしないファレスには、そうしたデータは存在しない。
はあ、とザイは頭を掻く。「俺らじゃ副長に太刀打ちできねえしよ」
「あー、それは大丈夫」
「とりあえず、お前がぶん殴られとくか?」
「起こそうと思えば、簡単に起こせる」
「──お前が? どーやって」
ザイはうさんくさげに見返した。ハゲは事もなげに言い放ち、なぜか自信満々だ。
まあ、見てろよ、とセレスタンは笑い、ファレスの耳元に背をかがめる。
すぅ、と息を吸いこんだ。
「あ、姫さん?」
がばっ、とファレスが、即行、枕から顔をあげた。
「あ、人違いだった」
枕に手をつき、しばし、うつろに停止していたファレスが、ぱたり……と再び突っ伏した。
な? と笑って、セレスタンは親指でさす。
「……お前、副長で遊ぶなよ」
ザイは溜息まじりに額をつかんだ。わたわた心配したかと思えば、その相手で嬉々として遊ぶ、よくわからないハゲである。
シーツから覗くファレスの頭に、セレスタンはまだ引っついている。うるさげにシーツに潜りこんでいるところをみると、あれは絶対迷惑だ。
ザイはたまりかねて顔をしかめる。「おい。そろそろ、いい加減にしとけよ。いつまで、そうしてじゃれてんだ。お前は本当に副長が好きだな」
「あ? お前のことも俺好きよ?」
「遠慮しとく俺は別の部屋をとる」
ざわり、と背筋に悪寒が走って、ザイは即行戸口に急ぐ。
セレスタンが不服そうに肩をすくめた。「なんで、みんなして拒否るかな〜。こんなに純粋な好意なのに」
(なんだよこのハゲ。全然こたえてねえくせに)
白けた目を天井に向け、ザイはさっさと出口に向かう。そもそも相手は他ならぬハゲ、ぶっちゃけ暗殺のスペシャリストだ。へらへら笑ったその直後、寝首かかれそうで、そこはかとなく恐い。
「なんか、隊長にも拒否られたしさ〜」
やれやれと続いた愚痴に「……あ?」とザイは足を止めた。「隊長?──お前、隊長に何したんだ」
このところ崩壊した副長とは違い、オモチャにしていい相手ではない。
かたわらの壁で腕を組み、セレスタンはくすくす笑っている。一体何を思い出したか、にっこり笑顔で振り向いた。
「んーん。別に。なんでもない」
「……。(気になるじゃねーかよ)」
ザイはもやもや立ちつくす。
ハゲの正体がどうも気になる、今日この頃のザイである。
その3 〜 とある朝のできごと 旅の宿にて。 〜
「わっ!?」
とエレーンはとび起きた。
あお向けに寝たまま硬直する。
いや、うかつに寝床から起きられない。だって、視界の真ん中に、ウォードの顔のどアップが。
とりあえず、えへえへ笑ってみた。「……お、おはよー、のっぽ君」
「うん」
「あー……えっとー……」
なにしてんの?
「顔みてたー」
はっ、とそれに気がついた。
「ど、どしたののっぽ君!? 目の下にクマが!」
「眠れなかったー」
「もしかして一睡もしてないの!? お、おなか痛い? あ、背中? 背中いたい? あたし、さする?」
「……」
「あっ。トラビア行くの、やっぱ、やだ?」
「……」
ウォードはぐったりうなだれた。
「あんたの頭は平和だねー」
はあ、と嘆息、背を向ける。「あっちいってー」
「へ?」
「寝るー」
「──あ、でも、のっぽ君?」
「あんたがいると眠れないー」
「……」
ウォードは肩越しに手を振っている。なぜか、とっても、なおざりに。
エレーンはもそもそ寝床に正座。起床するなり、まごまご、おろおろ。なぜだろう。なんでか彼がとっても
つれない。
その頃、追っ手、副長ファレスは、
「な、なんだ……?」
辺りをきょろきょろ、首をかしげる。
ぶるり、とわが身を抱いて身震いした。
「寒気がする……?」
お粗末さまでございました。 (*^o^*)
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