【ディール急襲】番外編1−14

番外編 「メガネちゃん狂想曲」 14
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「もぉー。かーまーかーぜえー」
 むに、と口を尖らせて、相手は仁王立ちでぶんむくれている。
「なによー。あたしに話ってえー」
「あんたに話なんぞありませんよ」
「はあ? なによそれ。来いって言うから来てあげたのにぃ!」
 戸口にすがり、ぜえぜえ息を切らしたオフィーリアを、ザイは溜息まじりに振りかえる。
「なんスか、コレは」
 くい、と親指でさされたリナが、はあぁ!? とまなじり吊りあげた。
「コレってなによ! コレってえ!」
 両手を腰に押し当てて、ザイの全身をじろじろ見やる。「あんたこそ、なにその格好。痴漢?」
「あんたもたいがい失敬スね」
「痴漢で悪けりゃ泥棒ってとこ? なにその真っ黒けっけの格好は」
「目立たないでしょ、この方が」
 ザイはシャツの襟ぐりを指で引っ張る。ふふん、とリナは顎を出した。
「へー。やましい自覚はあるわけだ」
「そりゃ、気は使うでしょ? 一応は」
 俺だって捕まって袋叩きはごめんスよ、とザイは肩をすくめている。
 オフィーリアはわたわた二人を見た。月明かりの部屋の中、壁で腕をくむ黒ずくめのザイと、寝巻き姿のふくれっつらリナが、しらっと視線を向けている。
「え? え? でも、だって……」
 二人を口パクで交互に見、上目使いでザイを仰いだ。「あ、あのぉ〜……?」
 ザイはつくづく嘆息する。「まったく、あんたは──。利口なようでいて、やっぱりどこか抜けてますねえ。だが、まあ──」
 ふっと笑って見返した。
「案外いいとこ、ついてますよ」
 ずだだだだ──と板床を蹴る振動が、夜更けの寮を震わせた。
 大勢が一斉に走る音──。
 ザザッ──と急停止の音がして、廊下にあいた戸口の向こうに、いくつもの顔が、にゅっと出た。
「「「──か、かまかぜっ!?」」」
「はい。こんばんはー」
 驚愕の面々に指さされ、ひょい、とザイは振りかえる。
「「「 なんでいんの!? 」」」
 轟音とともに殺到したのは、目をまん丸くした女子一同。向かい合ったザイとリナとを、あんぐり交互に見比べている。
 興味津々の人だかりの中、ずい、とリナが腕を組んだ。
「そーよ、そもそも、なんでいんのよ。ここがどこだか、わかってんの?」
「ラトキエ領邸、従業員宿舎。メイドさん達の女子寮でしょ?」
 そう、男子禁制、禁断の女子寮。夜もどっぷり更けたので、集合した女子一同、頭にカーラー、寝巻き姿。
 きいっ、とリナはいきり立つ。
「男がいても、いいと思ってるわけっ!?」
「いいわけないでしょ。女子寮でしょうが」
「だったらなんで、あんたがいんのよっ!」
「用があるからに決まってんでしょ?」
 つけつけ応酬、しれっとザイは顎を出す。
 それに、と続けて、ぼそりとごちた。「──とっとと片をつけとかねえと、いつまた危ねえ真似を仕出かさねえとも限らねえし」
「なにを騒いでいるんだ。床が抜けるぞ」
 男の咎める声がして、ひらいた戸口に別顔が覗いた。
 白髪頭の部屋着の男。
「──す、すみません、お騒がせして」
 あわててオフィーリアは頭を下げる。
 先ほど詰め所で目覚めた時に、飲み物をくれた門衛だった。皆がこの部屋に殺到し、ばたばた廊下を駆けたから、寮内最年長のこの彼が、様子を見にきたのだろう。
 年配の門衛は視線をめぐらせ、目を見開いて、ザイをさした。「──あっ! あんた! なんで!?」
「ああ、先だってはどうも」
 そつなくザイも会釈する。
