【 おまけSS.27 141209 】 『ディール急襲』第3部
 

おっかけ道中ひざくりげ

 〜 副長とゆかいな仲間たち 〜

  その6 の6
 
 
「よさねえか!」
 ザイは割りこみ、禿頭の肩を押しのけた。
 目を丸くして振り向いた彼女を、有無を言わさず強引にもぎ取る。
 セレスタンが面食らった顔で振り向いた。「──なんでいんの、お前」
「いつまでやってんだ。茶番はよせ」
「なんの話?」
グル・・なんだろうが、連中と!」
「──グルって誰と。さっきから一体なんの話よ」
 言い合う二人を、彼女はおろおろ交互に見ている。
 その腕をザイは引っぱり、通りの先へと連れ出した。
 
 
 街角の壁に取りついて、道の先を盗み見た。
 あのザイには気づかれぬよう、そぉっと首を突き伸ばし──
「おう、何してんだ」
 ぎょっ、とセレスタンは振り向いた。
 知っているどころの騒ぎではない顔が、ふんぞり返って立っていた。革の上着と編み上げの靴。まんなか分けの薄茶の長髪。そして、ふてぶてしい三白眼。
「ふ、副長……」
 セレスタンは引きつり笑い、ぎくしゃくファレスに向き直る。
 怪訝そうに、ファレスが見ていた。壁裏に潜んだその様が、不審だったらしいのだ。
 セレスタンはさりげなく横に移動し、ファレスの視界から路地を遮る。「き、奇遇っすね。こんな所で何してんすか──あ、ああ、馬たちは?」
「……。おう──馬な」
 ふと、ファレスは口ごもり、もそもそ道端へ目をそらす。「ちょっと──今はちょっと、休憩中でよ……」
「そ、そうっすよね〜」
 セレスタンは揉み手でへつらい笑い。「て、手強いっすもんねえ〜、あいつらときたら」
「まあな。全然動かなくてよ」
「そうでしょそうでしょ言ったでしょ?」
「そこどけよハゲ」
 左右に揺れる禿頭の盾に、ファレスは鬱陶しげに顔をしかめる。
 セレスタンはへらへら手を振った。
「見たって、なんにもないっすよ〜。ほらね。どうってことない、ほんのつまらない路地ですって。ねっ? ねっ? ねっ?」
「何そわそわしてんだ、てめえ」
 明らかに不審な顔になり、ファレスが路地をじろじろ覗いた。
 ぐい、とセレスタンを押しのける。
「なんだ、ザイと……双子のアレ(←やっぱり特定できない)じゃねえかよ。何してんだ、あんな所で」
「──うっわ! 副長! ちょっとちょっとちょっとおっ!」
 ずかずか無造作に踏み出した進路に、セレスタンはすかさず立ちふさがる。「だめっすよ! 今はちょっと──」
「ちょっとなんだよ、どけよハゲ」
「だ、だめですってば!」
 がしがしファレスに取りつかれ、セレスタンは全力で防衛。こんな無粋なのが出て行けば、せっかくの雰囲気がぶち壊し──ひょい、とファレスが向こうを覗いた。「しかし、あいつらが知り合いとはな。おーい、ザ──」
「あっ!? シィーッ! シィーッ! シィィィイーッ!
 セレスタンは飛びあがって、その口をふさぐ。「ほっときましょうよ、あっちのことは。ねっ? ねっ? ねっ?」
「なんで邪魔すんだつるっパゲ」
「副長にはレベル高いっすよ。あっちはあっち、こっちはこっち。ねっ?」
 己を指さし、ささっ、とファレスの肩を抱く。「副長には俺がいるじゃないっすか〜。ねっ?」
「──やめろっ!」
 ぎょっとファレスが飛びのいた。
「どさくさに紛れて、なつくんじゃねえ!」
「えー。なんでっすか〜?」
 セレスタンは悲しげに眉尻を下げる。「副長と俺の仲じゃないっす(か〜)」
どんな仲だっ!? 来んじゃねえっ!」
 引きつり顔で肩越しにガン見し、街角の向こうにあたふた逃げこむ。
 セレスタンは頬を引きつらせた。
「……そ、そんなにあからさまに嫌がんなくても」
 ともあれ、苦笑いで「ばいばい」と手を振り、遠のく二人に目を戻す。人通りのない日陰の道を、二人は連れ立って歩いていく。
「これからがイイとこ・・・・なんだよな」
 口数少ない二人をながめ、セレスタンはぶらぶら足を向けた。二人の行く末を見届けるなら、野暮なファレスはいっそ邪魔。一々訊くから気が散るし。
 ちら、と肩越しに盗み見た彼女に、笑って口パクで手を振った。
( そーそー。その調子・・・・。がんばって! )
 
 
 こうして連れ立って歩いても、決して隣に並ぼうとせず、彼女は後ろをついてくる。
 むっつり口をつぐんだままで。
「……商都にいて、くれませんかね」
 非難がましい視線を背に浴び、ザイは浅く息をついた。
「横暴だってのはわかっていますが、今はマジで危ねえんスよ。国境のある西の方へは、近づかない方がいい。頼みますから」
 背を向けて歩きつつ、ザイは彼女の応えを待つ。
 だが、返事は、やはりない。
 ザイは無為に視線をめぐらせ、午後の晴れた空をながめる。「──ラナさん」
 もう一度浅く嘆息し、ぶらぶら歩きの足を止めた。
「商都に戻って、待っていて下さい。こっちの片が、すっかりついたら──」
 つかの間、先を言い淀んだ。胸の奥に、苦さが広がる。
 覚悟を決めて口をひらいた。
「都合をつけて、迎えに行きますから」
 肩越しにうかがえば、彼女はうつむき、身を固くしている。どんな表情を浮かべているのか、前髪の陰になり、わからない。ためらうようにもじもじ身じろぎ、足元に視線をさまよわせている。急な話で戸惑っているのか──。
 思い切ったように顔をあげた。
「いやです」
「……は?」
 ザイは拍子抜けしてまたたいた。
 予想だにせぬ番狂わせに、あぜんとして振り向けば、ラナが軽く睨みつけていた。
 その顔をふいと背けて、後ろの街角を振りかえる。
 怪訝にそちらへ目をやれば、"それ"があわてて引っこんだ。
 ラナはつかつか足を向ける。
「行きましょう! セレスタンさん」
「……え? お、俺?」
 引っぱり出された禿頭が、泡くって彼女を見おろした。ラナは構わず、その腕を引っ張る。
「ちょ、ちょっと待って、ラナさん。何を──」
 うろたえた顔のセレスタンが、たたらを踏んで引きずられていく。ラナは応えることなく歩いていく。
 だしぬけに、その足を踏みとどめた。
「なんで、そんなに勝手なの?」
 腹立たしげにつぶやいて、肩越しにザイを振りかえる。
リナの次は・・・・・わたしなの? どれだけからかえば気が済むの? わたしの気持ちを知りながら、そんなことを言うなんて!」
 とっさに、ザイは返事に詰まった。「からかう気なんざ、俺には毛頭──」
「ごきげんよう!」
 髪を払って、ラナが憤然と踏み出した。
 
 
 

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