【 番外編2 INDEX 181231 】
ファレスのお留守番日記 2
街をうろうろ、腕組みで徘徊していたファレスは、お? とひらめき、足を向けた。
商都北方。ラトキエ領邸、使用人宿舎。
忽然と消えたあの客の、友だちの双子がいるんである。
と、メイド服を早速発見。
けれども、ここで問題も発生。
(……あ? どっちだ?)
そう、なにせ相手は双子なんである。
なので、顔かたちが瓜二つ。前にも事故も起こしてる……
──まあ、いいか、と適当にうっちゃり、そこは賭けだが、呼び止めた。
「よお! 泣き虫女!」
途端、ドタ──と街路樹から落ちてくる人影。
地べたに這いつくばった相手を認め、きょとんとファレスはまたたいた。
「……あ? なんで、てめえがいんだ、ザイ」
顔をしかめ、よろよろ腰をさすっているのは、このところめっきり見かけなくなった「鎌風のザイ」その人である。
珍しく着地に失敗した特務の長に首をかしげて、ファレスは「そんなことより」と渋面を作る。
「どうにかしろよ、お前のアレ。店に集団で居座りやがってよ」
双子の片割れ、メイド服のラナは、二人の顔を交互に見ている。
ザイはそわそわ彼女を盗み見、心ここに在らずで片手間な返事。「──なんスか、いきなり」
「だから、てめえの女の話だろうがよ。あいつら、店を占拠して毎日うるせーのなんのってよ」
(……は?) の顔で固まるザイ。
すぐに気を取り直し、修正すべく口を開く。
その直前のことだった。
「そう、集団で」
おどろおどろしいほど冷ややかな、低い女声が要点を復唱。
ぷい、とラナが髪を払って背を向けた。
すたすた歩き出したメイド服の背を、弾かれたようにザイは追う。
「ちょ、ちょっとラナさん? 何か誤解してるでしょ。──いえ、そうじゃないんですって。今のはそんな浮いた話じゃ──」
「よく、わかりました!」
ぎろりとラナは取りなしを一蹴、ずんずん道を歩き出す。
「なによ! 言い訳なんて男らしくないったら! 商都に戻ったって聞いたのに、会いにも来ないと思ったら!」
「ですからそれは、真っ赤な誤解──」
ぴたりと足を止めた振り向きざま、パン!と小気味良い音がした。
「あらあ! よろしいんじゃございませんこと?」
べえ、とラナが舌を出し、スカートの裾をひるがえす。
駆け出したその背を無為に見送り、ザイがへなへな、頬を押さえてへたり込んだ。
「ラ、ラナさん……?」
どっぷり黄昏たその肩に、ファレスはきょとんと目を戻す。
「おう。どした」
「……あんた、ねえ」
ザイが額をつかんでうなだれた。
「なんで言いますかね、そういうことを。つか、何しに来たんスか、宿舎なんぞに」
「おう。それよ」
微妙で繊細な男女の機微にヒビを入れたことになど一切気づかず、我が意を得たり、とファレスはうなずく。
「ちょっと、あの泣き虫女に確かめておきてえことがあってよ」
「確かめたいこと? なんスか一体」
「たく。ハゲが真顔でからかいやがってよ。事もあろうに、阿呆のことを、知らねえとか抜かしやがって、話がさっぱり通じねえ。なら、阿呆のダチと話をさせりゃ、さすがにハゲも観念すんだろ」
「で、」
わずらわしげにザイは嘆息、いぶかしそうに振り向いた。
「誰なんスか、その阿呆ってのは」
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