 オフィーリアは呆気にとられ、年配の門衛をおずおず見た。「あの、ザイさんをご存知なんですか?」
「ご存知もなにも」
 門衛はぶっきらぼうに目を向けた。
「この人だよ、あんたを馬車から助けたのは」
 え? とオフィーリアはぱちくり固まる。
 だが、と門衛は言葉を続け、室内のザイを不審そうに見た。
「あんた、なんで、ここにいんの。女子寮だよ、わかってる? こんな夜分に──というか、どうやって中に入ったんだ?」
 今更そこに気づいたらしく、あわてて辺りをきょろきょろ見まわす。
 ザイは軽く肩をすくめた。「ご心配なく。もう、おいとまするところスよ。を片付けにきただけなんで」
「用? この部屋に、かい?」
 ぽかん、と門衛はオフィーリアを見た。
((( ……夜這い? )))
 の意訳が一同の脳裏を瞬時に飛び交う。
「うっきゃあー!?」と黄色い歓声があがった。
 同僚女子が瞠目し、一斉にオフィーリアを振りかえる。
「「「 ちょっと! なになに? どーゆーこと? 」」」
 詰め寄られ、たちまち埋まるオフィーリア。
 門衛はやれやれと横目で見、ザイを見やって腕を組んだ。
「そうは言っても、あんたねえ」
「かたいことは言いっこなしで」
 ちょい、とザイは片手を振る。
 年配の門衛は渋い顔。「それで済んだの? あんたの用は」
「まあ、九割方は。物を返しにきただけなんで」
 ザイは喧騒に指をさす。そこでは、オフィーリアがあたふた揉まれている。
 門衛は、やれやれと頭を掻いた。
「まあ、今回は特別に、大目に見るとしようかね。うちの者が世話になったことだし。でも、なるべく早く帰りなさいよ?」
 軽い溜息で釘をさし「ほれ、あんたらも引きあげた!」と女子団を廊下へ追い立てる。
 よれよれになって渦中から抜け出し、ふと、オフィーリアは顔をあげた。「──あ、あのぉ〜」
「はい。なんでしょう」
「わたしに返す物というのは?」
 ぬっ、とザイは顎を出す。
「ハゲになんか やらしいこと されませんでした?」
「……はっ?」
 ザイが無造作に右肩を引いた。
 腰の辺りを探っている。 肩を起こしたその二指に、ぴら、と白っぽい紙のようなもの。
「わっ、わたしの手紙!?」
 ぎょっ、とオフィーリアは引きつった。
 ザイはぴらぴら軽く振る。「あのハゲ手癖が悪いんで、気ィつけた方がいいっスよ?」
「あああのっ! その手紙はそのっ!」
 あわててオフィーリアは手を出した。ひょい、とザイはひっこめる。
「お節介なハゲってのは、どこにでもいるもんですよ」
 ──いや、絶対、それはない、と突っ込む余裕は微塵もなく、ぽかんとオフィーリアはザイを見た。「……今、わたしに返すって」
「気が変わりました」
 はっ? と固まったオフィーリアをしり目に、ザイはもそもそ隠しにしまう。
白い馬、、、は生憎ねえが、茶色い馬なら、ありますよ」
 ゆっくりと顎をなで、思案顔で天井をながめる。「まあ、そういう取り決め、、、、でしたしねえ」
「……とりきめ?」
「あんたには背後、とられちまったし」
 苦笑いして、オフィーリアを見た。
「初めてですよ、足で俺を負かした奴は」
 あっ、とオフィーリアは目をみはった。そう。昨日の鬼ごっこ。捕まった者には、こんな罰があったはず。
 ──鬼の言うことを、なんでもきく。
 ザイがおもむろに目を向ける。
「お友だちに、なりますか」
 オフィーリアは目をみはった。
 彼が隠しにしまいこんだ、薄桃の便箋の文面は、考えあぐねて綴った想い。
 
 『 お友だちになってくださいませんか? 』
 
 

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